叫声は晴天に吸い込まれ
先に気づいたのは崇慧で、一瞥してから陰陽頭に背を向ける。
――自分には心を開いていないか。
苦笑しながら、もう一人の陰陽生に声をかける。
「未来を担う陰陽師殿は、心が乱れているようだな」
聞き覚えのある年配の声に、晴明は勢いよく振り返る。
自分よりも高い位置にある初老の男の顔を見上げて、少年の眸は思い切り広がり、わずかに眸に痛みが走る。
「先日の降伏、保憲から話は聞いたぞ。見事だ、晴明」
「え!? あ、いや、あれは、違うんです、あれは……」
「違う? なにが違うのかね? あれは、なんだね?」
「い、いえ、違うんです。あっ、違うというのが違うんで……」
「ふっふっふっ、そのように心を乱しては、思考もうまく働かぬぞ」
ぽふぽふと軽く肩を叩き、落ち着くように促す。
思わず口が滑りそうになった晴明だったが、忠行の斜め後ろに立っている崇慧の鬼の形相が眸に入り、それがさらに動揺させた。
「気の小さい君の隠された一面だったというわけだな」
「はい?」
なんのことかわからない晴明は小首を傾げる。
「鬼退治のことだよ」
――それは、まったくもって僕ではないです。あなたの後ろで、僕を睨んでいる彼の仕業なんです。
声を大にして伝えたい言葉なのに、それを口に出すことを許さない悪の権化がいる。
ちょっとだけ崇慧を見て、視線を地面に移す。
――言えない、言えば殺される。
「あ、あれは偶然です。たまたまああなっただけで、僕には陰陽師の素質なんてありません。これ、本当です!」
力いっぱい宣言したものの、忠行はただの謙遜ととらえる。
「そのように控えめな態度をせずともよい。鬼を祓うなど、偶然でできることではないのだぞ」
「そ、そう……なんですか?」
鬼を除き去るのがどれほど困難か把握していない晴明は、改めて崇慧のすごさを思い知らされた。
「君には、陰陽生を率いてもらうことを考えているのだが、決まれば、後日正式に通達をしよう」
「え? え? え―――――!?」
絶対にそんなことをしたくない気弱な少年が、驚くほど大きな声を腹の底から出した。
「無理無理無理無理、絶対無理です! 僕にそんなことできるはずがありません。それは他の人の役目にしてください!!」
手にした箒を放り投げ、忠行の衣を掴んで泣訴する。
「ちょうど、適任者を探していたところだったのだ。そなたなら適任であろう。ふっふっふっ」
忠行は高らかに笑いながら去っていき、晴明は地面にへたり込むと、涙で霞む眸でそれを見送った。
がっくりとうな垂れる少年の肩が、ぽんと叩かれる。
「一気に出世だな。さっそく今夜、行くか」
祓いの仕草をして、にやりと笑う同僚の陰陽生が無性に腹立たしく、生まれで初めて、怒りで声の限り叫んだ。
「君なんか大嫌いだぁ――!!」




