兎と鬼
イトはまさかと思いながら絵本を開きシロと一緒に読んでみた。絵本のストーリーは世界中の食べ物を独り占めする黒い角の鬼を赤い目と不思議な力をもった兎が倒して、食べ物を解放してハッピーエンドというものだった。
「なんかこのウサギの目とイトの目にてるねー。」
「うん…。そうだね。」
イトは何か引っかかるものを感じながら絵本を最後まで読んであげた。
「どう?面白かった?」
「うん!あっ、それとね!このオニみたいな人をわたし見たことあるよ!!」
黒い角の男を見たことがあるというシロの突然の話にイトは面食らいながらなんとか質問するための言葉をひねり出した。
「その人はどんな人だった?」
「えっと、少しこわかったかな。でもね、ホントはやさしいんだよ!こわい目をした人に食べられそうになったとき助けてくれたんだよ!」
「そうなんだ。その人とはどこで出会ったの?」
「うーん…。ごめん、よくおぼえてない。」
けっきょく黒い角の男のことはよく分からなかったが、絵本を読んだことでイトは自分の目には特別な何かがあることを確信した。
黒い腕の男は黒い角の男には近寄るなと言っていたがあの言葉にはどういう意味があるのだろう。シロは黒い角の男に助けてもらったと言っている。いったい黒い角の男とは何者なのだろう。
イトはしばらく考えてみた。自分の目の力、クロの腕のマーク、黒い腕の男がIFと呼んでいたあの黒い犬はなんだったのだろう。
イトが絵本を睨みながら悩んでいると誰かがイトの肩をポンっと叩いた。
「おい、そろそろ時間だぜ。食堂に行こう。」
「もうこんな時間…。」
イトが悩んでいるあいだにかなり時間は進んでいたようで壁にかけられた時計の針は8時50分を指していた。
イトはこれからの話し合いで少しでも何か進展があることを願いながら食堂へと向かった…