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練習試合から帰った後の未央は以前にも増して練習した。リンクを使える時間は限らられているので、それ以外の時間は陸上でも練習していた。
特に、俺が教えた新たな技の習得には執念を燃やしていた。正直、一週間そこからどうにかなるわけがないと言うことは俺自身がよくわかっているが……。
「あいつ、結構頑張ってるだろ?」
リンクの外で待機していたレイカに、俺はそう語りかけた。すると彼女は「そうね」と頷いて。
そして少ししてから付け加える。
「――せいぜい、昔の私くらいかな」
彼女は特に感情を見せず、淡々とした口調でそう言った。
でも、それが彼女にとって最大の褒め言葉なのだと言うことはよくわかっている。だって、俺はその「昔の私」がどれくらい練習していたか、よく知っていたから。
「奇跡も、起きるかもね」
――レイカは、確かにそう言った。
いくら未央が天才でも、スケートを初めて4ヶ月でいきなり公式戦で優勝するなんて、普通に考えたら絶対無理だ。
でも、未央にはもしかしたらと思わせる力があった。無限の可能性を秘めているような、そんな気がした。それはレイカも感じているのだろう。
それに――レイカ自身が関東大会で無謀な戦いを挑もうとしているのだ。未央のことを否定すれば、それは自分の可能性をも否定することになる。
レイカも関東大会で、全日本出場をかけて滑る。だが、今だに二回転ジャンプしか跳べない状況だ。かつて四回転さえこなした少女が、凡人でも跳べる三回転さえ跳べないまま、試合のリンクに立とうとしている。
普通に考えれば、レイカが全日本にいける可能性は本当に低い。それに、全日本に出たところで結果を――彼女がかつて望んでいたような結果を――出せるわけがない。
でも、彼女は諦めていないようだった。
「――奇跡は起こせるよ」
と、彼女は言い直した。
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