第4話「騒がしいアフタヌーンとステータスバトル」3
水曜日更新
「――ってことで、そろそろ、定例のあれをやるか」
「おいおい、何が、ってことでなのか、脈絡がないから理解出来ないのだが」
と、棒読み気味な三流お笑い芸人並の勢いが無い突っ込みを、いかにも馬鹿そうなボケ担当のイケイケな相方に入れた。こういうのに限って将来、テレビの名司会者や映画監督になれるというのだから、世の中は不思議で満ち溢れている。
「なんのこと?」
「はっは、やらいでか、なのだ」
「俺はどうでも良い」
反応は三者三様だが、ご覧の通り、何時ものお決まりなので大体察しがつく。
「アタイ等の成長の記憶はパーティーで分かち合わないと。それにアルシャンが来るまで間が持たないんだよ」
前者が建前または暇つぶし、後者が本音の部分だろう。あの際立っていた黄金郷は欲望の権化達が巻き起こしたゴールドラッシュによって荒野と化していたからだ。大皿、しかも二枚目。果敢にも三枚目にいく勢いだった。
「パルミラの魔法でステータスデータをプリントアウトしてくれ。これ決定事項」
「了解なのだぞ」
「プライバシーの侵害。断固抗議する」
「僕も嫌だなぁ」
ワンテンポ遅れて何の事か気が付いた勇者を他所に、俺達の駆け引きはもう始まっていた。
ミネヴァが何をやりたいかというと、自身の能力数値の開示。要はテストの答え合わせ、または身体能力測定という例えを出せば理解出来るだろうか。
ゲームと違って便利なステータス画面が無い。その上、魔法公式が非常に面倒で、表示が何時でも出来ない難点があった。なので、冒険者はクエスト後のステータス確認が通例となっている。
基本は一人で見るものだ。だが、俺達は気心が知れているから、こうして大抵は発表会をして馬鹿騒ぎをしていた。
「ステータスに表示されている称号に、最初に提示したワードに近かったら、または入っていたら勝ちだ」
基本、ステータスには能力数値の他に称号と固有スキルがあるのだが、それがまたはた迷惑で、日頃の行いとか、性格とか、もろに現れるから厄介だ。しかも、1回のクエスト毎に内容が変化しやすい。神のイタズラにしては手が込んでいると思うが。
「だから、俺はやらないと言っている。大体、誰得なんだよ?」
「美少女達の成長の記録をただで拝める特典なのだ」
「スリーサイズと今現在のお前らの体重以外興味がない」
俺は舐め回すように視線を転がす。特にブラックホール並みの収納力があるお腹周り。
「変態!」
エロドワーフはたわわな胸を隠すがもう遅いし、注目してる箇所が違う。
大体、本気で自分が美少女だと自覚している奴は、百パー性格ブスなんだよ。実際、顔で入社した女子アナに良い噂など一切聞かないかったではないか。陰湿な後輩イジメや、ニュースキャスターの派遣争い、夜の密会等々の文字が週刊誌に醜く踊っていた。正義の報道が聞いてあきれる。
「大方、まだ物足りないから、安くあげる為に賭けをして支払いをケチろうとしているんだろ?」
追加された三枚目の大皿に挑んでいるミネヴァ。そのむさぼる様はハゲタカを彷彿させた。
「だったらお前が男らしくここの勘定全額出せ」
真顔でぶっちゃけた事を告げる。本心だろう。
「嫌なこった。ってか、食べかすこっちに翔ばすな!」
犬猿の仲では無いのだが、何故か性格的にミネヴァとは相性が悪かった。かたや借金なんか気にしないポジティブタイプ、かたやいちいち言動を反省し自己嫌悪に陥るメガティブタイプ、相反する思考の持ち主が同じテーブル着いたらこうなるだろう。
「うう、嫌な予感しかしないよ~」
間違いなく当分晒し者だからな。
「我輩の総勝ちなのだぞ」
パルミラよ、その自信は何処から来る?
「だから、俺はやらないぞ」
「いつも通り、予想が外れた奴が勘定持ちな。順番は撃破数順、パルミラ、コスモ、アタイ、ナガテだ。余談だが、棄権は全員分奢り。ベルガモン家とじいちゃんの名にかけてだ」
然り気無く釘を刺し、俺のエスケープを阻止する。
どうやら今回も拒否権は無いらしい。やる気の無い男子陣を他所に、クレームなど何処吹く風か、ミジンコが象にディスっている様に鼻にもかけない。
これが仲間というか腐れ縁という奴だ。だが、断るに断れない取引先と休日返上して接待ゴルフと接待マージャンをやっていた日々と比べたら天国。
「さあ、自らの予想を提示してくれ」
「男の中の男」
「ナイスバディなのだ!」
「アタイはお嫁さんだ」
……皆さん、ありもしない高望みも大概にしよう。
「お前も答えろ、ひねくれ者」
「嫌われ者」
「自虐ネタ禁止だよ」
コスモがすかさず止める。だがな、友人を自称するならここは完全に否定して欲しいものだと、心の片隅に残念がっている俺もいた。
大体、俺のステータスは特殊で奴らと同じではない。これが抗議デモには負けるがそれなりの熱量で反対している理由だ。ある意味、何が来るかは分からないのは一緒なのだが……。
「……」
この後の正否を分けている存在を刹那的時間であるが、横目で視線を送る。対象はミネヴァのハイペースについて行けず、「うぷっ、なのだ」小さな腹を擦っていた。




