take2 サンタクロースの超人ぶりについて
子どもの頃、多くの人が疑問に思ったのではないでしょうか。
(居間。母親はソファでセーターを編んでいる。息子はその足元で絨毯の上に座っている)
息子「あのね、サンタさんてすごいんだよ(最近飼い始めた猫を撫でながら、にこにこと)」
母親「凄いの?」
息子「うん。だって、ほしいものをくれるんだって。どうして、ぼくたちのほしいものが分かるのかなあ?」
母親「さあ……。たまには外れることもあると思うけれど」
息子「きっと、ちょーのーりょくがあるんだね」
母親「(やや面食らって)ちょー……超能力?」
息子「それで心をよむんだ」
母親「(何と答えるか迷うように)……もしかしたら、そうかもしれないわね」
息子「それにね、せかい中の子どもにプレゼントをくばるんだって。夜の間にぜんぶの子どもにくばれるのって、すごいよね」
母親「そうね、凄いわね」
息子「きっとしゅんかんいどうできるんだ」
母親「瞬間移動……? ママは、トナカイのソリに乗って空を飛ぶと聞いているわよ」
息子「うーんと、じゃあ、ぶんしんだ」
母親「分身? 確かにそれなら、みんなの荷物を一度に持たずにすんで楽かもしれないわね」
息子「あ、そうか。ぜんぶもつとおもくてトナカイさんがかわいそうだもんね」
(息子は納得したように何度かうなずくが、すぐにまた口を開く)
息子「あのね、サンタさんはえんとつから家に入るんだって。えんとつって何? えんぴつとちがう?」
母親「ええと……煙突というのは……、まず、暖炉というものが家にあってね、その中で火を燃やすの。そうすると煙が出るでしょう? その煙を外へ逃がすために、太い筒を屋根の外まで伸ばしてあるのが煙突よ」
息子「うちにはえんとつ、ないよね? どうしよう、サンタさんが来なかったら」
母親「大丈夫よ、ゆうくんは今年もちゃんといい子にしていたもの。去年もちゃんと来たでしょう? ……そうね、もしかしたらサンタさんは瞬間移動もできるのかもしれないわよ」
息子「すごいね」
母親「そうね」
息子「(急に沈んだ様子でうなだれる)でもね……、サンタさんなんて、本当はいないんだって。サンタは本当はパパなんだって、けんちゃんが言ってた」
母親「…………」
(母親は、編み続けていたセーターを脇に置いて、息子の顔を見つめる)
母親「……分かったわ。本当のことを教えてあげる。あのね、サンタさんは、ちゃんといるわ。でもね、サンタさんは本当は、超能力も、分身の術も、瞬間移動もできないの。ゆうくんが言った通り、サンタさんのお仕事はとっても大変だから、サンタさん一人だけではとてもこなせないの。だけどね、サンタさんのお仕事は凄く大事だから、世界中のパパ達が、サンタさんのお手伝いをしているのよ」
息子「そうなの? パパも?」
母親「ええ、そうよ。でもこのことは秘密なの。ゆうくんは誰にも言っちゃいけないわよ。それからパパにも、ゆうくんがこのことを知ってるって気付かれちゃダメよ」
息子「なんでー?」
母親「サンタさんは子供達みんなの夢だから。パパは子供達の夢を守るために頑張ってるのよ」
息子「……そうか、みんなのゆめをまもるのが、パパのゆめなんだね」
母親「(息子の発言に目を瞠る)ええ、そうね。つまりそういうことね」
息子「わかった。じゃあパパのゆめは、ぼくがまもるよ」
母親「いい子ね(感激して息子の頭をなでる)」
(ピンポーン、と明るいチャイムの音)
息子「あ、パパだ(素早く立ち上がり、玄関へ走る)」
(息子が玄関のドアを開け、父親が家に入ってくる)