2.とある部屋の話
この部屋に越してきて今日で三日目。今のところ、不便な事は無かった。強いて挙げるとしたら、気に入っていた腕時計が、何故か部屋の中でだけ狂ってしまうという事だけだった。
――あの日が来るまでは。
翌日。又もや狂って出鱈目な表示を出す腕時計を見て、「電波時計だから、何か変な電波拾っちゃってるのか?」なんて気楽に考えていた矢先の事だった。
早朝の静かな雰囲気を掻き消すかのように、電話機から音が鳴り出した。
ベッドから手を伸ばし、受話器を取って耳に当てたのだが、その時点で異変に気付く。呼び出し音が、鳴り止まないのだ。相手からの応答は勿論無しで、「ツー、ツー」という音も聞こえてこない。
ただ、けたたましく呼び出し音が鳴り続けるのみ。受話器を戻してみても結果は変わらなかった。電話線を引き抜いた事で、何とか音は止んでくれた。だが、異変はそれだけでは終わらなかった。
ほっとしたのもつかの間。ふと気付くと、台所の方から何やら、強烈な鉄の焼ける匂いがしてきた。
行ってみてその光景に愕然とする。電子レンジが勝手に作動していた。中には何も入っていないのに、だ。何も載せてないターンテーブルが、オレンジ色の光に照らされながら空しく回っている。
止める為にレンジに触れたが、既にレンジは熱せられた鉄板のようになっていて、慌てて手を引っ込める。レンジからは異様に熱気が発せられていて、傍にいるだけで汗が止まらなくなる。
――何だこれは、一体何が起こっている?
突然身に降り注いだ異常事態に、呆然とする頭。そこに追い討ちが掛けられた。
電話が、再び鳴り出したのだ。けれど、音は先程と違っていた。
最初は金属と金属が擦れるような、微かな音だった。だがそれが徐々に、さながら自分に迫ってくるかの様に大きくなっていく。
耳を塞いで蹲るが、音は尚もボリュームを上げ続ける。その音は頭の中で執拗に暴れまわり、次第に脳内で、女性の金切り声へと姿を変える。
意味もなく悲鳴を上げているだけだと思われたその『声』は、脳内でこう叫んでいた。
「出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ――」
――次の日を待たずに、俺はその部屋を即座に解約した。