赤と黒と白
イトが目覚めると時計の針は7時30分を示していた。
グレは話し合いは9時からだと言っていた。まだ話し合いまでは一時間半ある。
そこでイトは秘密基地の図書室へと向かうことにした。
秘密基地の図書室は二つある大部屋のうちの一つのことで、この部屋には漫画や小説がたくさん置いてある。これもまた何故こんな部屋があるのか謎だったがそんなことを気にしたところで何も分からなかったので特に気にせず読書を楽しんでいた。
図書室はイトの部屋から行くには食堂を通る必要がある。イトが図書室に向かうために食堂に入るとそこではクロと見覚えのない少女が一緒に朝食を食べていた。
「クロ…?どうしたのその子。」
「ん?ああ、コイツは今朝、俺が森の中を散歩してるときに見つけたんだ。こんな子供ほっとくわけにもいかねーだろ。」
「おねーさん。だれ?クロのカノジョ?」
おそらくまだ年は二桁に満たないであろう少女が無邪気に笑いながら何気なく質問した。
「か、か、ちっ、ちが…」
「何、言ってんだよ違うよ。な?」
「そ、そうだよ!!」
クロは珍しくあたふたとするイトを見て少し笑いそうになりながら少女のことをイトに紹介した。
「名前はシロって言うらしい。んで、なんで森の中にいたかは分からないんだと。それにしてもよく無事だったなー。」
「えへへー、それほどでも。」
「シロって言うんだ。私はイト。よろしくね。」
「うん!よろしくー。」
イトはシロの手を優しく握りゆっくりと上下に揺らした。あまり適当に握ってしまうと簡単に傷つけてしまいそうな繊細な手だった。
なんだか昔の自分と少し似ている気がしてイトは少しの間シロの顔を見つめ続けた。
「どーしたの?イト。」
シロの声にハッと我に帰ったイトは自分が図書室に行こうとしていたことを思い出し、食堂をあとにしようとした。
「なんでもないよ。私、これから図書室に行くから。またあとでね。」
「としょしつ?わたし知ってる!本を読むところでしょ?わたしも行きたい!」
「そっか。じゃあ一緒に来る?」
「うん!」
シロは元気な返事をすると同時に素早くイトの手に掴まった。
イトとシロは図書室につくと、それぞれ自分の読みたい本を探し始めた。
イトは面白そうな小説を見つけ、イスに座ってゆっくり読もうとした。そこにシロが大きな絵本を持って・・・
「これ読んでー!」
と頼んできたのでイトは自分の小説は後回しにして、先にシロの絵本を読んであげることにした。
しかし、シロから絵本を受け取ったイトはその絵本の表紙に目を奪われ、しばらく呆然としてしまった。
その絵本の名前は『兎と黒鬼』
その絵本は赤い目をした兎が黒い肌と角をもった悪い鬼を倒す話だった…。