第五十三話「真相」
「兄上は民が傷つくことを嫌われた。身分の上下にかかわらず、相手が平民であろうとも貴族に非が有れば貴族を罰し、いたわるからこそ民衆にも人気はあった」
それだけならば、国民にとっては良い君主だと思う。だが、そうではないのだろう。この僭王が話すと言うことは、簒奪を正当化する理由でなければわざわざこのタイミングで話す筈はないのだから。
「だが、民を愛するが故、周辺諸国への軍事行動を徹底的に拒んだ。それが侵略どころか隣国の救援でもな。知っているかもしれぬが、東にある余の母の生国は、今も邪教の徒に荒らされている」
(あー、前に村を襲ってたあれかな)
僕に覚えがあったのは、そもそもリアスに協力している原因に邪教集団が関わっていたからだ。村を遅う邪教集団を退けた僕が救った村人達に慕われてしまい、ついてくると言い出した村人達を保護する本拠地と養う資金集めをしようと動き出したのが切欠だった。
「かの国には兄上から数えて三代前の王が統治していた時代、北西の国に攻められたおり、救援して貰った恩があるのだ」
この救援を切欠に僭王にとってはもう一つの故国とも言える国とは親しい仲となり、婚姻外交が結ばれて僭王自身が生まれたと言うことらしい。
「だが、かの国の首都は既に邪教徒どもの手に落ち、王族の行方も定かではない。首都が落ちるよりはるか以前から、余は兄上に救援を請うた。そもそも、かの国に我が国は恩がある。『今こそ恩を返すべき時です』とな」
「まさか……」
「その通りよ、兄上は出兵を拒んだ。兵とはいえど自国の民、それが傷つくのを嫌ったのであろうな」
かすれた声を漏らすリアスに、僭王が頷く。
(その結果が首都の陥落に繋がったなら恨んでも当然かぁ)
簒奪は権力欲から来るものではなかったらしい。
「兄に断られた余は何とかかの国を救う術はないかと駆け回った。城の書庫に籠もり、起死回生の策はないかと歴史書を手に取ったのはおそらく偶然であったに違いない。ただ、気づいたのだ。英雄の存在とその意味に」
「えっ」
驚くリアスに構うことなく、僭王は言葉を続けた。
「英雄が現れ暫くすると、世は平和を取り戻す。英雄が現れるのは、限って世が乱れた時、ならば遠くない未来に英雄が現れるとな」
ただ、その眼差しが僕に注がれていると言うことは、確信しているのかもしれない、僕がその英雄だと。
「乱世を収まればあの様な邪教の徒など蔓延りはすまい。故に余は英雄が現れることを考え、支援することを思い立ったのだ。まぁ、おこがましいかもしれんがな。救援を拒んだ兄上を恨みはしたが、世は乱れねば悲劇など起きぬ」
(うわぁ)
僕としては、言葉がなかった。気がつけば敵として対峙していた僭王が僕に協力するつもりで動いていたなど、予想外だった。
(と言うか、対処に困るなぁ、これ)
ここでリアスを捨てて僭王につくのは躊躇われる。だが、話を聞く限り僕の協力者になろうとしていた人物を討つ気にはなれない。
「おそらく、英雄が現れれば世界は大きく動き出す。その流れにこの国が巻き込まれない保証はない。ことは民にとっても他人事ではなくなるだろうと思った余は、まずは話し合いの場を設けた」
「ほぅ」
僕は表向き平静を保ったふりをしていたが、とんでも無い展開が待っていたものだとつくづく思う。
「兄上のことだ、今度は英雄が協力を求めても国民かわいさに協力を拒むやもしれぬ。そうなっては我が国の未来は明るくない。乱世を収めるに余は統一国家を作ると言った案しか思いつかなかった。もし英雄がこの手段をとるとすれば、どこかの国に天下を取らせるのが一番手っ取り早いであろう。そのどこかの国として我が国が選ばれたなら」
選んでるんですけど、などと僕は言えなかった。
「兄上は協力を拒むであろうな。最悪、英雄と敵対して国が滅ぶことさえ考えられる。また、他国に英雄が現れた場合、この国は攻められることになる」
(あー、今の他国に不干渉を貫く姿勢だと拙いよなぁ、確かに)
相手が専守防衛一辺倒なら、一時的に無視して周辺国家を平らげ、国力を高めてからプチッと制圧してしまえばいい。
「我が国はこのままでは拙いと判断したからこそ、何度も説得したのだが、兄上は首を縦に振らぬ」
(もともと恨みもあったところに国の未来を悲観しての簒奪劇だったってことかぁ)
「だ、だからといって父を殺して良い理由になど」
リアスは声を荒げるが、時折僕を見てくるのは、動揺しているのだろう。僭王の言葉が本当なら、仇の行動の何割かは僕に協力する為のものと言うことなのだから。
(はぁ)
この後、たぶん僕は決断を強いられる。気がつけば握り込んだ手が不快な汗でじっとりと湿っていた。
悪人かと思えば割とそうでもなかった?
想定外の事態に困惑しつつも冥王は――。
と言う訳で続きます。




