第5話「再会と崩壊のエチュード」4
久しぶりに更新します。
途中からなので読むときは第5話その1から読むことを推奨します。
毎週水曜日更新予定です。
映像作品みたいなヒーロー願望は無いつもりだが、このシチュエーションで何の為の力だと一瞬心に問うも、考えるまでもないなと、俺はまなじりを決した。
近所迷惑なピンポンダッシュで感性を鍛えたスタートダッシュと共に、スカートめくりの罪状で女子に総スカンを食らった呪われた手も同時進行で仕事する。
「これでも喰らえ!」
レベル23トマホークとバレない様にコートの中で書き殴った。
斧の代わり投げた靴がガーゴイルにヒット。音を立てて生理的に受け付けない顔から真っぷたつに割れる。足の臭さも追加効果に入っていない事を願うばかりだ。
「空中で破壊したら石が降ってくるわよ!」
「わかっている!」
謎のガンナーの予測通り、瘴気を断ちきったので石像に戻ったガーゴイルは石ころの雨として降り注ぐ。間に合わないのでスライディングして少女を抱き寄せ腕で防いだ。「くっ……」ただ、石だたみの上じゃ摩擦で辛子を自かに塗ったみたいにヒリヒリと痛む。加えて防具を着けていないので非常に痛覚に刺激があるが、子供が不安がるのでしかめっ面も出来ず、されどチャーチル首相ばりにピースサインする余力もないので、ポーカーフェイスでやり過ごした。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「全然平気だ」
俺の安否を気遣う幼女。幸い、罰ゲームと称して黒ギャルへコクり大爆笑されたような激痛は去る。黒歴史を連続リフレインして気分は超ベリーバッド。
しかしながら子供は残酷だ。大丈夫と聞かれたら、例え骨が折れていても歳上としてはアメコミヒーローばりにノープロブレムと答えるしか無いではないか。ならば合法的に押し倒して密着しているこの現状だが、誰か俺は光源氏になる気はないと、「ふふふ……、今、岩を退かすのだ」体に降り積もった石像の残骸処理ではなく、街ごとポップコーンになりかねない高レベル火炎呪文詠唱中のロリメイドに説明して欲しいものだ。
「でも歯がギザギザ」
「問題ない……」
少女よ、それは歯並びが悪いだけだ。
「サキ!」
「ママ!」
皆の協力の元、自由になった上半身をあげると、ゴムパチンコの如く子供は母親に向かって一直線だ。当たり前といえば当たり前か。
「ありがとうございます! ありがとうございます」
「……」
母親は何度も何度も頭を下げる。別にお礼が欲しくて助けた訳じゃないが悪い気はしない。ただ、感謝されることなど今まで皆無だったので選択肢が乏しく、対処方法を決めかねていた。それでも子供は俺に握手をお求めたのでぎこちない面持ちで応じるが、「おい待て、こいつはナガテだぞ!」残念ながら夢とは覚めるものだ。
気が付くとフードが脱げていて素顔をさらしていた。
「ナガテってチート能力者の?」
「え!?」
「いやぁぁ!」
「うちの子供になにするの! 汚らわしい」
住民達はまるで狂犬病が発覚した飼い主の様に顔を引きつりながら距離をとり、この子の親も先程との態度とは180度掌を反転、嫌がる子供を俺から引き剥がした。そのどさくさに紛れ何処からか投げられた石が俺の脳天を直撃。額から生暖かい液体が流れてきた。視界が朱色世界に染まる。慣れているとはいえ、瓦礫をどかしてくれた住民の暖かさが瞬間冷凍の如く凍てつくサマは、中学時代のイジメに似て毎度毎度キツいものがあった。
「ナガテに何をするのだ!」
俺の前に立ち塞がるパルミラ。でも、気持ちはありがたいのだが、一々見下ろさなければならない程ミニマムなので、弁慶の様に身を呈しても意味がないのだ。まぁ、そのお陰で、「あ、ナガテ離すのだ!」この様に暴走防止に抱き寄せて庇えるので良かったとも言える。
「お前は母親のクセに子供を見捨てたではないか!」
「やめろ」
俺は番犬化している激昂したパルミラのさわり心地が良い頭に手を置き制止させる。これ以上こじれるとお嬢達に迷惑がかかるからだ。
額からの出血が酷く考えが纏まりにくい。それでも、恋で盲目になっている女子高生よりはまともな判断が可能だ。
「貴様がモンスターを手引きしたんだろ!」
「この人の皮を被った悪魔め!」
「私の夫を返して!」
「この街から出ていけ!」
何時の世も人間というものはそこに答えがあると、間違っていようが考えなしに結論へ結びたがるものだ。「違う」経験豊富な俺はこの後の展開がマニュアル本を出版しても良いくらい読めているので、その脳内攻略本に従って最小限の否定をしておく。
それはそうと、助けを求めるつもりはないが、閑静な居住区の危機が去って一度開いた窓は、俺が振り向く度に傍観者達の手によって再び閉まっていった。この手の行動が万国共通ワンパターン過ぎてつまらない。
「チート能力者に死の裁きを!」
「「「チート能力者に死の裁きを!」」」
年配の一声に続き、住民達が異口同音に復唱。毎度ながら生きていることこそ最大の罪と言いたげなこの排斥運動に、憤りを通り越し憐れにも類似した悲しみが込み上げる。チートがあるなしで差別するこの方々なら、幕末のキャメラみたく魂を吸いとられるという迷信を本気で信じそうだ。




