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第7話 第1拠点


 R-4は移動部屋でクイーンシティに帰ると、いきなり王宮執務室に現れて国王を驚かせた。


「R-4! まったくお前は神出鬼没だな」

「うんー、チョット急ぐノ。これをね、クイーンシティ全員に投与してホシイ」

「え? 急ぐのか? 」

「急ぐヨ、大特急」

 すると国王は、ハハハと笑って「なんだその、大特急ってのは」と言いながらも、クイーンシティの全員が薬の投与を受けられるようにと、側近に指示を出す。

 約200年の長きにわたり、クイーンシティの支えになってくれているR-4たちは、国王ならずとも人々に厚い信頼を得ている。彼の言うことなら間違いないだろうと、そのあと、国を挙げての「老若男女ワクチン投与大作戦」が行われたのだ。

 そしてこのワクチンは、人だけでなく、牧場の一角獣、そして野生の動物が飲み水にしている川や湖にも投与され、彼らの命も守ることになった。


 国王にワクチンを渡したR-4たちロボは、遼太朗を病院へ降ろすと、プロジェクトチームのいる砂漠へと取って返す。

「アンタたちも全員コレ投与」

 有無を言わさず、移動車を周りながら投与の指示を出すR-4。

「これは何の薬? さっきの遼太朗と関係あるの? なんでこんなこと知ってるの? ねえーR-4~」

 ハリス隊のお調子者、カレブがR-4に抱きつきながら言う。

「カレブ、セクハラー」

「えー、R-4男の子でしょー、セクハラと違うよ~」

 なおも抱きつこうとするカレブを、ポイッと放り投げて、R-4は次に泰斗の所へと向かった。


 途中でラバラに出くわした。

「ラバラさま、ワクチン済んだ? 」

「おや、R-4じゃないかね。なんだかさっき、女子がわらわらとやって来てな。無理矢理投与していきおったわ。あれがワクチンだったのかね。まったくお節介な子たちだよ」

 言葉とは裏腹に、ラバラの口調は楽しそうだ。

「だったらいーよ。じゃアね」

 通り過ぎようとするR-4を、なぜかラバラが呼び止めた。

「Rよ」

「ハイ? 」

「このワクチンというのは、詳しいことはわからんが、遠い昔から現在までの遺伝子を利用しておると聞いた。今回のはいつ頃のを使ったんだい? 」

「ほぼ200年前。ルティオスさまと星月の愛娘のヲ、使っテルよ」

 R-4の説明を聞いていたラバラは、微笑みながら言った。

「そうか。数ある遺伝子の中から、ウイルスに適合するものを選定するのは至難の業じゃと思うがの。今回はやたらと早かったのお、まるで前からわかっておったようじゃ。それはなぜかの。ただ、ついておっただけなのか? 」

 含みのあるラバラの言葉を聞いたR-4は、しばらく返答しなかったが、ピッと一瞬目を光らせたあと言った。

「それはネー、占ってもらっタノ」

「ほほう? 」

「むかーし、ラバラさまみたいなのがおったのジャ。もっーと食わせ者じゃったガナ。ソレガ、200年前の遺伝子を用意シテおけ、トナ」

 自分の口調を真似して言うR-4に、いきなり大笑いしながらラバラが言う。

「ハハハ。面白い奴じゃの、お前さんは。そんな食わせ者の占い師の話は、聞いたことがないがの。お前、本当にロボットなのかい? 」

「R-4、正真正銘のロボット、だよー」

「そうか、良い良い」

 言いながら、ラバラはまたどこからかカードを1枚取り出した。

「ほほう」

「ナニ? 」

「私は負けず嫌いでな。食わせ者に対抗して占ってやった。今度何かあったときは、13?…、…いや、130年ほど昔の遺伝子を調べてみろ、とのことじゃ。覚えておくと良い」

「ワカッタ。ケド、ラバラさまも本当にただの人? 」

「こいつ。私はよーく当たる占い師のラバラじゃ」

 そう言って、また豪快に笑うラバラとR-4は、そこで右と左に別れていった。


 R-4は、そのあとロボットチームの移動車を訪れた。

「あれ、R-4~どうしたのー? 」

 ここにもひっつき虫がいるー、と、R-4が思ったかどうか。抱きついてくるジュリーをポイっと放り出して、R-4は泰斗に話しかける。

「泰斗、あノネ」

「うん、なに? 」

「とおーっても大事なコト言うよ。あの洞窟にはね、もう誰も降りていっチャ、だめ。ボクの言う方法でガチガチに固めて、2度と開けナイようニ」

「え? 」

 一応、ロボットチームの責任者である自分を差し置いて泰斗に言うR-4に、途端にすねまくるジュリーを見なかった事にして、R-4は地下室を固める方法を伝授した。

「にしても、何でそんなに厳重に? 」

 横ですねながらも説明を聞いていたジュリーは、そこはさすがに大人である。話が終わると真面目にR-4に質問をしてきた。

「ウィルスがいるからネ。即効型ミタイだし。変異を起こす前に封印。ワクチンがあるからって、安心シチャだめだよー」

「わかった、じゃあプロジェクト隊長に連絡しなくちゃな」

 ジュリーは真面目な態度のまま、斎に連絡を入れようとしたのだが。

「斎にはもう話シタヨ。それと、斎は嫌がってるンだから、隊長ってイワナイの」

 すかさず指摘するR-4に、今度こそジュリーは本当にすねてしまう。それを笑いながら横目で見ていた泰斗は、

「ジュリー先輩、すねてる場合じゃないですよ。ジュリー先輩の力がないとダメなんですから。ロボと重機用意して、多久和さんの所へ急ぎましょうよ」

 すると、ジュリーはとたんに機嫌を直す。

「お、さすがは泰斗くん。よくわかってるねー。おし! 急げ急げ」

 やる気満々で出て行くジュリーのあとについて出て行こうとした泰斗が、振り向きざまにR-4にウインクをする。

 そのあと、2人の後ろ姿にため息をつきながら言うナオと、可笑しそうに答える水澄。

「まったく、お子ちゃまな先輩を持つと大変です」

「まあまあ、それが彼の良い所よ」

 R-4は最後に「じゃあネ」と、彼らのあとについて移動車を降りて行ったのだった。


 R-4がなぜそんなに厳重に地下の洞窟を封印したのか。それは、彼ら移動部屋のロボだけが知り得る事だが、そこには200年前に存在した、動物だけをピンポイントで殺す兵器、あるいはその製造設計図があると思われたからだ。

 そんなものを不用意に残しておいては、かつてのように悪用しようとする輩が出てくるかもしれない。こんどこそ、クイーンシティの歴史が終わってしまうかもしれない。

 今回、ウィルスを盾にとって人の出入りを禁止した上で、地下の封印は無事終えることができた。その際に探索を行ったロボが、中の機械装置やコンピューター、そして資料をくまなく破壊・破棄したのは言うまでもなかった。




 しばらく残って後処理をするというR-4たちと別れ、プロジェクトチームはまた移動を続けていた。

 また2日がたっていた。

 この2日間は、それこそ目もくらむような砂・砂・砂だらけの大地を、ただひたすら進むだけだった。あのあと、建物ひとつ見当たらない。

 コンピューターの計算する方角に間違いはなさそうだったが、このあたりで1度微修正が必要かと、その日、斎はラバラに星読みを依頼した。



「あんたは良い勘を持っておるな、今日は星読みにはうってつけの満天じゃ」

 ラバラの指示でハリス隊が、ペンタグラムを中心に置いた魔方陣が描かれた、大きなシートを広げている。移動車の屋上に乗ってそれを見下ろしていたラバラが、下にいる斎に向かって言った。

「ありがとうございます」

 斎は少し面はゆそうに礼を言って頭を下げた。


「このあたりで良いですか? 」

 指揮を取っていたハリスが聞く。

「ああ、あと3度、時計回りに動いておくれ。…おお、ぴったりじゃ。さすがはハリス隊」

 そのあと、シートを固定するための重しを隙間なく乗せていく。

「ほいほいっと」

 カレブが渡す重しを受け取りながら、レヴィが当たり前の事を聞く。

「ラバラさま、ここって地面が平らじゃないから、このまま置くとデコボコになってしまいますよー」

「おお、そうじゃの。だが星読みには影響せんからそのまま置いとくれ」

「はい、了解です」


「でも、今日は本当に星がきれい~」

「そうですわね。ロマンチックですわ」

 花音とパールは話をしながら星を見上げているが、その手は休まず確実に重しを置いて行く。

「文明社会に穢されずに200年続いている星空か」

 ティビーも話に加わる。

「わあ、そうよねそうよね、200年も穢れてないんだわ。素敵ー」

「ステキー」

 男どもは、何が素敵なのかさっぱりわからないようだ。


 準備を終えると、ハリス隊は静かにその場を離れる。そうして、周りの明かりがすべて落とされた。

 移動車の屋上で時を待っていたラバラは、ひとつ息を整えると、何語でもない言葉で奏でる、心地よい音階の響きを口ずさみ始めた。

「♪~♪~~♪」

 周りにいたメンバーは、心を直接癒やすようなそのメロディに、うっとりと聞き入っている。

 すると、地面に置いた魔方陣がかすかにきらめき始める。

 そして、空の星が、それに応えるようにあちこちで瞬き始めたのだ。

「うわあ~~」

 魔方陣のきらめきの強弱にあわせて、星々も強弱をつけて瞬く。まるで地面と空で、オーケストラを奏でているようだ。

 誰しもがそれに見入っていると、空にあるペンタグラム星座が、よりいっそう誇張するように瞬き始める。そうするうち、中央から金銀が飛び出して、それは彗星のように尾を引きながら、砂漠の一方向へと消えていったのだった。

 ラバラは静かにひざまずき、そのまま深く頭を垂れた。


 最初の星読みを終えて、移動の方角が決まったプロジェクトチームは、金銀が消えたあたりを目指して進んでいく。

「こちらハリス隊。前方にまた何か…。あれは? 」

 先頭を飛ぶハリス隊から、また連絡が入る。

「建物ではありません。植物のような…。その奥には、水? 」

 なんと、それはオアシスとも呼べるべき池と、周りに生い茂る木々だった。



「ヒュー! 全身水につかるなんて、1週間ぶりだぜ! 」

 ザバーンと池に飛び込んだイサックが叫ぶ。

「イサック、あっちまで競争」

 またカレブが調子づいている。

「負けねえぜ」

 競泳を始めだした2人に、面白がって参加をはじめる男子たち。

 星読みで見つけたオアシスの池は、あとからあとから渾々と綺麗な水がわき出して来るのだ。おかげでメンバーたちは、久しぶりにふんだんに湯や水を使え、生き返ったようだった。

「さすがはラバラさま。オアシスを見つけ出すなんてすごーい」

「私が見つけたんじゃない。星が導いてくれたのさ」

「それと、リトルペンタちゃん? 」

「綺麗だったわねー」

 池の横に簡易温水プールを作ってもらった女子組は、身体を温めながら話に花を咲かせている。


 ひとしきり身体を休めたあと、プロジェクトはここを移動の第1拠点とするべく、まずはまわりの安全調査を開始していた。それとともに、移動車だけでは手狭なため、簡易の宿泊施設を建造し始める。簡易と言っても、正式に拠点となった場合はそれを利用するため、基礎はかなりしっかりしたものだ。

 時田とトニーに、空間移動拠点としての必要な設備を示してもらい、丁央は雪乃と2人、建物の設計を任されていた。

「俺の方としてはこんな感じなんですが、雪乃さんから見てどうですか? 」

 丁央は自分の設計図を雪乃に提示してみせる。

 雪乃はかなり詳細な所まで、丁央に説明を求めながら検証していく。最後にひとつ頷いて答えを返した。

「そうね。いいんじゃない? 」

「でも、私はここにもう一つ予備の部屋があったらいいな、と、思うんですけど」

 すると、いきなり2人の背後から声がした。

「月羽さん」

「月羽?! 」

 2人が見ているタブレットを後ろからのぞき込むようにしている月羽がいた。

「どうしたの? 月羽さん」

「午後のお茶をお持ちしたんです。声をかけようとしたんだけど、おふたりともすごく真剣で声をかけづらくて。あ、でも今のは忘れて下さい。ごめんなさい、シロウトが口を挟むことじゃないかも」

 少し照れたように頬を染める月羽を、ポカンとして眺める丁央。

「いいえ、大事なことよ。で、なぜここに予備の部屋があれば良いと思うの? 」

 そんな丁央に気づいたのかどうか、雪乃は月羽に聞く。

「予備の部屋って言うか、ワンクッションなんですけど、これだと外から入ってきたとき、丸見えだなーって。こっちは女性が使うんですよね? 」

「ああー、そうかー。そうよねー。ふふ、私ったら、移動拠点っていうので頭がいっぱいで、効率最優先だったわ。そうよね、私たちはまがりなりにもレディですもんね」

 チョッピリお茶目な表情で、雪乃はタブレットを操作する。

 すると、即座に月羽が指し示したあたりにワンクッションの部屋が設置された。

「へえー、やっぱり女の人の考える事は違うんだな。男にはわかりづらいや」

 月羽に見とれていた丁央が、立ち直って言った。

「あら、その言い方だと、わからなかった私は女らしくないのかしら? 」

「え? いや、違いますよ! 雪乃さんはなんて言うか、やっぱプロの視点だなって」

「ふふ、冗談よ。じゃあお茶にしましょ」

「はい! 」

 お茶のセットを置いて立ち去ろうとする月羽を、せっかくだからご一緒に、と、雪乃が呼び止める。丁央は雪乃さん、グッジョブ! と心の中で親指を立ててみせるのだった。


「ううーん。さすがは多久和 斎! 空間移動研究の設備をたっぷり備えつつ、この快適な居住空間! やっぱり天才建築家は違うねえー」

「あのー、時田さん」

「うん? なんだい丁央くん」

「設計したの、雪乃さんと俺なんですが」

「おおー! そうか! さすがは女性ならでは」

「だからー、俺も一緒にー」

 掛け合い漫才のようなやり取りをするのは、時田と丁央だ。

 出来上がった簡易の宿泊施設に、チームメンバーは今日から寝泊まりすることになった。その案内役を丁央は買って出たのだが、時田にかかると、どうもやりにくい。

 だが、その時田は、一刻も早く開発に取り組みたかったのか、他の部屋を風のように通りすぎたあと、研究設備が設置された部屋へと取って返す。のんびり部屋の見学を続けていたトニーも、その勢いに急かされて苦笑しながらあとへ続こうとした。

「研究熱心なんですね、おふたりとも」

「時田は研究が好きでたまらないんだよ。それに、ここに皆を長いこと足止めするわけにも行かないし」

 マヒナが感心して言うのに答えると、トニーは軽く手を上げて部屋を出て行った。



 砂漠のオアシスは、ときおり鳥が飛んでくる以外は静かなものである。

 ここに滞在して、そろそろ2週間が過ぎようとしている。

 99%完成しつつある移動装置の調整をしていた時田は、たまには休憩を入れろ、と、部屋に来るチームの全員に口うるさく言われるのに辟易していた。

 たまったもんじゃないと、いったん仕事をやめて椅子を外へ持ち出し、水辺を背にして砂漠を眺めている。

 そこへコーヒーカップをふたつ持ったトニーがやって来て、ひとつを時田に渡した。

「お、ありがとよ」

「どういたしまして」

「まったく。皆、休め休めってうるせーこと」

「放っておくと、3日くらい平気でぶっ続けだからな、時田は。…? どうした? 」

 コーヒーを飲みつつ椅子から立ち上がった時田が、少し先を指さしながら言う。

「来るぜ」

「来るって、何が? 」


 すると、時田の指し示したあたりの空間が、グニャグニャと歪みだした。

「あれは…」

 驚くトニーの目の前に、R-4たちが住む移動部屋の入り口が現れたのだ。トニーはあきれるやら可笑しいやら。思わず吹き出しながら言う。

「まったく、どれだけ移動部屋が好きなんだ、時田は」

「良いじゃねえか。で、ロボットチームのあの泣き虫を呼んでやるといいぜ」

 と、また指さす先には、ゆっくりと移動部屋から降りてくる遼太朗がいた。



 数十秒後、泣きながら遼太朗に飛びついていく泰斗の姿があった。




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