表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰陽双記譚  作者: 奥義 扇
邂逅は夜の帳の中
3/47

朝の担務は眠気と共に

 延暦十三年、桓武天皇により国の中心となった平安京(たいらのみやこ)

 地方よりさまざまな人々が集まり、賑わい、栄えていった結果、暴力に溢れ、人を苦しめることも増していき、感情に呼応するように魑魅(ちみ)魍魎(もうりょう)も溢れ、平安京(たいらのみやこ)に巣食わせるにいたった。

 闇に紛れて跋扈(ばっこ)する無数の(あやかし)に、誰もが夜間の外出を控え、それがさらに人ならざるモノを蔓延らせると、夜の(みやこ)を魔都へと変貌させた。

 それでも人間が暮らせるのは、(あやかし)の調伏、浄化をおこなう修道僧や陰陽師の存在があったからだ。

 そんな数いる陰陽師の中に、後世に名を残す稀代の術者がいる。

 その者の名は、安倍晴明(あべのせいめい)

 齢、十五の陰陽師の卵である。

 現在の彼は才能のかけらもない、むしろ陰陽師になるのがたまらなく嫌で、陰陽寮を辞めたいと心に抱いていた。

 今朝の彼は眠い目を懸命に開き、先日、物の怪に襲われたせいで穢れに触れ、数日の物忌みで陰陽寮を休んでいたために溜まった、公務という名の雑用を片付けていた。

 (いたち)の物の怪に襲われるという、不幸なできごとのせいで所々に負った打撲が鈍い痛みを訴え、軟膏を塗った擦過傷が衣とすれてぴりぴりする。

 それに、初めて味わった恐怖と興奮がいまだに抜けないため、なかなか寝付けず、あくびで大きく開きそうな口を必死に抑えているところだった。


「なんだか、ここ最近眠そうだね、晴明(せいめい)?」


 両手に抱えた書物で手が使えず、口をわずかに開いてあくびをした晴明(せいめい)だったが、明らかにわかる仕草と涙目を見て、師である賀茂保憲(かものやすのり)が話しかけてきた。


「す、すいません、ちょっと寝不足なもので……」

「はははっ。まあ、しかたない。(わたし)だって眠い時はあるからね」

保憲(やすのり)様でも眠い時があるのですか?」

「当然だよ。眠くもなれば、疲れることもある。それでも、怪我(けが)や大病で倒れない限り、与えられた職務をこなさなければね」

「そうですよね、お仕事ですものね……」


 仕事という言葉に晴明(せいめい)は溜息をもらしそうになるが、それを我慢して、保憲(やすのり)と共に書物室へと続く長い廊下を歩いていく。

 しばらく他愛(たあい)もない会話をしながら歩を進めている二人の前に、廊下を曲がって二人の人物が姿を現した。

 二人は緩めていた気持ちを一気に引き締める。


「おはようございます」

「お、おはようございます、忠行(ただゆき)様」


 保憲(やすのり)はゆっくりと、晴明(せいめい)は慌てて挨拶をすると、忠行(ただゆき)と呼ばれた初老の男は軽く頭を下げた。

 陰陽寮を統括している陰陽頭(おんみょうのかみ)賀茂忠行(かものただゆき)である。


「二人とも、お勤めご苦労だな」

「いえ、当たり前のことをしているだけです」

「うむ、良き心構え。隣に立つ陰陽生(おんみょうのしょう)は眠たそうな顔をしているようだが、まだお勤めには慣れぬか?」


 保憲(やすのり)の父親にして、陰陽頭(おんみょうのかみ)である賀茂忠行(かものただゆき)に声をかけられただけでもうろたえてしまうのに、眠気を帯びていることを指摘され、忠行(ただゆき)を直視できずに視線を泳がせ、あからさまに動揺を見せる。


「ふっふっふっ、そんなに慌てずともよい。眠いことを責めているわけではないのだから、心を楽にもちたまえ」

「は、はい、すいません」


 勢いよく頭を下げる晴明(せいめい)だったが、烏帽子(えぼし)がずれて視界を遮ってしまう。

 両手の塞がっている晴明(せいめい)は、弾みをつけて何度か顔を上にあげ、視界を確保しようと悪戦苦闘をしていたが、助け舟だと保憲(やすのり)が手を伸ばして烏帽子(えぼし)を正す。


「これで大丈夫かい?」

「は、はい、すいません。ありがとうございます」


 笑顔を見せる晴明(せいめい)だったが、陰陽頭(おんみょうのかみ)の存在を思い出すと、真顔に戻りつつ、横に立っている同年代とおぼしき少年をちらりと窺った。

 その瞬間、晴明(せいめい)は眸を見開き、どくんと心臓が脈打つ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ