表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰陽双記譚  作者: 奥義 扇
邂逅は夜の帳の中
9/47

思い違いが未来を担う

 崇慧(たかとし)が消えてまもなく、晴明(せいめい)の元に数人の人影が近づいていく。

 陰陽寮から駆けつけた本物の陰陽師達が現われたのだ。

 その中には見知った顔、保憲(やすのり)も含まれており、さっきまでとは違う、本当の安心感が晴明(せいめい)を優しく包み込む。

 保憲(やすのり)は庭の中ほどで座り込んでいる晴明(せいめい)を見つけると、歩みを駆け足に変えた。


晴明(せいめい)!? どうして君がここに? 先刻、ここから鬼気が感じ取れたのだけど……」

「や、保憲(やすのり)様……よかった、僕……僕、怖かったよぉ~」


 言いながら保憲(やすのり)にしがみつき、本気で泣き始める。

 怖かったというのは鬼のこともあるが、それよりも崇慧(たかとし)の呪詛をかけるぞと言わんばかりの顔が頭から離れず、そちらのほうがもっと怖かったのである。

 だが、事情を知らない保憲(やすのり)にしてみれば、晴明(せいめい)が恐怖にかられながらも、ここで鬼を滅したととらえた。

 鬼の気配(けはい)が消える寸前に神通力を感じ、消滅するとともに鬼気も消えた。

 現場に来ると鬼に化身しようとしていたであろう女性が倒れており、傍らには自分のよく知る陰陽生(おんみょうのしょう)がいる。

 これらを総合して導き出した結論。

 普段は気弱で臆病だと思っていた少年が、鬼を退治した。

 自らが出した答えに保憲(やすのり)は軽い衝撃を受け、この陰陽生(おんみょうのしょう)には天賦の才があると、いままで抱いていた印象が変化した。

 そんなことを晴明(せいめい)が気づくはずもなく、差し出された手を受け取り、やっと地面から腰を浮き上がらせた。


晴明(せいめい)、君にいくつか質問があるのだが、尋ねても?」

「え? あっ、はい……」


 何を聞かれるのか想像に容易く、崇慧(たかとし)のことを言わないように乗り切ろうと、小さな決意をする。


「ここに鬼がいたと思うのだが、鬼はどうしたのだね?」


 いくつか予想した質問の一つが投げられてきた。


「お、鬼は、あの方から出て行きました」

「そのようだが、どうして彼女から出たのかを聞きたいのだ」

「そ、それは、その……女性が鬼を追い出したというか、鬼が出たというか……」

「私には言えないのかい?」

「い、いえ、そんなことはないのですが……」


 崇慧(たかとし)がやったと言えば話は早いのだが、それができないのだから説明が難しい。

 ましてや、自分の行いだなんて言えない。

 そんなことを言って、次回、(あやかし)が出現したときに、退治を任じられたらたまったものではないからだ。

 保憲(やすのり)保憲(やすのり)で、自分がやったと言えない事情でもあるのかと思い描いていた。

 悪事を働いたわけでもなし、陰陽生(おんみょうのしょう)であるからといって、清めを働いてはいけないわけでもなし、もしかして自分に遠慮しているのかと微笑んでみせた。


晴明(せいめい)、私は誇りに思っているよ」

「え?」

「まだ年端もいかない、陰陽寮に入ったばかりの君が、鬼に変化しようとした女性を助けた。これは素晴らしいことであり、君の才能の片鱗がそうさせたんだ。自信を持つんだ、晴明(せいめい)


 自信を持てと言われても、そんなものを持てるはずがない。

 だが、保憲(やすのり)の自分を見る眸を見ていると、自分がやったわけじゃないと、言えなくなってしまい、思わず頷いてしまった。

 これが完全に保憲(やすのり)を勘違いさせた。

 鬼を退治し、女性を救ったのは晴明(せいめい)

 この話題は、一日を待たずして保憲(やすのり)の口から陰陽寮の隅々に広まり、晴明(せいめい)は注目の的となってしまった。

 本人の辞めたいという意思とは裏腹に、未来の陰陽寮を担う逸材として。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ