第3章 暴力が生むもの
ライが昼間から酒を飲んでいると、学生のカツアゲに遭遇。無事助けたライだが少年が放った言葉とは!?
私は「ライ」
人の記憶を売買する古物商を営んでいる。いささかロリ体型なのは致し方ないのだが、さっきもビールを買おうとしたら店員の目線が疑いの目であった。
こっちには免許証も住基カードも保険証もあるので、準備万端なのだが!
今日は久しぶりに昼からビールと洒落込んで、公園でParty Peopleになろうと決意し、おつまみやらビールやらZIMAやらスミノフやらを買い込んだのだ。
しかしZIMAってイベントで飲むのは美味しいけど、昼間に飲むと激まずだよね。と思いながらレジャーシートを広げ、500mlのASAHIを開けた。
「極楽、極楽〜!世のサラリーマンよ!大いに働いてくれ!その血税で私は昼からビールを飲めるのだから!」春めいた風がこのメッセージを、向かいのビルのデスクに届きそうでもある。
寄って来る鳩と2時間くらい目線で激闘していると、何やら聞こえてきた。
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「すみません…これだけしかなくて……え?」
私は耳をすませる。おいおい、なんだなんだ、ただ事ではないのか?
「そんなに持ってこれません…勘弁してください……」
何やら私の後ろのフェンスの奥でカツアゲが行われているらしい。
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私は普段こういうトラブルには首を突っ込まないようにしている。相手の記憶を消すという職業柄、儀式は迂闊に使うものではないと師に教わったのだ。
しかし、今私は酔っている、多分95%くらい酔っている。なので、何でもできるのである。
「決めた!助けちゃろう!」
私はカツアゲ現場に向かった。
現場は悲惨なものだった。被害者の目の周りにはアザができ、目元を切ったようで出血もしている。
私は加害者の連中に声をかけた。5人か。
「ねぇねぇお姉ちゃんといいことしない?」という言葉と共に、私の脂肪という脂肪を集めたBカップを披露したが、「こいつと同じようになりたいのか?」と脅されてしまった。
カチーン。
「すごくお金になる話があるんだけどな〜今からなら即金1人20〜30は余裕かな。あ、全然危険じゃないけどね!」
少年たちが興味深そうに訪ねた「話を聞こうじゃないか?お嬢ちゃん」その言葉、年齢のことにピクついたのは置いておこう。
「で、やるの?やらないの?」と私が問うと、少年たちがすぐに了承したのは言うまでもない。
被害者の男性はナヨナヨとその場で怯えているだけであったが、今から起こることを期待してねという笑顔は送っておいた。
「お金を得る方法はあとで教えるわ、でもちょっとしたおまじないをあなた達に行ってもらう。」
私は大きめの白いアルバムを取り出した。
「これに触れて目を瞑り、このお茶を飲み、目を開ける」「それだけでウハウッハよ〜」
少年がドスを効かせながらこういった「何も起きなかったらめちゃくちゃになることを覚えておくべきだな嬢ちゃん。まぁそれも現実になりそうだが。」
非常にシンプルなルールだが、もしこれを読んでいるあなたがライの店を利用することになるかもしれない。その時のために覚えておいて欲しい。
・記憶の返却は絶対不可能だということ
・記憶の欠損による弊害は当店は一切その責を問わないこと
「御託はいいわ、始めるわよ」
酔いがさめてきた。
少年達が白い本に触りながら甘茶を飲む、そして目を開けた。
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「お前誰だ」「お前こそ誰だ」「なんだこの怪我人は」
少年達が皆バラバラに混乱している。
そこに私は割って入った「はい、報酬よ。学生生活3年と見込んで1人3年30万円で計算したわ。」
金を渡された男達は訳も分からず「報酬」と呼ばれるものを受け取り、そして、友情や関係を取っ払った少年達は思い思いに散っていった。
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「どう?気分は?私は記憶を商品にしている古物商なの。」私は被害者の学生に言った。
「僕は何が起きたのか全然分からなかったですが、正直あのようなやり方は好きではないです。」
「なぜ?」意外な感想に私は少し動揺した。
「僕は今日あの男達を殺そうとしていました。」少年はポケットの中から果物ナイフを取り出した。
「僕のこの思いは・この殺意は・恨みはどうすれば昇華するのでしょうか、教えて欲しいくらいです。」
「そう。ごめんね。」私は悲しくなり謝ってしまった。
「でも、あなたが殺人犯になることは防げたわ、あなたが犯人になって悲しむ人って意外と多いものよ。それは被害者も加害者も同じ。」私はレジャーシートを片付け始めた。
「いじめるってね、それ相応の行為を自分も受ける覚悟がいるの。邪魔しちゃったわね。次彼達と会うとき刺すなり刻むなり好きにすればいいわ。」私は帰り支度を整えた。
被害者の少年は何を思うことなく立ちすくんでいた。
少年は言った「どんな形であれ助けてくれてありがとうございます。」
私は少し笑ってその場を後にした。
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さて、今日の男子学生の3年分の記憶を味わうとするか……まぁ結果オーライということで。私はお出かけセットをソファーに放り投げた。
そして公園で使った白いアルバムを開き。驚愕し、悲壮した。
3年前の彼ら、おそらく入学当初、さっきの被害者も加害者も笑顔で過ごしている。あの子達の心はどんな形であれ繋がっていたのだ。
憎しみも愛も軽蔑も暴力も横暴も、全てあの子達の関係には必要なものだったのだ。カツアゲももしかしたらもっと深い事情があったのかもしれない。
私は「あぁぁ……」と言葉にならない言葉を漏らし、自分の行いを恥じた。「師になんて言われるかな?」と写真立てを見た。
そこには「初代思い出買取屋店主の祖母」の姿があった。
気のせいかもしれないが少々顔が強張っているように見えた。