レスモ
秘密基地から街までは2km程の距離があった。
秘密基地のハッチを開き久しぶりに外に出たイトがまず目にしたものは視界を埋め尽くさんばかりの緑だった。
こんな視界の悪い場所ではレスモに接近されても気づけないのではないかとイトが心配をしていると、クロがその心配を察しイトを安心させるために話しはじめた。
「イトは秘密基地から出るのは初めてだから知らないだろうけど、この秘密基地のある森にはレスモは入れないんだ。だから、そんなに心配そうにしなくてもいいぜ。まったく、グレのやつは余計なことはペラペラ喋るのに肝心なことはすぐ忘れるから困るぜ。」
「グレ…。チョコレートの人のこと?」
「そうそう。まあ、そういう訳だから、この森の中にいる限りはレスモに襲われることはないはずだぜ。」
クロの話を聞いたイトは一度は安心したものの、森を出たあとクロはどうするつもりなのか気になって質問した。
「じゃあ、森を出たあとはどうするの?」
すると、クロはまたも自信満々に答えた。
「レスモなんか俺が倒してやる。俺は強いからな。」
「強いって…。クロは私と同じくらいの身長じゃない。それに、正直あまり強そうには見えないよ…。」
「おいおい、忘れたのか?ビルから飛び降りたお前を助けたのは俺なんだぜ。普通の人間にあんな高いビルの屋上から飛び降りた人間を抱えてマトモに着地できる奴なんかいるか?」
そう答えられるとイトはそれ以上なにも言えなかった。
地上から17mあるビルの屋上から飛び降りたイトを助けてくれたのは確かにクロだ。イトはあのとき間違いなく『飛び降りた』のだ。となると、手をのばしたくらいではイトを助けられない。あの状態のイトを助ける方法があるとすればそれは『クロも飛び降りる』しかなかったはずだ。
普通の人間が17mの高さから飛び降りて無事で済むわけがない。
イトの運が異常にいいように、少年もまた不思議な力に守られているのかもしれない。
イトはそう信じることにした。
森は少し歩きづらいので街の舗装された道になれたイトが森を抜けるのには少し時間がかかった。イトが慣れない森を苦労しながら歩くこと40分。ようやく森を抜け、街が見えてきた。
森を抜けたということはいつレスモに襲われてもおかしくないということだ。
イトとクロは辺りを警戒しながら街を目指し歩き続けた。
街についたイトとクロはグレから預かったメモを確認した。メモには綺麗な字で秘密基地での生活に必要な物の名前が書いてあった。
全てショッピングモールで手に入りそうだったので、イトはすぐ近くのショッピングモールに行こうとクロに提案した。
「そうだな。だいたいソコで確保できそうだ。それより、さっきから全然レスモに出会わないな。お前と一緒にいるからか?」
「わからない…。でもなぜか私はレスモに襲われにくいし、もし襲われてもみんな突然苦しそうに死んでいくの…。」
「ふーん…。まあ、お前の運に頼らなくても俺がぶっ飛ばしてやるけどな。」
本当にこの少年にレスモが倒せるのだろうか、イトはここまで来て再び不安な気持ちになった。もし今レスモに襲われたらイトは大丈夫でもクロは食べられてしまうかもしれない。それどころかイトだって絶対に大丈夫とは言い切れない。イトの運が異常にいいのは事実だし、運以外の何か特別な力が働いている気がするほどだ。しかし、イト自身は15歳の少女だ。運が尽きればどうなるかは火を見るよりも明らかだ。
二人がショッピングモールの入り口についたところで赤く濁った目のレスモが突然現れクロの背後から殴りかかった。クロは間一髪でレスモの攻撃をかわしたが体勢を崩してしまった。レスモはその隙を逃さなかった。体勢を崩し動けない状態のクロの首に素早く食らいつこうとしたそのとき
レスモの口はクロの首まであと10cmというところで完全に動きを止めた。そして、レスモはそのまま不自然に倒れ、死んだ。
「どういうことだ…?」
クロが疑問符を浮かべながら立ち上がると衝撃的な光景を目撃した。
「おい…。お前、どうしたんだその目。」
「目…?」
「真っ赤だぞ、大丈夫なのか?」
イトの目は真っ赤に染まっていた。しかし、レスモになってしまった訳ではないようだ。その証拠にクロに襲いかかる様子はないし、なによりイトの真っ赤な目はとても透き通っていた。
「私の目が…赤い?」
「ああ、もしかしてお前の運と何か関係があるんじゃないか?実際、レスモが動きを止めたときに赤くなったわけだし。」
「そうなのかな。でもなんで目が赤くなんて…。」
「さあな、でもおかげで助かったぜ。やっぱりイトには不思議な力があるみたいだな。ま、俺もだけど。」
「さっき食べられそうだったくせに…。」
「さ、さっきのはいきなりだったから!!仕方ないだろ!」
クロは少し悔しそうに早く先に行こうとイトを急かした。
その後、何度かレスモと遭遇したがイトの不思議な目とクロの高い身体能力で難なく返り討ちにした。
秘密基地での生活に必要な物も全て手に入れたので二人は秘密基地に帰ることにした。
最初は心配だったお使いだが、案外簡単かもしれないと帰路についたイトは安心しかけたが、二人の帰り道でとんでもない悪魔が待ち伏せしていた。