第1話「何時もの光景」2
第1話の中編になります。
毎週水曜日更新です。お昼頃に予定を入れていますが、遅くなる事もあるのでご了承ください。
「くきき、それなら好きになられる様に努力をします」
お嬢に真っ向から拒絶された台詞に対する、考えうる限りの唯一無二、起死回生のアンサーだ。
何とか起き上がる体勢を取り、更に慈善家気取りの保険のセールスババアばりに本心を押し殺して、我が主人に引きつりながらもへつらう事で追加効果を上げる事も忘れない。でも、目は笑っていないだろう。断言。
「生理的に無理」
「くけけ……」
首を横に振る様は本当に嫌そうだった……。
下手の考え休むに似たり、この言葉が惨めなこのピエロにしっくりくるだろう。
「笑い方キモイ」
「ぐはっ!」
「姿、外見、暗黒魔道士」
「ぐほっ!」
「歯がピラニアみたいにギザギザ。哀れすぎるわ。生まれ変わった方が良いわよ」
「ほわっ!」
更に追討ちラッシュ。思わず支えている手を離しそうになった。
イケメンに転生させてくれなかった、この世界の神に文句を言って欲しいものだ。それに根暗な容姿なのは認めるが、歯は単に歯並びが悪いだけだ。
「どうでも良いけど、臭いから側によらないで」
お嬢は鼻をつまみ、手で「しっしっ」と、軽くあしらう。
良い度胸だ! くそジャリが。
帰ったら貴様の嫌いなレッドペッパー、スープの中へふんだんに突っ込んでやる。
それにお嬢が離れれば良いだけの話だろ?
だが、誠に残念ながら、心の中で毒づく事しか出ない俺は、この我が儘に対して選択肢は存在しない。
「申し訳ありませんお嬢様。直ぐに離れます」
俺はゆっくり、立ち上がろうとする。やたら疑似超重力を感じると思ったら、泥に粘りがあるので、チーズホンデまたは納豆な感じに引っ張られていた。
「お待ちなさい。誰が起き上がって良いと命じました?」
「へ?」
冷徹な制止の下、お嬢の剣の柄で押し戻され、再び不時着&着水。しかも沼に極上のディープキス。「ブクブク……」この水温に慣れたせいか暖かかった。
理不尽過ぎる。
「そんな所で観察してないで、あなた方も渡ってくればどうですか?」
後続が俺達のやり取り(一方的なイジメ)を見守っていた。
もちろん、ここではパーティーの事を指している。けして、俺の事でもなく、モンスターでもゴーストでもない。
「……」
俺は奴等に無言のプレッシャーを与える。幸い、生まれつき絶望的に目付きが悪いから効果は絶大だと思う。
「いやぁ、ナガテに悪くてあたいには出来ないよ」
ぼさ髪のドワーフ少女ミネヴァは頭を掻く。こいつはごつい斧を背に担いでいるので、慎んで遠慮してもらいたい。
「僕は勇者だよ。人を踏み台にしたら、それは自分の正義に反する気がする。それに友のナガテに悪い」
にこやかに爽やかに申し出を断るコスモ。これぞイケメン勇者だ。だが、クサイ台詞に全身さぶいぼが出来た。泥と相まって痒い痒い。
それに自称友は友情にヒビでも入ると思ったのではないのか? コスモよ、大丈夫だ。イケメン嫌いな俺は元々お前に、友情の感情を一片足りとも持ち合わしていない。
話を脱線するが、イケメンと個性は、お互い対極の位置に存在すると思う。特徴がないからイケメンなのだ。特徴があるからブサメンなのだ。
出歯はコメディアンになりやすい、天パーはグレるしか道がない、デブに相撲以外活躍の場はない。だが、残念ながらイケメンは全てが許されるオールラウンド。生まれたときからチートまたは人生勝ち組な存在。そんなの早期に撲滅した方が良いと本気で願う。
二人は辞退したが、俺の威嚇も気にしない、空気の読めない奴が若干一人いた。
「なはは、我輩はナガテ橋を渡るのだぞ!」
甲高いロリボイスを振り撒いて、エルフ魔法使いのパルミラは、俺に断りも無く、軽快に「ホップステップジャンプ」と、ボディを蹴っていく。
だが、ムカつくがこいつは軽いからオッケーだ。「ちょ、おま、ブクブク……」最後に俺の頭でジャンプしなければの話だが。お前等を威嚇す為、無理矢理に頭を移動したから、今の衝撃で泥を大量に飲んだのと、首が変な方向に固定されてしまった。
「大体パルミラ、お前は魔法で飛べるだろ!」
俺は泥を吐きながらこの理不尽な扱いに、不平というかもっと最善の方法があった事を提示する。
このロリは、長時間使用は無理だが、希少な浮遊魔法を使う事が出来るからだ。
「おお、我輩はすっかり忘れていたのだ」
指摘されて、開いた口を押さえる。
いちいち偉そうなのは、俺より1000歳程、歳上だからだ。見た目ロリだから騙されてはいけない。
そんな訳で、ついつい老ボケが入っているのではないかと疑ってしまう。
勇者のコスモと戦士のミネヴァは、俺達がコントを披露している間に、助走して俺を飛び越えて行った。流石は前列で戦う肉体労働派、運動神経は抜群だ。
俺は興味を失せたお嬢を尻目に、抵抗ある沼から力ずくで立ち上がった。
説明するまでもなく全身泥だらけで、体の重さが倍に感じる。救いなのは装備しているのが革の鎧なので、色が同等な土色で目立たない事だけだ。
「寒いであろう、我輩のファイアで乾かしてやるのだ」
何も考えずスタッフかざし、呪文詠唱しようとするパルミラ。
ファイアとは言わずと知れた、スタンダードな火の魔法だ。得意魔法なので日常的に良く使っていた。
「止めろ、俺を生きたハニワにする気か?」
手を向日葵の様に開いて制止を促す。
加減を知らない問題児相手だ、ここは冷静に対処する。でも、冷や汗が止まらない。
これだけ粘着力があるのなら、粘土成分は多く含まさっていると思って良い。
「陶磁器かも知れないぞ」
にこやかにスペルキャンセルした。
メイドのシンボル、白いレースのカチューシャが風で揺れている。
「種類なんてどうでも良い」
相手のくだない冗談に真顔で答える俺だった。