騎士は怖い生物
朝起きたら隣りの布団からグラくんの姿が無かった。
「……着替えようと思ってたんだが。それしてもあの子はどこへ?」
仕事着のまま眠ってしまった。情けない……
ふと、隣りの布団を見ると女勇者は寝てた。
「とりあえず下に行くか。」
眠い目を擦りながら、階段を降りて下に行った。
すると、何か音がする。方向はダンジョンの方からだった。
行ってみると
「え!?何してんの!?」
そこには剣を振る勇者の姿が。
「ああ。起きたのか。」
「起きたよ。って、朝から何してんの!」
「見りゃ分かるだろ。素振りだよ。」
「素振り!?朝から!?何の為に?」
そんな事も分からないのか。と言った感じの顔をして、勇者は言った。
「一日でも素振りをサボると死ぬからな。だからこんな場所でも素振りしなきゃならんのだよ。」
そうか。やり直しが出来ないのか。だから、負け=死ぬって訳だ。なんて世界なんだ。
しばらくして、またグラくんは素振りを再開した。一回振る度に風が巻き起こる。迷惑な素振りだ。てかこれでも勝てないって、どんだけ強いモンスターが居るんだ。この世界…… もしかして喫茶店なんて営業してる場合では無いのでは!?
腕を組みながら、先の事を考えていたその時、誰かが階段を降りていく音が聞こえた。
「す、す、すいません!此処何処ですか!?」
後ろを見ると、居たのは女騎士だった。
「起きたんだ。ここは異世界だよ。」
「い、異世界!?あれ?私、デェアエース・ジュデルに居たはず何だけど……」
「倒れてたから、あの勇者が運んでくれたんだよ。ほれ。」
僕は素振りをしている勇者を指さした。
「そうだったんだ……て、てことは!?さ、昨夜は何処に寝たんですか!?」
「布団って言うのでぐっすり寝てたよ。」
女騎士は顔を真っ赤にした。
「恥ずかしい……他人の所で寝ちゃうなんて。」
「そんな事無いさ。現に君は倒れていたから仕方ないと思うよ。」
「でも、お礼に。」
女騎士は背中から剣を引き抜いた。まさか!と思ったその時、勇者に向かって走り出した!! が、しかし!?
ギィンッと言う音と共に剣は女騎士の後ろに刺さった。
「鈍い。余りにも鈍すぎる。礼ならもっと速度を上げてくるんだな。」
グラくんは背中に剣をしまった。
「……あっ!すいません!驚かせちゃって。」
「ああ。初めてだったな。実は騎士の世界では礼に当たるのは剣を交じ合わせる事なんだ。」
正直、ええ……だった。ヤバイ!この職業!
直感的に俺の感覚がそう言ってる。
「然らばだ。また栄養ドリンクとやらを取りに来るかもしれん。その時は宜しくな。」
勇者は後ろ向きで手を振り、ダンジョンに消えていった。
「あ、お世話になりました!また会えたら!」
丁寧にお辞儀をして、女騎士も消えた。
さてと。不動産屋でも呼ぶか。と、僕は朝らしい青空を空っぽの店内から見た。