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第6話 傾く建物の下

 砂漠は永遠に続いているかのようだ。


 けれど、歴史をさかのぼれば、砂漠の下にはたくさんの国があったのだ。ゆるゆると進んでいくチームに、たまにそのことを証明するような証が現れる。

「前方に、また建物のようなものを発見しました」

 先頭を進むハリス隊から、通信が入った。


 出発から2日がたっていた。

 最終目的地はジャック国と決定しているが、行程は定まっていない。

 はてしない砂漠に埋もれる未知の国。どんな人が住んでいたのか。どんな暮らしをしていたのか。それを知るためには、ただまっすぐ進むだけではなく、砂漠をあちらへこちらへと迂回して、少しでも手がかりがあれば、その場所にとどまってしばらく調査をするのだ。

 それとともに、移動拠点に出来そうな場所を見つけるという仕事もある。そのため、行程は超スローペースだ。


「今度のはどんな様子だ? 」

 斎が聞くと、ハリス隊副隊長であるゾーイの声がした。

「何の変哲もない建物ですが、かなり傾いています。ブラックホールに引っ張られながら、かろうじて残ったものではないかと思われます」

「…そうか。そういう建物ははじめてだな。だったら、1度調査しておく必要があるか…」

 斎はそう言ったものの、危険を伴うであろう事は間違いないため、少し躊躇している。

「歴史的見地から言っても、ブラックホールに引っ張られた建物というのは、興味深い」

「今後、こんな建物はわんさと出てくると思うよ。重機の使い方やロボの利用の仕方なんかを、ここで試してみたいんだけど? 」

 すると、朔とジュリーが、おのおのの移動車から通信で声をかけてきた。

「お前たち。…わかった、では調査のため、しばらくここにとどまることにする。2人ともありがとうな」

「いや」

「とーぜんの事言っただけ」


「じゃ、この辺でなるべく地盤が丈夫で平らなとこ、見つけるねー」

 ジュリーはそう言っていったん通信を切ると、振り返って親指を立てる。

「泰斗くん、お仕事だよ。砂漠の透視と地盤調査」

「わかりました。ナオ、行こう」

「ラジャー」

 泰斗は移動車を降り、重機が集まる一画へと急ぐ。

 ナオはロボット用の移動車へ乗り込むと、それを少し浮かび上がらせ、砂漠をあちこち飛び回る。透視ロボに砂の中を透視させているのだ。

 しばらくすると、ナオは移動車から目印の杭を地面に打ち込んだ。四角く囲まれた地面を見て、「うん」と言いながら泰斗に声をかける。

「泰斗先輩、杭で囲った中には、障害となるようなものは見当たりません。地盤を調べてもらえますか? 」

「了解」

 そう言うと、泰斗は無人の重機を遠隔操作して、囲いの中へと入らせた。

 ウイーン、トントントントン、と、静かな音を響かせながら重機は囲いの中をくまなく調査している。

 やがて最後の杭のあたりまで来た重機は、止まって何やら計算を始めた。

 数秒後、手に持ったタブレットに送られたデータを見た泰斗は、嬉しそうに頷いた。

「…えーっと、多久和隊長、地盤調査終わりました。杭の中なら大丈夫そうです。それから、ナオ、完璧~さっすが~」

 タブレットであっちとこっちに通信する泰斗。

「了解。では、皆、杭の中へ移動してくれ。…それから泰斗、隊長はやめてくれと何度も言っただろ」

「泰斗先輩、ありがとうございます! えへへ」

 斎とナオがそれぞれ返答している間に、移動車は杭で囲んだスペースへと次々入って行くのだった。




「腕が落ちたんじゃないか、丁央? 」

 ハリス隊の移動車前にベンチを持ち出して優雅に寝そべるハリスが、ニヤリとしながら息の上がる丁央に言う。

「はあ、ハア、…だって…この人、うわ! 容赦ないんだもん! 」

 ドシンと投げ飛ばされた丁央に向かって、手合いの相手をしていた隊員が言う。

「情けない」

 ビシッと言い放って去って行くのは、副隊長のゾーイだった。その後ろ姿に、ブツブツとつぶやくように言う丁央。

「こっちはシロウトなんだから、ちょっとは手加減してくれてもいいのに」

「なに? か言ったか? 」

 足を止めて戻ってこようとするゾーイにブンブン手を振って、丁央は乾いた笑いを繰り出す。

「あはは、何でもないです。参りました! 」

 言いながらぺこんと頭を下げる丁央に冷たい視線を放って、ゾーイは今度こそ移動車へと入って行った。


 ここは杭で囲まれたプロジェクトチームの滞在スペースだ。

 移動車や重機を納めても余りがあるほどの場所が確保されている。

 ハリス隊はこれまで、訓練と鍛錬をかねて、1日1度は砂漠に降りたち、徒歩での移動や砂の上での手合いをしてきた。今は移動もないので、広いスペースを活用して鍛錬場にし、身体がなまらないようにしている。そこにたまに、さっきの丁央のように他のメンバーが加わったりする。

 他の者たちも、思い思いに空いたスペースを利用して、わざわざキャンプを張ったり(主に冒険好き男子の発案)、砂地を利用したスポーツをしたり。

 その中でロボットチーム、特に泰斗は、砂地でのロボットの動きを確かめては整備を繰り返している。

 また、ラバラさまは星読みのための天体表を広げることもある。

「このあたりは、本当に星が綺麗ですねえ。この子の明かりなんかじゃ、てんで歯が立たないわ」

 投光器をつけたロボで、細かいところが見えにくいというラバラのために、天体表を照らしながら水澄が言う。

「いーや、そいつの明かりはたいしたもんだよ」

「そうなんですか? 」

「試してやるよ。おお、ちょうどよい。明かりを消してごらん」

 空を見上げていたラバラの目がある一点にとどまったかと思うと、そんな風に言う。

 水澄は何だろう、と思いつつ投光器を消した。

「わあ…」

 とたんに空に川が流れ出した。いや、本物の川ではなくて、星の川が。

 一直線に群をなして並んでいる無数の星たち。あちらこちらで瞬く星のきらめきが、本当に水が流れているように見える。

 今までは、投光器の明かりが邪魔をして見えなかったのだ。

「なんてきれい…。でもこんな少しの明かりで見えなくなるなんて」

「だろう。星は恥ずかしがり屋なんだよ」

 ニイッと笑うラバラが可愛くて、思わず抱きついてしまう水澄だった。



 とは言え、何も遊んでばかりいるわけではない。

 月羽を含めた研究班は、ジュリーにロボを操作してもらい、砂漠の地表やその下の、新たなエネルギー源を探索している。

 斎と朔が率いる建築班、歴史班は、掘り起こされていく建物とその周辺の調査。

 建物周りの砂を除去する作業をするのは、泰斗が率いる重機ロボたちだ。透視ロボという優れものはいるのだが、それらはまだごく浅いところまでしか透視出来ない。そのため、地中深くの調査は、今のところ砂を取り除いていくしか方法がない。


「さて、この建物がどこまで埋まっているのか」

 斎が言うそばで、丁央が答える。

「そうですね。何階建てかもわからないですよね、これじゃあ」

 そのまた隣にいた遼太朗が言う。

「まあ、泰斗たちに頑張ってもらって、掘り下げていくしかないだろう」

 その言葉を聞いたのか聞いていないのか、泰斗の声がした。

「じゃあ、始めまーす。3人とも、そこにいると砂まみれになっちゃうよ」

 重機が近づいてくると、3人はその場から離れ、それぞれの持ち場へと向かって行った。


「ええっと、歴史班の人どなたか手が空いてません? 」

 傾いた建物の反対側、少し離れた所の土がなだらかになっているあたりを調べていた雪乃が声をかけた。

 朔が向かおうとしたのだが、それを遮るように遼太朗が言った。

「俺が行きます」

 朔のいる場所より、はるかに遼太朗の方が雪乃に近かったのだ。急ごうとする朔を手で制して、当然のように彼は雪乃の所へと移動した。

「どうしましたか」

「刀称くん、ありがとう。早速なんだけどね」

 と、雪乃が建物と反対側に歩きながら砂漠を指し示す。その後ろについて歩きながら、遼太朗は砂がさらさらと落ちていく音を聞いていた。

「! 」

 次の瞬間、前にいた雪乃の腕を取って引っ張り、そのまま自分と場所を入れ替わるように、今来た方へと突き飛ばす。

「え? 」

 何が起こったのかわからなかった雪乃は、離れた砂の上にザザッと滑って倒れ込んだ。

「刀称くん、いきなりどうしたの? …? …刀称くん? 」

 見回す辺りに、遼太朗の姿はなかった。

「刀称くん! なに? 誰か来て! 刀称くんが消えてしまったわ! 」

 叫ぶ雪乃に、周りにいた者たちが慌てて駆け寄ってくる。

「どうした? 」

 斎が雪乃の手を取って、立ち上がらせながら聞く。

「たった今までそこにいた刀称くんが、」

 と、指さす方にゆっくりと近づいた斎の前には、陥没したのか、砂漠にポッカリと穴が開いていたのだった。



「う、…ん」

 気を失っていたのだろう。目を覚ました遼太朗は少し痛む身体を動かしてみる。幸いにも、どこにも怪我などはしていないようだ。見上げると、落ちたあたりはかなり上の方だったにもかかわらずだ。ふわりと積もった砂が、クッションの役割を果たしてくれたらしい。

「ここは、何なんだろう」

 ぐるりと周りを見回すと、ある一画だけが開けていて、その先は真っ暗でよく見えないが、どこかへ続いているようだった。

「もしかして、地下室? 」

 遼太朗は立ち上がると、自分についた砂を払ったついでに持っていた通信機を確かめる。こちらも幸い壊れていない。上の方がザワザワしていたので、とりあえず無事を知らせようと通信を入れた。

「刀称です」

「わあ遼太朗! 無事だったんだ! 良かったぁ~」

 いきなり聞こえてきたのは、泰斗の泣きそうな声。そのあと、

「遼太朗! 」

「刀称くん、ああ、良かった」

「遼太朗、大丈夫か? 」

 と、ごちゃ混ぜの声が聞こえてきて、「うるさいですよ」と思わず言ってしまう。

 そして静かになったあとに聞こえてきたのは、苦笑したような斎の声だった。

「多久和だ。無事で良かった。怪我はないか。今、救出用ロボを降ろそうとしていたところだ」

「ありがとうございます。不思議なことに、かすり傷ひとつ負っていませんでした。それと、新たな発見があります。ここはどうやらあの建物の地下で、部屋が作られていたようです。地下室ですね。できれば様子を見に行きたいのですが」

「地下室? いや、1人では何かあったときに危険だ。それに、2度3度と陥没が起こるかもしれない。とりあえず入り口を固めたいから、いったん上がってきてくれ」

 そう言われると「はい」と返事を返すしかない遼太朗だったが…。


 光が差しているあたりなら大丈夫だろうとふんで、ソロソロと奥へ足を踏み入れる。

 長年換気もされていなかったからだろうか、途中からあたりにもやがかかっている。なぜとはなしに、空気に薄茶の色がついて見える気がした。

 と、同時に。

 ツン、と鼻を指すような臭いがして。

 遼太朗は、またその場にバタリと倒れ込んでしまったのだった。



 降り立った救出用ロボが、倒れている遼太朗を発見し、すぐさま移動車へと運ぶ。

「遼太朗! 」

「遼太朗! どうしちゃったの?! 」

 泰斗が大急ぎでベッドに寝かせた遼太朗の診察を行う。だが、医療ロボが出した結果は。

「原因不明?」

「そうなんだよ、こんなこと今までなかったのに。原因がわからないと治療の手立てがない、どうしよう、丁央ー」

「情けない声出すな。とりあえずロボで洞窟の中を調べてるんだから、何か出てくるかもしれない」

「うん…でも、なんで…、! 」

 今にも泣きそうな顔で考え込んでいた泰斗が、ハッと顔を上げた。

「R-4…だ」

 つぶやくと、泰斗は通信装置に飛びついた。


「ジャあ、遼太朗ハ1度クイーンシティへ連れて行クネ」

「うん、頼んだよ、R-4」

 遼太朗を乗せたベッドが、静かに移動部屋へと入って行く。

 出発のときに見送りに来たR-4が、泰斗に言ってあったのだ。

「クイーンシティの近くデ原因不明のコトガあったときは、すぐにボクをよんでネ」

 と。




 そしてここは、R-4たちが住む? 移動部屋の中。

 ベッドに横たわる遼太朗を医療ちゃんが診察している。

「★〆○◎☆ゞ」

「やっぱり例のウィルス? 医療チャン、えらーい」

「↑■▽」

「ウン。じゃあ早速始めテ」

 医療ちゃんは、ルティオスと星月の融合遺伝子から作り上げた抗体薬を、てきぱきと遼太朗に投与しはじめる。

「よろしくネ。ボクは分析ちゃんとワクチン作っとくねー」

「★★」

 歴史のやり直しをする前に、クイーンシティを滅ぼしたウイルスは、やはりというか、意外というか、ここにも存在していた。

 しばらくして、薬が効いてきたのか、次第に血色を取り戻す遼太朗の頭を軽くなでると、R-4はたくさんの遺伝子が並ぶ一画へと移動していった。




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