第11話 第2拠点
「これがバリヤの正体じゃ」
ラバラがそう告げる間にも、戦闘ロボットはどんどんこちらに迫ってくる。
応戦しようと銃を向けたハリス隊に、「大丈夫じゃよ」と、ラバラが通信を通して声をかける。
「え? でも」
と、抗議の声を上げるメンバーに向けられたロボットの攻撃は、まっすぐハリス隊を襲っては、…こなかった。
薄い膜のようなバリヤに、飛んできた弾は通り抜けられず、そればかりか、ジジジ、と、ノイズのような音を立てて空中でぶれながら止まっている。
そのぶれがだんだん大きくなって、パタリと動きが止まると、弾はスルーっと地面に落ちてしまった。
「あれ、どーうしちゃったのー? 」
「どうしたんだろ? 」
カレブとティビーが驚きの声を上げる。
「ラバラさま、これってどうなってるんですか」
花音が聞くと、ラバラは一言。
「わからん! 」
カレブ、ティビー、イサックに花音はガクッとずっこけたり前につんのめったり。
「ちょっとおー、ラバラさまー。大丈夫って言いながら、わからんって、勘弁してよ」
「わからんものはわからん、ハハハ」
カレブが言うのに、豪快な笑いを返すラバラ。
「内側も同じなのかしら? 」
パールの疑問に、ハリスが銃を取り出しながら言う。
「どうかな、…おい、泰斗、試してもいいか? 」
すると、焦ったような泰斗の声が聞こえてきた。
「ええっ? 調査はこれから。そんなに早くわからないよ。とにかく銃はだめ。えーと、ボールとか、小石とかなら」
すると、ワイアットが小さな石を拾って言った。
「よし、俺が試してやる」
「あんまり力入れちゃダメだよ! 」
と言うそばからヒュッと小石がワイアットの手から飛んでいく。
ポウン
鈍い音を立てて当たった小石は、止まることも、跳ね返ることもなく、そのまま下へ落ちた。
「こちら側には仕掛けなし、か。ただ、この壁は衝撃を吸収するようだな」
その声にかぶって鈍い音がした。
ドン! ジジジ…
弾の件で、完全に戦闘ロボットの存在を忘れていたハリス隊だったが、今のでようやく気がつく。
「そういや、外にはロボットがわんさといたんだな」
見ると、壁を破ってこようとした戦闘ロボが、反対に壁に捕まって、しびれたようにガタガタしている。
しばらくすると、ショートしたような火花を散らして、ロボットはその場に崩れ落ちてしまった。そうやって次々戦闘ロボは崩れ去る。さすがに学習能力が働いたのか、その後ろにいたロボットは攻撃をやめた。
「まったく、どうなってるんだ? 」
「それを調べなきゃね。でも、ダイヤ国が鉄壁の守りを誇っていたって言うのは、これのことだったんだね」
ハリスと泰斗のやりとりに、頷きながら、あらためてドームバリヤに守られた空や、外の砂漠を眺めるハリス隊のメンバーだった。
その頃、エネルギー開発室へ取って返した斎は、月羽たちエネルギー班、そしてロボット班と、外へ漏れ出す流れを止める方法を模索していた。
砂漠に上がる噴煙は、5つを数えたところでその動きが止まっている。だが、このまま放っておく訳にいかないことは目に見えて明らかだ。
「とにかく、今のうちにエネルギーの流れをストップして、これ以上戦闘ロボが起動しないようにしなくては」
「そうですね。文字や言葉の翻訳が難関らしくて、これがスムーズならもっと早く進められるんですが。歴史班の方は本当に大変そうです」
「R-4がいれば、簡単かな」
「あら、ホントだわ。焦ってて考えもつかなかったわ。じゃあ、呼んでみますね」
そんな会話をしている部屋へ、泰斗が入ってくる。
とりあえず国内の安全は確認されたので、バリヤ部屋の解明よりもこちらが先決だろうと、彼らに協力するため戻ってきたのだった。
「ダメだよ」
「だーめなノ」
同時に発せられた、生の泰斗の声と通信から聞こえるR-4の声に、こんな時なのに、思わず微笑む斎。
「泰斗。R-4。相変わらず良いコンビだな、ふたりは。で、何がだめなんだ? 」
「あノネ。そのドームの中ニハ、移動部屋の入り口、設置デキナイ、みたい」
「ドームの外になら来られるんだって。でも、それじゃあ戦闘ロボの餌食だよね」
「ソンナノ、嫌でス」
緊急事態の連絡を受けて、R-4は移動部屋を飛ばそうとしてくれていたのだが、何度やっても、なぜか座標がダイヤ国の外へとずれてしまうらしい。
「そうか」
「だからネ、トニーと時田の出番」
「え? 」
「移動装置を組み立ててモラウの」
「ドームの中に設置して大丈夫なのか? 」
「計算上はダイジョーブ。やってみなくチャ、わからナイケドね。さっき連絡入れたカラ、きっと大張りきりダヨ」
そしてここは、電源ルームの向かいにあるだだっ広い部屋。
何もプレートがかかっていないところを見ると、もとは会議室か何かに使われていたのだろう。
「久しぶりの仕事だぜーえい! 身体がなまっちまったぜ、まったく」
「嬉しそうだな」
相変わらずのやり取りをするのは、トニーと時田の2人。
R-4からの連絡を受けて、移動装置を組み立てるために広い部屋がいる、と、騒ぎ出した時田に、ここを使うよう斎が提案したのだ。
第1拠点から持ってきた移動装置のパーツが、作業ロボによって次々運び込まれている。
「これで最後だったけど、全部揃ってる? 確認してね」
ひょい、と、入り口から顔を覗かせて水澄が言った。
「うぉーい、完璧完璧。やっぱ、むさ苦しい野郎より、美人と仕事する方が楽しいねえ」
「あら、おせじ言ったって何にも出ませんよ、時田さん」
可笑しそうに笑って、「何かありましたら連絡して下さい」と、水澄は廊下を引き返していった。
「では、むさ苦しい野郎で楽しくないだろうけど、仕事を始めようか」
「おう! 」
トニーの嫌味にも、少しも悪びれることなく、時田は目を輝かせて仕事に取りかかっていった。
「とりあえず、完成だー! はぁー…ち、ちょっと休むぜ」
異例の早さで組み上がった移動装置を前に、さすがにへたり込む時田。あとは試運転を残すのみだ。
「珍しいな」
「なーにがー」
「時田が新しいことに挑戦せずにいることがさ」
不思議そうに言うトニーに、むっくりと起き上がって時田が言う。
「俺だって、時と場合ってのはわきまえてるさ。今は一刻も早くR-4を呼び寄せにゃならんだろ? 」
頷くトニーに、時田は力強く言う。
「落ち着いたら、R-4部屋のグニャグニャよりも、もっとすげえのを付け加えてやる! 」
肩をすくめながら、「じゃあ、試運転だ」と、トニーは第1拠点に連絡を入れた。
さすがは空間移動の第一人者たち。瞬く間に完成した移動装置は、計算された通りきっちりと転送を成功させた。
「R-4~」
移動装置に現れたR-4に飛びつこうとして、またかわされた時田をほっぽって、R-4とその一行はエネルギー開発室へ向かう。
「お邪魔、シマス」
「R-4! 分析ロボ! 」
大歓迎を受けたR-4たちは、早速それぞれの持ち場についてサポートを始める。
ディスプレイに示されるダイヤ国の文字や言葉や文章を翻訳して、横に浮かび上がらせたもうひとつのディスプレイに次々映し出すR-4。
「う~ん! 悔しいけど、やっぱりR-4は処理能力が違いすぎるー」
「R-4ってば、実はダイヤ国で作られたんじゃないの? 」
さんざん苦労していた歴史班のマヒナとレイラが愚痴っぽく言う。
「ンなわけ、ないデショ」
と、翻訳を続けながら軽々言うR-4に、もう一度悔しがる2人だった。
「なるほど、そういうことか。やっぱり図を見ているだけじゃ、理解しきれないことがいっぱいあるわね」
月羽が感心したように言う。
長い文も短い文も、書かれている内容を片っ端から翻訳した結果、外に漏れ出しているエネルギーがあるようで、それは正規ルートのどこかで密かに操作されているのではないかと推測した記載があったのだ。
「と言うことは、ダイヤ国の中に、国を裏切る者がいた? 」
「か、国を売ったか」
「騙されていた、と言う可能性もあるわね」
皆、色々と推測するが、今はそれを追求しているときではないだろう。
「それはともかく、操作されているところを探し出すのは難しいか? 」
と、斎が聞く。
「それを探し出して止められるのは、私たちではなくて」
ディスプレイ前の机には、エネルギー班と交代したジュリーと泰斗が座っていた。
「彼らですね」
「そうだな」
ジュリーは分析ちゃんと組んで、建物内のエネルギーの流れを調べている。
泰斗はその大きな流れを見ているうちに、所々に中継場所のようなものを見つける。そこにおかしな点がないかを確認しはじめた。
途中から泰斗は、R-4と作業をしていると、驚くほどスムーズに仕事がはかどるのを感じ始めていた。よく考えてみると、実際に顔をつきあわせて複雑な仕事をするのは、今回が初めてかもしれない。
今まで色んなロボを相手にしてきたが、これほど、何というのか、お互いがよくわかるような経験をしたことがない。ロボットが人の心を先読みするはずはないのだが、R-4はときおり、泰斗が打ち込もうとした言葉を先に入力していたりする。
「R-4って僕の考えてる事がわかるみたい」
「なんのコト? 」
「ううん、なんでもない。でも、R-4を作った人ってどんな人なんだろう。すごく興味がわいちゃった。いつか教えてね」
「………」
長いこと返事をしなかったR-4が、ポツンと聞いたこともない言葉で言った。
「☆ξΩ▼◎☆」
「え? 」
「忘れタ…ヨ」
「あった、たぶん、これ」
2人と2台の奮闘により、外に漏れ出すエネルギーを操作していると思われる中継場所が見つかった。灯台もと暗しというべきか、なんとそれは先ほど斎と丁央がいた隣のビルだ。流れが漏れている、まさにその近くで操作が行われていたのだ。
急ぎ現場へと向かう泰斗たち。
到着してみると、そのあたりはただの壁しかない。泰斗たちのあとからやって来た分析ちゃんが、壁はもとより、床や天井までくまなく調べだしたと思うと、壁のすみのほう、床に近いあたりにライトを当てる。
泰斗はかがみ込んでライトが当たる所に手を這わせてみた。
フォン…
何かが手に触れたような感じがしたあと、軽い音がして、小さなディスプレイが浮かび上がる。
「見つけた。R-4、翻訳たのむね」
「アイヨ」
床に這いつくばるようにして、浮かび上がったディスプレイと、その横に出ているR-4が翻訳した画面を見る泰斗。
「ええーーーっと、見えにくいなあ…。それにこんな変な格好してたら怪しまれそうだよね~。あ、もしかして」
泰斗は何を思ったか、ディスプレイに手のひらを当ててすっと上へスライドした。するとディスプレイごと上の方へ移動していく。
「おお、やるねー泰斗」
ジュリーが楽しそうに言うのに微笑み返すと、また泰斗はディスプレイに目を移す。場所さえ見つけてしまえば、流れを止めることは簡単だった。
「停止オーケイ。これで新たな戦闘ロボの起動はなくなったはず」
「おう、お疲れ。だけど、お外には怖ーいロボットがわんさといるよなあ。あれをなんとかしなくちゃ、前にも進めない」
そうなのだ。新たな起動を阻止出来たとは言え、まだドームバリヤのまわりには戦闘ロボットがうようよしている。プロジェクトを続けるためには、いつまでもこの中にとどまっているわけにはいかない。戦闘ロボは壊滅させるしか方法がないだろう。ハリスは自分のチームで対処できると言ったが、王宮がそんな危険を許すはずがなかった。
至急応援をよこすと連絡があったあと、移動装置から降りてきたのは、王宮近衛隊から選りすぐられた者を集めて、新たに編成したチームだった。
「やはりお前が隊長か、よろしく頼むぜ」
「ああ、こちらこそ。それと、プロジェクトリーダーと月羽さまにお目にかかりたいのだが」
ハリスは隊長と知り合いらしく、ガッチリと握手を交わすとそんなやり取りをし、斎と月羽のいるエネルギー開発室へと向かっていった。
ハリス、近衛隊長、斎、それに月羽の4人は、時間を無駄にできないからと、エネルギー開発室の一画で今後の方針を打ち合わせた。
「みんな忙しいところ済まないが、聞いてくれ」
しばらくすると、斎が通信を使ってバラバラに仕事をしているメンバーに呼びかけた。
「王宮の意向も踏まえて、ここダイヤ国を第2拠点とすることに決定した。防御機能は完璧に近いし、なによりここの美しい文化を途絶えさせてしまうのは惜しいからね。けれど、ここでもあとの事は王宮に任せて、僕たちはプロジェクトを進めるために出発しなければならない。そのためには、まず外の戦闘ロボの壊滅からだ。物理的にはハリス隊と近衛隊に任せるしかないから、そのほかのことで気づいたことや提案があれば、どんな些細なことでも言ってほしい」
そこまで言って、少し息を整えるように言葉を切った斎が静かに続けた。
「本当ならハリス隊にも近衛隊にも行ってほしくないんだ…他に何か方法があれば…」
すると、そんな斎を安心させるようにハリスが横から言う。
「大丈夫さ。俺たちには優秀な親衛隊がついてるんだぜ」
「親衛隊? 」
「俺たちの移動車を見てみな」
ハリスがそう言うと、映像がハリス隊の移動車へ切り替わった。
見ると、カレブと花音が護衛ロボに抱きつきながら手を振っている。
「そうか、…そうだな」
頷いて少し微笑んだ斎は、また話を続けた。
「とにかく、ええっと、こんな偉そうなことは言いたくなけれど。ハリス隊、近衛隊、必ず全員無事に帰ってくること。これはプロジェクトチームリーダーの命令です」
驚いたような顔をしたあと頷くハリスと近衛隊長。
切り替わったままだった映像の中では、ハリス隊と近衛隊メンバーがごちゃ混ぜになって、親指を立てたり手を突き上げたりしながら大騒ぎだった。




