プロローグ
新行内の家に、また新たなベイビーが誕生したと移動部屋に連絡があったのは、3日前の未明だった。
そして今日、名前が決まったと連絡があった。
新行内 泰斗。
それがニューベイビーの名前。
「あレ? おもしろいネ。丁央、遼太朗、ニ続いて、また、おんなじ名前」
「☆◎■▽←ゞ〃◆□、」
「ウン、まさかとは思うケドねー。ちょっくら、行ってミっか…」
「▽●ヾ」
「えー?! ダメダメ。君たちハ、外出ちゃあ、だめっショ」
「★★☆」
「ええー、モウ、仕方ないナー」
と言うわけで、ここはクイーンシティ中央総合病院。
ここ最近、人がロボットを連れて歩くことはそう珍しくなくなってきたが、ロボットが単体で、いや、この場合は集団で、ゾロゾロ歩いて? いるのはかなり奇妙な光景だった。
受付で、愛想笑いを浮かべ、馬鹿丁寧な言葉使いをする受付嬢から、
「それでしたら、301号室ですね。あ! 場所はおわかりになりますか? あら、あらーそうですわね、ロボット様でしたわね。申し訳ございません」
と、病室を聞き出したR-4たちは、また周囲の注目を浴びながら、列をなしてエレベーターへと向かったのだった。
「R-4! 来てくれたの? あら、まあ! 分析ちゃんも、医療ちゃんもいるじゃない。いいの? あなたたちは外に出ちゃいけないんじゃないの? 」
泰斗の母親、静流は、入ってきたR-4たちを見て目を丸くする。
分析ちゃんとは、分析ロボット。医療ちゃんとは医療ロボットのことだ。
静流が言うとおり、R-4以外のロボットたちは、めったに移動部屋から外へ出ることはない。
「ウンー、イイノいいの。デ、ベイビーは? コレ? 」
「これって、失礼ね! ふふ、そうよー、ねえ、可愛いでしょー」
静流はとろけそうな笑顔で言う。
R-4は、なぜ人というのはこんなサルみたいな赤ん坊を可愛いというのか、さっぱり理解できないのだが、長年の学習が功を奏して、お世辞を言えるまでになっていた。
「トッテモ可愛い部類ニ入る」
そのあと、R-4は顔をのぞき込んで頭をなで、プチン! と1本、髪の毛を失敬した。
すると、
うわぁ~~ん…
少し痛かったのか、泣き出す泰斗。
「あらあら、どうしたのお、たーいとくん。よしよし、よい子ですねえ、」
静流がすかさず抱き上げて、優しくあやす。
「モウ、泰斗の泣き虫」
その横で、R-4が言うのを聞いて、静流は可笑しそうに言った。
「赤ちゃんが泣くのは、それが仕事だからよ。ほら、もう泣き止んだ、ホントによい子ねえ、泰斗は」
そんなやり取りの間に、R-4はさっき抜いた髪の毛をそっと分析ロボに渡していた。
移動部屋に戻ったロボたちは、早速その髪の毛をDNA鑑定にかける。
「…ピッタリ一致シタ。なんてコッタ。彼ハ、正真正銘、僕たちを作った、新行内 泰斗ダヨ」
「△▼☆ゝ」
「ウン、そーダね、DNA全部一致ハ彼だけ。不思議だネ、100%の泰斗が帰ってきちゃった」