ロボット
幽霊。
見えざる存在。
存在するかどうかも分からぬ存在。
人の認識のみに現れる者。
ゼロではないゼロ。
魂そのもの。
魂は見えない。
存在を証明することも出来ない。
だから、誰も答えを持ち合わせない。
さて。
ロボットに魂は存在するか否か。
人間とロボットの境界はどこからどこまでなのかという問題は、しばしば人々の中でテーマとされてきた。
だが、いずれにせよ魂の存在を証明できない限り、この問題の答えは得られまい。
人の体の殆どは機械で代替え可能である。
脳神経を通して体を動かす仕組みを人は理解している。
肉体そのものを脳も含めて作り出すことが出来るのだ。
しかし、人を作るにあたって当初、問題とされていたものがあった。
……心だ。
肉体を駆動させるための意思だ。
その大本が分からない。
体を動かせるのは、動かそうとする意思があってこそである。
その意思の大部分は明らかに脳に由来するものである。
しかし、脳をそのまま構成しても人の意思が宿るわけではない。
物言わぬ器官となるだけである。
パソコンがいくら情報を吸収しようと、情報を記憶するだけに留めるように。
変化が起きるわけではない。
意思は心とも言える。
心の解析は不可能とも言われてきた。
心から発せられた表層的な傾向でさえ、精神医学会では確たる答えを出せていないのが現状である。
そもそも、意思を内包する器官が脳に宿っているとも限らない。
人の心がどこから来ているのか、まだ分かっていない状態なのだ。
クオリアの原理がまだ解明されていないように。
……人はAIを作り出した。
人口知能だ。
ある問題に対して、最適解を予めインプットしておくことで瞬時に答えを導いていくのだ。
人が、デジタルで構築された脳を作っている。
その作業はある種子供の小さな脳が育っていく過程と似ている。
子供は様々な遊びを通して、脳に膨大な情報をインプットしている。
いや、遊びだけではない。
目で見たもの全てを記憶して、自身の糧としているのだ。
育成。
成長。
そう。
それらのプロセスを得て、人は人として育っていく。
肉体という器を作り出すだけではダメで。
人工知能というデータを作るだけでも足りず。
育てるという過程があってこそ、意思というものが生まれてくるのである。
そこで必要なのが、自分自身の判断で何かを行なっていくという脳からの指令である。
最初から完璧な存在には自身の意思が発現しない。
未熟な部分が強化されていくのが重要なのだ。
かくして、機械にこれらの要素を取り入れた成長プログラムを完成させることが出来れば、人に似たモノを作り出すことは可能だろう。
そんな経緯で作られたロボットは、果たして人か、人ならざるモノか?
人とロボットを分かつモノ。
機械の肉体。
これは問題ではない。
何故なら、人は足や手を失っても機械仕掛けの義足で生活している者がいるからである。
義足を装着したところで、その人のその人らしさが失われるわけではない。
では、心はどうか?
成長するという部分を克服した機械であれば、人の心と大差はないだろう。
所詮、人の心も脳が構築した複雑な成長プログラムなのだから。
それがバイオ上で行われているか、電脳上で行われているかの違いに過ぎない。
では、残るのはやはり……魂、であろうか。
魂の証明。
人が死ぬ前と、死んだ後では重さに21グラムのに相違が見られるという。
これは魂の質量、と言われている。
だが、死後の肉体変化による体重の変化ということで、世論は落ち着いている。
これは魂の証明にはならない。
或いは、臨死体験を経験した者達は、光のトンネルを潜り抜ける自分の様子を記憶しているという。
これは複数人の体験談に共通して聞くことの出来た内容であるという。
が、これもあくまで自身の主観的な体験というだけであって、もしかしたら死ぬ直前にはそういったことが起きる必然的な肉体現象の影響という可能性は捨てきれない。
……神の存在証明。
カントが示した4つの内の1つである、宇宙論的証明。
因果律に従って原因の原因の原因の……と遡って行くと根本原因があるはず。
この根本原因こそが神だ、というものである。
脳があり、脳神経間による情報の伝達があり、それらの総体が意識であり、またはデータのやり取りである。
しかし、それはあくまで意識であり、魂とは別物である。
魂の存在にはそれ以上がない。
魂は魂であるだけである。
だから、魂というのは遡るしかない。
が、遡ろうにも遡れない。
何故なら、上記で述べた肉体、意思、成長のプログラムの3つを正常に複合させ稼働させたとしても得られるものではなく、解明も出来ていないものだからだ。
意識の下地に魂があるのではない。
意識と魂は別物である。
何故なら、3つの要因から作られた存在は自分の限界を超えて、進化出来ないからだ。
作られたモノには許容範囲があって、それは限界そのものでもある。
その決められた範囲内でしか成長することが出来ない。
が、人はそれを軽々と飛び越えてしまう。
人にはバグがあるのだ。
しかし、バグは人の許容範囲内に入っており、それは許容範囲の設定ですら大きく歪ませてしまう。
機械にこのバグを施すことは出来ない。
これが魂と呼ばれるもの、なのかもしれない。
……要するに。
ロボットに魂が存在するかどうかは、よく分からないということである。




