第4話「騒がしいアフタヌーンとステータスバトル」2
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「それにしても、アルシャン遅いよね」
キョロキョロと周りを見渡す勇者様。
今日は普段着なので、勇者どころか冒険者にも見えない。だが、英雄らしきカリスマは無いのに、道行く野郎共の視線の先にこいつがいる要因は何なのか?
答え=格好がカジュアルで可愛い系&男離れしたプリティーフェイスだからだ。
探偵帽、白いワイシャツ、ネクタイ、黒のサスペンダーを使った吊り半ズボンという最強系ショタコンボ。
その上、長いまつ毛で伏し目がち、小動物を彷彿させるオドオドとした仕草、または眩い笑顔を振る舞っていたら誰でも虜にしてしまう。
皆さん騙されるなー! こいつは男ですからねー! 俺の純情を1ダース単位で粉砕した天然逆ジゴロですよー!
などと、ついつい取り乱し心の中で叫んでしまう程、ある意味、目に毒であった。油断したら一心不乱に白に近いグレーな髪をなで回していただろう。
「あいつ、お嬢様だけあってプライド高いから、アタイ等の評価額が少ないって、怒っているんじゃないか? もぐもぐ」
それと相対して、オシャレとは程遠いのはこいつ。服の袖とお腹周りをわざとビリビリに破いており、鎖型のチョーカーも相まってワイルドだった。
ドワーフ特有の褐色の肌とのコントラストでオリエンタル的な美しさがある。本人は純真可憐とうたっているが、そのピチピチな布切れではわがままボディを包むどころか、ボディーライン丸わかりなので裸よりエロい。結論、ボリュームある赤毛も相まって、ファッションと引き締まった体つきが野生的というかアマゾネスぽくってセクシーではないだろうか。
ああ! 口からこぼれた銀色の光沢を放つ水滴が重力に流され、胸の谷間を通過、引き締まった腹筋にツツーっと……、なんてエロスだ。
「VIP待遇だから、接待を受けて帰ってこれないだけなのだ。むぐむぐ」
パルミラもプライベートなので普段着。
胸元の純白以外黒一色のゴスロリファッションだ。レース部分には小さな黒いチューリップ模様がふんだんに使われていた。
メイドの三種神器のカチューシャ代わりに黒うさ耳を装着。それがやけに似合っていて、魔法で連動させているのか、ピコピコ動いているのが子ウサギぽくて愛らしかった。
やはり、千年以上生きているとファッションセンスも感性も、常人とはかけ離れていくのだな。
対抗心なのか、パルミラもエロドワーフと同じ事をやろうとしたが、その前に先回りして口元を拭き取る。「むう!」不満な声を上げるがこれには理由がある。衣装が衣装なのだ、往来が激しい大衆の面前でヨーグルトでは物理的にまたは道徳的に大惨事になりかねない。
「貴族として振るまわなければならないからお嬢も大変だわな」
俺の格好の説明がまだだと?
したくないのには、それなりの理由がある。見窄らしいシンデレラの格好で舞踏会に参加しているみたいなものだ。ポピュラーなRPGの初期装備でイメージしてくれたら大体想像つくだろう。ただし、ひのきの棒と鍋の蓋は持ち合わせてはいない。
シチュエーションとしては魔法使いのロリババアが目の前にいるので申し分無いのだが、残念ながらかぼちゃを馬車に変えるどころか、追加注文したカボチャのポタージュを勢い良く啜っているので零点。元メイド長の癖にテーブルマナー無視とは良い度胸だ。
「それもあるけど、僕と違ってアルシャンは自分自身が実力者だし」
「あの女傑の愛娘なら尚更だ」
お嬢ことアルシャンデリアはただいま我らが代表として、お隣に手続きをしにいっている。持ちつ持たれつ、名家の方が組合相手だと何かと都合が良い。俺達だと足元を見られて二束三文だが、その点ライトルガード家は高額出資者で、現役の頃名を馳せた母親は冒険者組合の幹部役員でもある。これ以上の適材適所は無いであろう。
さて、斡旋所とは何か? 簡潔に説明すると、冒険者組合が管理運営している、仕事を仲介してくれる場所の事だ。主な業務内容はクエストの斡旋と依頼料または報奨金の支給。国、領主、有力者、または個人が組合に依頼、運営側はここから仲介料を徴収して主な資金源にしている。組合が元請け、俺達冒険者が下請けだな。
また、ここで仕事をこなした者は名声が上がっていく。一旗上げるには一番の近道かもしれない。
冒険者が長く活動する上で無くてはならない、上手く出来た支援システムだ。
今日も別段仕事不足では無いのだが、名声、名誉を上げるべく、クエストを求める強者達で賑わっていた。
冒険者組合キルブルゼーク支部があるので、クエスト量がふんだんにあるのが理由だ。わざわざ遠くから仕事を求めて来る冒険者達もいる。
「――首都で貴族の暗殺が流行っているんだとよ」
聴きたくもなかったのだが、たまたま通行人達の会話が俺の耳に入る。
「物騒だなぁ」
「魔神共存派か?」
「教王もご高齢だから、後継を巡っての派遣争いだろう?」
「何でも犯人はマスタークラスの王国軍式格闘術の使い手だそうだ」
「伝説のブラッディーバニーとかクロウじゃないだろうなぁ」
「クワバラクワバラ。向こうはどうなっても良いから、どうかこっちまで来ないでくれよ」
「全くだ」
他人事だと思って、クズみたいなことをほざくなぁ。
会話は遠くなり雑音と共に掻き消えた。
誰が考えた言葉か知らないが、人ゴミとはよく言い切ったものだ。今みたいな連中にとっては言い得て妙だが、ダイレクト過ぎて危険思想の持主と誤解させそうだ。




