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ヘビー・スモーカー

 「おいおい……タバコ吸うなら、俺の隣はやめてくれないか? 煙がこっちにまでとんできてるぜ」

 「つれないねぇ」


 会社の屋上でタバコを吸っていた同僚に俺はそう言った。

 ちょっと辛口だ。


 「お前、タバコ嫌いだもんなぁ」

 「ああ、嫌いさ。だって毒と同じだろタバコなんて」

 「……なんで俺が進んで有害物質を摂取してるか知ってるか?」

 「知ってるよ。気分が落ち着くってんだろ?」

 「その通り」


 ニコニコしながら同僚はタバコを取り出し喫煙の許可を求めてくる。

 当然俺は首を横に振った。

 あーくだらない。


 「でもそんなこと言ったら、俺達は常日頃から毒を摂取してきてるんだぞ? 太陽から放出されてる紫外線、加工された食品に添付された保存料、車両から排出されている排気ガス、他にもまだまだある。それに比べれば、タバコによる害なんてものは微々たるものさ」

 「話をすり替えるなよこの野郎。問題なのはそこじゃなく、喫煙する場合自分から毒を吸ってるっていう事実の方で、もっと言えば非喫煙者である俺の横で吸おうとしてることだっつの」

 「発がん性物質を自分から吸い込んで、あー美味しいって言ってる奴の気持ちが分からないんだな」

 「だから言ってるだろ。気分が落ち着くから吸ってるんだろって」

 「なのにお前の隣で吸わせてくれないと?」

 「吸うなら俺から離れろよ」

 「こういうのは食事と一緒で、誰かと一緒にタバコを吸う空間を共有するとしないとでは、気分に雲泥の差がでるんだよ」


 タバコと食事を一緒にするとはな。

 彼は空間を共有するための、空気を共感することを知らないようである。


 「食事はどうせなら美味しい方がいいだろ? タバコも一緒だよ」

 「人はこうも毒を摂取しなくちゃ生きていけない生き物なんかね」

 「今の社会は何かとストレス溜まりやすいし? こういうので日頃からリフレッシュしなきゃやってられねぇよ。」

 「心の正常化を図らないと、まずストレスにやられて死んじまうってか」

 「だからタバコを吸うことで、結果的に延命出来てるって話だよ」

 「その点については俺も同意する。だから、タバコを吸うことについて否定はしない。個人の自由さ」

 「だが、やっぱり隣で吸うなと?」

 「当たり前だ、このタバコ依存者」

 「酷い言い方だぜ」


 自業自得だから、何にも同情心が沸かんね。


 「こういう風に疎まれることもタバコを吸う上でのリスクの一つってこった。肺がんになる可能性が上がることとは別にな」

 「ほう、他にリスクはあるのか?」

 「タバコを吸うと血管が委縮するんだ。脳の毛細血管にその現象が見られたら、流石に何が起きるか予想は付くだろ」

 「バカになる?」

 「だからお前はバカだ。現に、それを知ってか知らずかタバコを吸ってる」

 「タバコを購入することで、国家に貢献してるんだよ」

 「だから国もバカだ。タバコの依存性に頼った収入を得ていると同時に、国民の信用を得ようとしてるんだもんな」

 「だな」

 「お前が言うな」


 なんにせよ、タバコを吸う奴は自分のことを棚に上げることが好きなようだ。

 国はタバコを売る側だが、その点については殆ど変わるまい。


 「タバコを買うことで、国が安定する。喫煙者は満足、国も満足。良い取引の関係じゃないか」

 「表面上はな。タバコを吸うことで経済が上向き、喫煙による様々な悪影響が出始めると病院にかかり、医療費が飛んでいく。タバコを吸うことで喫煙者の寿命は減り、効率的に早く死ぬから高齢化社会の進行にストップをかけることが出来る……とかだろ」

 「そうそう」

 「軽く肯定してるけど、破綻してるからな。毒を売って儲けて、寿命を減らして生活に潤いを与えましょうって言ってるんだぞ」

 「おう、そう聞けばなんかマフィアの方が断然マシな気がしてきたぜ」

 「今まで喫煙者が減らしてきた寿命を総合計すると一体何人の人間が国に殺されてきたんだろうなって話だよ」

 「だが、そう分かっててもタバコはやめられないから不思議なんだよなぁ」

 「それはお前がタバコに依存してるからだな」

 「依存はそんなに良くないことかい?」


 同僚はタバコをちょいちょいちらつかせているが、俺は全くのガン無視を貫いていく。

 まだ諦めていないようだ。


 「依存して、何かいいことがあったか?」

 「現実逃避が出来る。おかげで自殺からまた一歩遠のいたぜ」

 「おかげで死んだように生きるわけだな」

 「生き生きと生きることを生きるって言うなら、依存はいけないことだな。でも実際問題、そういう依存なしで生きてると、現実逃避して生きてきた弱い奴は殆ど自殺しちまうぜ。生きることがまず第一に優先されるべきことだろう?」

 「人が生きていく理由は、ただ1つ。発展していくためさ。生きることを理由に現実逃避で自分の成長や発展を停滞させたら、生きる理由がそもそも失われてしまう」

 「生きる理由は人それぞれなんじゃないのか?って誰かに言われそうだな」

 「じゃあ、発展せずにそのままダラダラと生きてていいのか?」

 「そういう国があって、そういう国民がいるケースもあるぞ」

 「じゃあそいつらはダメだな。そこらの獣と同じだ。人間じゃない」

 「せっかく人として生まれたんなら、理性的に生きるべきだってか?」

 「人であるなら、人をやめるべきじゃない」


 何かに挑戦し続けていくこと。

 己の限界と向き合っていくこと。

 これこそが、獣と人間の違いだろうから。


 「なるほど……お前は人間らしさに固執、或いは依存してるんだな」

 「むっ……反論したいが、出来ないな」

 「みんななんだかんだ、別の形で依存してるもんさ。てかそもそも、生き物は全て例外なく生きることに依存してるもんだ」

 「……まさかヘビースモーカーに教えられることがあるとはな」

 「じゃあ、タバコ吸っていいか?」

 「それとこれとは話が別だ」

 「ここまで話してまだ吸わせてくれないのかよ」

 「それに、休憩時間もそろそろ終わりだ。ストレス溜めに行くぞ、ヘビースモーカー」

 「へいへい」


 ……結論として、生き物はそもそも破綻してる。

 だからタバコなんて、奴の言う通り些細な問題なのだから、今度から横で吸わしてやらんこともないか。

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