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第五十一話「くうきはよみたい」


「行く、か」

 侵入は夜に行われた。

「すごいですね、あの短期間で作ったとは思えません……」

 アンデッド達に昼夜を問わず掘らせた地下通路の中は何処か肌寒さを感じさせる。

「ところで何をしているのですか?」

「目印よ。敵に発見されて辿られた時のことを考え、この地下通路には分岐が作ってある故に、な」

 リアスの問いに答えながら僕の撒いた白い粉は、暗い茶色をしたむき出しの地面にはよく栄えて見えた。

(とはいうものの、明かりがないと見つけるのは厳しいかな)

 ただ、明かりが使えず、真っ暗な状況でも見えるようにとも思っていたのだが、見通しが甘かったらしい。

(まぁ、沢山持ってきたし……抜け道含むゴールまでに撒いても足りると思うけれど)

 僕とリアスの通った後を白い粉の線が追いかけ、僕達は慎重に道を進む。

「しかし、良いのか?」

「兵を後方に下げて先行していることですか? 確かに兵が居た方が心強くはありますが、隠し通路は狭く、どういう道のりになっているのかを知るのも私だけですからね」

 兵を後方に置いてほぼ単身で乗り込むと聞いた時には、僕も驚いた。もし、リアスを諫めようとしたあの領主が聞いていたなら、更に厄介なことになっていたと思う。

(何か考えがあるのかな?)

 城の中のことは探ろうと思えば探れたが、僕があまり出しゃばるのも良くない。だいたいこれから侵入する城はリアスにとって、もと我が家。詳しい人(リアス)が既にいるのに僕が動いては、活躍の場を奪ってしまう。

「ならば、良かろう」

 念のためにちょっとした小細工は用意してある。使わずに済めば申し分ないが、相手は僭王(せんおう)とはいえこの国の実質的支配者なのだ。しかも英雄の遺品(アーティファクト)。鷹揚に頷き、リアスを信用してますよと言うポーズをとりながら、僕は君主(リアス)を案内しつつ歩き出し――。

「ここ、だ」

 一時間近くかけて、ようやく隠し通路との合流地点までたどり着いた。

「この煉瓦は確かにあの通路の……では、道案内は交代ですね」

 そう、リアスが言うように、とりあえず僕はお役御免だ。場合によっては助力するが、リアスに何か考えがある以上ついていって見守るだけに止めるつもりで居る。

「わざわざ隠し通路の中まで兵が巡回していることはないでしょうし、万が一の時塞がっていたら逃げられません。煉瓦は外したままにしておきましょう」

(えーと、僕が幻影で覆うって手もあるんだけどなぁ)

 思う所があっても、ここは我慢だ。

(うん、小説とか漫画を見る読者の立ち位置で居よう)

 自前の足で歩くから疲れはするし、反則能力(ちーと)が無ければ最悪命の危機に瀕するかもしれないが、危険の方はリアスがポカをしなければ問題ない。

(しっかし、緊張感ある場面ではあるんだろうけど)

 何とも言えない気持ちになってしまうのは、何故だろう。四つん這いで通気口のような細い空間を進んでいるからか、視界に入るのがリアスのお尻と足だけだからか。

(漫画なんかだと、突然前の人が立ち止まってぶつかったりするパターンだよなぁ)

 漫画の展開を想定するあたり我ながら度し難いものがあったが、冥王のキャラ的に威厳が保てなくなるのでリアスとの間には一定の距離を置いている。

(って言っても四つん這いの時点で威厳も何もあったようなものじゃない気もするけれど)

 だったらどうやってこの通路を通り抜ければ威厳が保てるのか。身体を真っ直ぐ伸ばし、空を飛翔する人のイメージで浮遊しながら突入し、踏破すればいいのか。

(高速でやれたら格好いいかもしれないけれど、前にリアスはいるし、隠し通路って言うからには、出口は塞がってるよね)

 前のリアスや入り口を考慮すると、出来上がるイメージは『身体を伸ばし低速で浮遊する冥王、視線はリアスの尻に』だ。

(どうみてもへんたいです、ありがとうございました。っていうか、通報されかねないよね? 絵に描き起こされたら黒歴史確定だよね?)

 ろくでもない方向に思考を傾けたせいで僕のテンションはダダ下がりだったが、自業自得とは言わないで欲しい。

(そもそもこの通路、出口はどこ何だろう? 変なところに出ないと良いけど)

 人目につかないという理由で兵士と侍女が愛の語らいの真っ最中だった場所に、足下から「こんにちは」程度ならまだいい。

(誰かが着替え中の部屋に繋がっていたとか、件の僭王(せんおう)が筆舌に尽くしがたいポエムとか読んでるところに出くわしてしまったらどうしよう)

 世の中、起こって欲しくないことこそここぞとばかりに起こるのだ。シリアスな場面だというのに面白おかしい想像がどんどん湧いてくる僕の頭の中のごとく。ギャグシーンというのは常に狙っている、シリアスをぶち壊す瞬間を。

(いや、侍女がつまみ食いをしていて僕らに驚いて食べてるものを喉に詰まらせるとか、隠し通路の入り口に小銭を落としてしまった兵士がこっちをガン見してるとか)

 えーと、僕は何を考えているのだろう。

(駄目だ駄目だ、危機感なさ過ぎる。敵の本拠地に乗り込むって言うのに――)

 どうしてこう馬鹿馬鹿しいことばかり考えてしまうのか。気のせいか、思わず鼻を押さえたくなるような悪臭まで漂ってきた気がする。

(トイレの個室なんて発想したからかなぁ)

 通気口のような狭さ、から発想した「この先に待ち受ける展開」の一つだが、同時に無いと思って放り投げた予想だ。

「冥王殿」

 そのはずだった。

「む?」

「どうやらトイレに誰か入っているようです」

 だと言うのにリアスの口からこぼれ出た言葉は、僕をあざ笑うかのように受け入れがたい現実を突きつけた。

「とりあえず、使用者が立ち去るのを待ちましょう」

 身勝手だというのは、わかっている。だが、僕はこの時、先客に心の中で八つ当たりせざるを得なかった。空気を読め、と。



食事中にご覧の方、ごめんなさい。

続きます

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