第4話「騒がしいアフタヌーンとステータスバトル」6
「フードぐらい取ったらどうなの? 陰気臭いわよ、ギザギザ闇黒魔導師」
「冒険者職業はシーフです、ヘビーナイト様。出来ないのはお嬢様が一番良く知っているのでは?」
ここでそれができたら苦労はしない。それに歯は歯並びが悪いだけだ。
それに被っているのは赤ずきんならぬボロ雑巾だがな。
「しょうがないでしょ。今回はスケジュール的にこの時間帯しかなかったのよ」
打ち上げ自体やらないという選択肢はなかったのですか? と言う台詞を吐き出そうとするが、主人に口答えは御法度なので、寸でのところで飲み込んだ。
お嬢は俺がエスコートして「どうぞ」引いた椅子へと座る。
事前に用意していた自前のナプキンを解き膝の上に乗せた。2つに折り、曲がっているヶ所を奥にするのがマナーだ。
高貴なお嬢様をもてなすフードを被った怪しい人相の不振人物。何も知らない第三者からしてみれば、妙な光景に映るだろう。
「喉が乾いたわ」
ワゴンから手渡しでパルミラが淹れた紅茶を皿ごと手に取るが、白い陶器製のカップはふ菓子または砂糖菓子の如く粉々に砕けた。もう一度チャレンジするも、結果は同じ。
手首を見ると簡易式制御用腕輪をしていない。どうやら忘れたようだ。
「最近のは粗悪品ばかりなのね」
「アルシャンが馬鹿力だからじゃねぇ……、もがっ!」
言い切る前に俺のデザート、好物のモンブランをお喋りなミネヴァの口に突っ込む。
「うん?」
「何でもありませんお嬢様」
「そう」
それも本人は気付いてはない。意外と繊細なので本人が気付くまでは放置する。八つ当たりはごめん被りたい。
お嬢は生まれながら身体能力がドラゴン並みに高く、歩く凶器と表現しても誇張にならない程、危険だった。なので術式を使った簡易封印結界を使わないと、力が制御出来ない。クエスト中はあのヘビーアーマーが力の調節と拘束着の役割りを果たしている。
表向きは先祖返りした伝説の冒険者の遺伝子ということで収まっていた。普通だったら受け入れられないが、伯爵が領主の権限で、領民達をごり押しで信じさせている。
「パルミラ頼む」
「はいな」
パルミラに目配せをして、お嬢に紅茶を飲ませる。「ごくっ……」負けん気の炎が点火する前に、何とか自分で持つのを諦めさせられた。
お嬢は有名過ぎる。まるで衆人環視状態だ。何をやっても悪目立ちするから静かにしていて欲しいものだ。色々と面倒だからな。
「それより、アルシャン遅かったね? 何かあったの?」
「組合から良くない情報を聞いたわ」
「情報?」
平和の使者である勇者様は、率先して怪訝気味に聞き返す。
また、ミネヴァが競馬でスッて、八百長だと暴れたか? それともまた闇賭博で暴れてマフィアを壊滅させたか? 実際それで冒険者の資格を剥奪されかかった。あの運の数値じゃ分からなくもない。
「まだ、噂止まりだけれど、魔神群がこの地方で目撃されたそうよ」
お嬢はそう、テーブル中央に顔を近付け小声で囁く。
魔神群……、人類の敵、魔神を中心としたモンスターの大移動の総称。十万規模だともう手がつけられない。
「なっ、まじ――、もがぁ!」
漏れそうになったなったミネヴァの口を皆で押さえる。こんな往来で声高らかに魔神のキーワードを漏らしたら、パニック映画を体験していまう。
「規模はまだ分からないけど、楽観できる数じゃないみたい」
「でも、軍隊が何とかしてくれるでしょ?」
「コスモ、それは望み薄よ。うちをやたらと挑発している隣国ならまだしも、冒険者や傭兵頼みで普段から動かない名前だけの軍に何が出来るの?」
正論だが、仮にも国の一翼を担う大貴族の御令嬢にあるまじき発言。
「そんな事はないと思うけど」
コスモは逆に幻想を抱き過ぎだ。幾ら末端騎士が国政を憂いても、指揮を執る立場が私利私欲に走っている現在、俺が知っている数多の国家または勢力や組織と同じ歴史を辿っている。即ち反乱を起こす為の大義名分が幾らでも挙げられるこの国に未来はない。
そもそも、魔神とは何か? 特殊能力を持つモンスターという以外、まだ詳しく解明されていない。
一説には邪悪な魔族または魔王の部類、または神の試練、または自然の摂理が起こす大地の掃除屋等あるが、全て馬鹿馬鹿しい空想の域を出ていない。
俺の様なゲーム脳だと、中ボスクラスとかラスダンに徘徊している恐ろしい外見を想像しがちだが実際は違う。姿は定まっておらず、スライム系またはモンスターに寄生しているタイプもいる。
魔神はモンスターにだけ効く感染型ウイルスの内包しており、完全に感染すると理性を失って暴走。魔神群へと発展する。この前相手にしたオークは感染していたが、魔神に洗脳はされてなく、理性があったので不完全だったと言える。
そんな訳で現在分かっている事は、規模次第だが、パーティーで行っている討伐クエストの方法じゃ勝てない事だけだ。




