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第5話「再会と崩壊のエチュード」3

今、後半制作中です。当初予定していた後半プロットを大幅見直し。

期待に添えるものができるか分かりませんが、自分が納得できるものをつくろうと思います。




 

「そうではなく、うーん……、街全体が呻いてる感じがするのだ」

「なんだそりゃ」


 エルフ特有の超感覚なのか? それとも匠にしか理解出来ない極地の世界と同じなのだろうか? 因みにニートと修行僧の終着地は酷似している。


「グオォォォォォォォン!」


 何の前触れも無しに会話と風の音が掻き消える、心臓を掴まれるかのような大音量の咆哮。パルミラの不可解な言い回しの意味がこの瞬間で理解する事が出来た。

 同時に聴こえる阿鼻叫喚の負の宴。祭りともいくさとも違う、パニック映画の様な戦慄が走った。


「うわぁぁ!」

「助けてぇぇ!」

「キャァァァァァ!」

「神様ぁぁ!」


 下のメインストリートを濁流、または雪崩れの如き流動を形成し巻き込み巻き込まれ住民達が激走。お祭り的な東○マラソンとは真逆、皆、死に物狂いに鬼気迫る形相だった。抽選が無い分、誰でも参加出来るだろうがそんなクレイジーは戦闘狂のミネヴァぐらいだろう。


「グォォォン!」

「ギュララララ!」

「シャアァァァァァ!」


 後続してくる異形の魔物の群れ。獲物目掛けて追尾。わななく住人達は車間距離を開けない報道車、または規格外の外国人選手のような見えない圧迫があるのではないだろうか。数は目視できるだけで20数匹はいる。

 疑問としては、何故、堅牢なこの城塞に異物が進入しているということだ。屈強な警備隊を配備しているのに、関門に何かがあったのか?


「パルミラ!」

「分かっているのだ!」


 パルミラは俺より先行、荷物を放り出し、ロットを触媒に呪文詠唱しながら騒ぎの中心へと下っていく。俺が付けたこだわりのギミックで先端部分のハートが魔法に反応して回る。「……やば」しかし、製作している時は熱くなっていて気が付かなかったが、冷静に観察すると、笑えない程滑稽だった事が発覚。罪悪感が募った。


 右へならえは大袈裟だが、俺も走りながら護身用ナイフを抜き取る。斜面なので有名な万有引力の法則という名の補正効果で勢いは付くが、体が後ろに仰け反り、制御する為に大腿四頭筋というか太股とかかとに負荷が架かって非常に痛い。


 幸運な事に街に入り込んだのは、最悪なウイルス感染型ではなく通常のモンスター。しかも規模も少数。

 関わりたくないから嫌いな授業と同じ風にエスケイプしたいのは山々だが、領主たるライトルガードの名を背負っている以上、知らないフリという選択肢はない。

 

「まだ、祭りのシーズンには早すぎるぜ!」

「ギョワ!」


 住人に向けこん棒を振り上げた血色の悪い小鬼に、不意討ち気味に視界の外側からナイフで切りつける。体の摩擦抵抗が少ない分加速出来た成果だ。

 正式名称はゴブリン。そう、スライムに並ぶ知名度が高いモンスターだ。ただ、外見がいまいち、オークとどこが違うの? ザコなど、認知に反比例して二番煎じどころか下から二番ぐらいの人気の無さだ。 

 知能は高く愚鈍なオークと違い狡猾でズル賢い。盗んだり戦死者のを剥ぎ取ったりした防具を好んで装備している。


「キュウ!」


 灰色のウサギが俺の袖に噛みついたので、「くそ!」条件反射で咄嗟に振り払う。こいつは動物ではない。アルミラージ、小型だがれっきとしたモンスターだ。一角の角がトレードマーク。こいつも一羽二羽と数えるべきなのだろうか、どうでも良い疑問が残る。

 ウサギがモンスター化した。動物と魔物の定義はどこだか詳しくは分からないが、魔王の祝福を受けたものだと聞いたことがある。


 普段でもステータス通りの力はでる。ステータスレスの体質のお蔭で、今の俺はパルミラの匙加減しだという事だ。


「邪魔だ!」


 再び飛び込んできた獣にひと突き、とどめを刺す。

 盗賊の職業に合わせて素早さが高いので、小者のモンスターなら数体相手に出来る。


「いやぁぁ、助けてぇぇ!」


 目線を移した先には戦戦恐恐、集団からはぐれた母子が複数のモンスター、しかも上位クラスに追い込まれてにっちもさっちもいかず立ち竦んでいた。


「くそ! ここからじゃ俺でもパルミラの魔法でも間に合わない」


 しかし、独言しながらも僅かなタイムリミット間だが模索を続ける。

 相手は手強い五匹、しかも全て一撃で仕留めなければ親子は死ぬ。


 ペンを使うか? YES\No

 

 頭にこの文字が過った。


 ショットガンなら一撃で仕留められる。

 だが、ここで使うべきか? 俺の能力は公然の場で披露したことがない。伯爵の指示で偽の情報を流しているからだ。チート能力はレアリティーランクが高いほど人々の恐怖が増す。公式はDだが、真実のランクを理解しているのはパルミラと伯爵夫婦だけだ。

 それに俺に対する誹謗中傷は今に始まった事じゃないから構わないが、一緒にいるパルミラにまで飛び火するかもしれないし、お嬢にも迷惑は掛けられない。


 即断即決出来ないでいる自分が、意外と臆病者である事に今頃気付き、冷や汗が一筋流れ落ちる。


 判断を決めあぐねいてる時、


「ショット!」


 一閃。放たれた直線を描いた閃光は、瞬きした間で1列のモンスターを貫き骨まで残らず塵にした。間髪入れず馬車から飛び降りたフードを被った軍人は、回転しながらリロード、残りの敵も確実に急所を狙って初手で命を奪う。


 あれは魔法銃か? 腰に下げているホルダーには変わった形の試験管が収まっていた。液体の色はそれぞれ違う。

 腰のパックルには王国の聖堂騎士団の紋章が描かれていたことから、所持している事は納得する。


「こらナガテ、よそ見をしない!」

「……!」


 何で中央の騎士様が俺の名前を知っているんだと、色々と不安と疑問は浮かぶが、今の焦点はそれじゃない。様子を窺っていたガーゴイルが上空から勢いを付けて急降下して来たからだ。重力に重さは関係無いから速さは然程変わらないが、その分石像は制作者が下手くそなのか悪趣味なのか、SMSにあげたら速攻で一斉にブロックされそうな程、メンタルには衝撃があった。


 狙いは恐らく弱っている子供だろう。魔族の邪気を内包する魔物の存在意義を考慮すると答えは出やすい。

 恐怖に耐えられなかったのか、親は嫌がる子供の手を振り切って自分だけ逃げ出した。

 自身の命を守るのは生命の本能的には当たり前だが、親としては最低な行為だ。




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