浮かぶ顔に怒り込み上げ
『どういうことだ! なぜ、こやつから力を吸い取れん!!』
地団駄を踏み、歯噛みする一言主の目の前には、蜘蛛の糸のように透明で、粘着力のある繊維によって柱に縛られた崇慧がいる。
彼は先の戦いからずっと気を失っており、うな垂れてぴくりとも動かない。
無抵抗の崇慧なら、至極簡単に霊力を奪えると思っていたが、その算段はものの見事に裏切られた。
何度試みようとも、伸ばした触手が彼の前で動きを止めるのだ。
そこに見えない壁があるように。
『この人間、なにかに守護されておるのか?』
右腕を伸ばし、崇慧の頬を撫でる。
触ることはできる。
だが……。
一言主が霊力を吸おうと、伸ばした右腕を変化させた瞬間、電撃が迸ったかのように衝撃が起こり、弾かれるのだ。
『それとも無意識に力を使っているのか? もしそうならば、こやつの霊力はそうとうなもの。吸い取れれば、傷ついたわれの躰も癒えよう。いまのわれの力では、見えぬ壁は打ち破れぬか。ならば……』
先に己の復讐相手の霊力を奪い、そのまま殺そうと一考を案じた。
相手は一人ではない。
複数いるのだから、それだけ蓄えられる力も多いというもの。
力が回復すれば、この男の霊力も奪えるだろうと算段したのだ。
『行動は迅速にしなければならぬか』
言うが早いか、一言主は歪んだ空間に吸い込まれるように消失していき、あとには縛られて意識のなくなった崇慧だけが残される。
ふいに崇慧の下がっていた顔が正面を向く。
「……ここは……どこだ?」
狙っていたかのように意識を取り戻した崇慧は、知らない場所で拘束されている状況を理解できないでいた。
「ど、どうなっている?」
十字に磔にされた躰や手足を動かそうとしても一寸も動かず、代わりに傷の痛みに表情が歪む。
「俺は、一言主に負けて捕らえられたのか。くそっ」
何もできない崇慧は、唯一動く顔で周囲を観察する。
暗い空間だが、遠方が仄かに光り、風もないのにゆらゆらと揺らめいている。
特徴的な物といえば、自分が縛られている柱と蜘蛛の糸のような物だけで、それ以外は眸につく物がない。
――さて、どうやって拘束を解き、ここから抜け出す。
自力で捕縛が解けないのは、足掻いても動かないことでわかっている。
頼れるのは自分以外の者。
ふと晴明の顔が浮かぶ。
だが、すぐに顔を振って映像を消去する。
――あいつはあてにならない。それどころか、こんなどこかもわからない場所にあいつが来られるはずがない。となれば、頼れるのは神将だが、その力を頼るのも癪に触る。
そんなことを考えている場合ではないことは本人が一番自覚しているのだが、どうにも自尊心がそれを許さない。
「むかつく。それもこれもあの晴明のせいだ。あいつがきちんと言われたことをしないで逃げ出すからこういうことになる」
言いながら、自分の言葉にふつふつと怒りが込み上げてくる。
「くそ晴明! 今度会った時に、ぶっとばしてやるぞ!!」




