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第9話 よみがえる機械(マシン)


 第1拠点を出発したあと、プロジェクトチームはいくつかの街に遭遇した。

 街と言っても、砂に埋もれた建物の残骸があるだけだったが。


 今、滞在中なのはその中の1つ。今までと様相が違う建物をひとめ見た歴史班全員が、しばらくとどまりたいと、強く要望したからだ。

 比較的最近建てられたと思われる、無機質で効率最優先の建物のまわりに、それを取り囲むように、優雅な曲線美を有した屋根をもつ建物がいくつも建っている。コンピューター計算と星の位置から、ここはたぶん、3つの大きな国に挟まれた小国、ダイヤ国だと推測される。クイーンシティからは5つほど国境を越えたあたりだ。

 ほとんど残っていない資料の中で、ダイヤ国は、争いを忌み嫌い、どのような方法でかはわからないが、鉄壁の守りで中立を保ってきた国だとある。そのため、当時の建物がほぼ無傷なままで残されているのだろう。

 しかも今までの街と大きく違う点がもう1つ。

 ここでは、どの建物も3分の2以上が砂の上に出ていることだ。これまでの街では、建物はほぼ砂に埋まり、最初に行うのが砂の除去作業だったことを考えると、まるで奇跡のようだ。おかげでまわりの国との境がよくわかる。ダイヤ国は小国ながら、美しい町並みを有していたことがうかがえる。


「青葉さん、見て下さい、この屋根! 俺今までこんなの、見たことないです」

 下の方だけが砂に埋まった建物の調査をする、いつもはクールな遼太朗の弾んだ声に、朔は少し微笑みながら答える。

「ああ、俺も初めて…」

 と、ある1点に目を止めた朔が、「うーん? 」とうなりながら首をひねる。

「どうしたんですか」

「いや、あれ、どこかで」

 よく見ると、屋根に珍しいロゴのようなものが入っている。

「ちょっと待って」

 誰に言うでもなくつぶやいた朔は、移動車からタブレットを取って戻ってきた。しばらく操作を続けていたが、あるところで1つ頷くと、画面を遼太朗に見せる。そこには、屋根に書かれたものにそっくりな模様があった。

「これって」

「ああ、どこの国が使っていたものかがわからなかったんだけど、どうやらダイヤ国だったらしい。しかもこの模様には一角獣が描かれているね」

 のぞき込んだ画面には、ダイヤの原石らしきものに一角獣が足を乗せているような構図があった。

「そうですね。と言うことは、一角獣はクイーンシティから遠く離れたこんな所にも生息していたんですね」

「そう。これは生物学的にも、歴史的にも大きな発見だよ」

「はい」

 すると、移動車から声がした。

「いったい一角獣は、どのあたりまでその生息が確認されるのか! 青葉さん、この事実はクイーンシティに連絡しちゃって良いんですよね?! 」

 嬉しそうに言うのはマヒナだ。

「連絡しちゃってくれ、よろしく頼むよ」

 おどけて口調を真似しながら朔が言うと、マヒナは嬉しそうに答える。

「ラジャ! やった~、学校で生物学専攻してた友だちにも教えちゃおうっと! 喜ぶわよきっと」

「おいおい、まずは王宮の」

「研究所からですよね。りょうかーい」

 どこまでも明るいマヒナに苦笑しつつ、また調査に戻る朔と遼太朗だった。



 その頃、エネルギー研究チームとロボットチームは、近代的、かつ無機質な方の建物内部を調べていた。

 こんな小さな国で、しかも中立を保っていたと言うことは、他国からの援助や協力はほぼ得られなかっただろう。だとしたら、独自のエネルギーを開発していた可能性は大いにある。

 他の地区とは明らかに違う近代的なビルが並ぶそのあたりは、この国のいわばブレイン地区だったのだろうか。

 背の高い建物の間に埋もれるように、ひとつだけ背の低い建物がある。窓も極端に少ないようだ。と言うことは、機械類が多く設置されているかもしれないので、ここから調べてみることにした。

 入ってみると、内部はいくつかの部屋に別れている。一つ一つの出入り口に、見たこともない文字で書かれたプレートが掛かっているのだが、それらの解読は歴史班が得意とするところだ。

 何気なくそのひとつの前に立ち、画像を送りながら聞く月羽。

「ここは? 」

「ええっと、ちょっと待ってね。…、…あら、すごいわ。エネルギー開発室って書いてある。もしかして月羽さん、カンがすごくいいんじゃない? 」

 転送された画像から文字を読み取っていたレイラが、感心したように言う。

「え、うーん、たまに言われます。でも、ビンゴですね、良かった。早速調べたいんだけど、ここのエネルギー供給方法がわからないと、明かりもつけられないわね」

「そうね。不便よね」


 すると月羽の後ろから声がした。

「レイラさん、ここはなんて書いてあるんですか? 」

 泰斗の声だ。

「あら、泰斗。貴方ロボットチームじゃない。R-4に聞きなさい」

「ええー? R-4けっこうイジワルなんですよー。きっとヤダって言うから。だからお願いします」

 すると、ふふふと笑う声がして、レイラが答える。

「ええっと。今調べるわね。…、…えっ? なんで? 」

 驚いた声のレイラに、月羽たちもやって来る。

「…バリヤ」

「え? 」

「その部屋、バリヤ始動室って書いてある。バリヤってあの伝説の? 」

 思わず顔を見合わせる、泰斗と月羽、そしてエネルギー研究チームだった。



 連絡を受けた斎は、今のクイーンシティで唯一? バリヤを知るR-4たちに、プレートと部屋の内部の映像を送っておく事にした。

 バリヤという名は、プロジェクトチームの面々を驚かせはしたが、部屋の中は驚くほどシンプルで、机の他は何も置かれていなかった。

「ここで、クイーンシティのバリヤ隊に思いをはせて、ディスカッションでもしてたのかな? 」

 ジュリーは可笑しそうに言うが、本気でないことは明らかにわかる。

「もう、先輩ふざけないの。でも、システムの電源が入れられればきっと何かわかるのに」

 ナオがつぶやくのを聞いていた泰斗が、

「じゃあ、探しに行こうよ」

 と、部屋を出て行こうとする。

「え? 探すって、電源をですか? わかりました! では、ジュリー先輩、これより電源捜索に行って来ます! 」

 ナオは、元気に宣言すると、彼のあとをついて部屋を出て行く。後ろでジュリーが「いってらっしゃーい」と陽気に手を振った。


 探しに行くとは言ったものの、結局はひとつひとつプレートを確認していくしかない。

 レイラに部屋のプレートを解読してもらいながら進むうち、とうとう2人はいちばん端の部屋までたどり着いてしまった。

「ここで終わりですね、先輩」

「うん。でもまだ他にも建物はいっぱいあるよ」

「そうですね」

 うんざり顔のナオだが、ここに電源がなければほかのビルを調べるしかないだろう。泰斗はプレートの画像を送りながらレイラに聞く。

「レイラさん、ここは? 」

「はあーい、お疲れ様。…、…。あら、本当にお疲れ様だわ。電源ルームよ、そこ」

「ホントですか? やったよ、ナオ」

「はい! 」

 パチン、とハイタッチして、部屋へ入った2人だが。

 なんと、その部屋はがらんとして机のひとつもない。

「電源ルーム? うそおー、思ってたのとちがうー」

 思わずぼやくナオと、不思議そうに考え込む泰斗。


 するとそこで、タイミング良く泰斗の通信がなりだした。

「泰斗ー、聞こエるー」

 なんとそれはR-4だった。

「R-4? どうしたの? 」

「ウン、斎から映像ヲ送ってもらってネ、ちょっと面白ソウだカラ。協力~」

 R-4の言い方に、ナオは「面白そうって何よ! 」と怒っているが、泰斗は苦笑いして話を先に進める。

「で? どう協力してくれるの? 」

「カーンタンなこと。マズ、各部屋のメイン電源のヒント。クイーンシティのロボット研究所の部屋には、明かりのスイッチがアルヨね? それといっしょ」

 明かりのスイッチ?、と、つぶやいていた泰斗が、はっとして入り口付近の壁を触り始めた。ナオは最初驚いていたが、すぐさま彼女も気がついたようで、反対側の壁を触り始める。

「先輩! ありました」

 ナオの手が、一見何も無い壁のように見えるそこで何かに触れたようだ。彼女は試しにそれを押してみた。

 すると。

 カシャン、と軽い音がして、あたりが急に明るくなると、電源ルームは、壁のすべてがディスプレイに変わり、文字やスイッチやそのほか、ありとあらゆるものが浮かび上がったのだった。

「すごい」

「ホントだね。ダイヤ国ってずいぶん昔に滅びたはずなのに、技術がかなり進んでいたんだね」

 その技術のおかげなのか、偶然か。ダイヤ国のエネルギーは、再び供給され始めたのだった。


「こんな簡単な事だったのね。思ってもみなかったわ」

 同じように壁のスイッチを見つけて、エネルギー開発室の明かりをつけた月羽が可笑しそうに言う。エネルギー開発室には机があり、浮かび上がるディスプレイの他に、机にはダイヤ国の文字が並んだキーボードが浮かび上がっていた。

「でも、この国の文字がわからないと、入力も出来ないわね」

 ガッカリする月羽に、泰斗がアドバイスする。

「入力できなくても、」

 と、泰斗はディスプレイの前に立つと、それに手を当てた。すると、泰斗の手の動きに合わせて画面が上下左右に動いたり、出たり消えたりする。

「こうすれば、見たい画面が出せるよ。あと、文字の解読は、歴史班と協力してもらうしかないかな」

「そういうこと」

 文字を読むために、分厚い本と翻訳機を持ってやって来たレイラが、楽しそうに答えた。



 不思議なことに。

 他の部屋は、壁のスイッチを押せばすべて簡単に使えるようになるのだが、バリヤ始動室だけは違っていた。

 ディスプレイは何も映し出さず真っ暗なまま。机のキーボードも他と違ってキーが異様に多いのだ。

 今は遼太朗がR-4と協力して、ようやくキーボードの解読を終え、この部屋の謎を解明中だ。とは言え、R-4は第1拠点と王宮とを行ったり来たりして作業をこなしている身で、とうていこちらには来られないということで、映像と通信でやり取りをしている。

「遼太朗ガ優秀なノデ、大変順調ニ、事が運んデまス」

「なんだよそれ、おかげで俺は、休憩なしだ」

「ボクは、不眠不休デス」

「当然だ」

 文句を言いながらも、キーボードを打つ手を休めることのない遼太朗が、「よし」と、いったん手を止めた。

「エンターはこれとこれを同時にだったな。間違うとえらい目にあうから」

 1度違うキーを押して、それまでの入力が全部消えてしまったことがあった。履歴を調べるにもやり方がわからず、結局また1からやり直しをする羽目になったのだ。遼太朗はくどいほど何度も確認して、R-4が教えてくれたキーを押す。

 すると。

 今まで何の反応も示さなかったディスプレイが、ヴーーーンとうなりだしたのだ。

「お、やったぜ、R-4」

 そして、そこにはダイヤ国の地図があらわれた。

「地図? だけ? 」

 少しガッカリした遼太朗は、しかし次に思いも寄らないものを目にする。

「うわ! …なんだこれは」

 部屋の真ん中に置かれた机とそれに座る遼太朗のまわりに、縮小された超リアルな3Dのダイヤ国が浮かび上がってきたのだった。




 同じ頃。

 ダイヤ国の国境を取り囲む砂漠の中、少し遠くにある建物の残骸内部で、何かが不気味な音を立て、起動し始めていた。



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