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第五十話「手っ取り早くという意味でも」


「城への潜入を望む、か」

「はい、喉元に刃を突きつけられるならこれを活かすべきだと思ったのです」

 食いついてきたことこそ予想外だったが、前提が変わってしまえば申し出は特に驚くことでもなかった。

(まあ、僭王(せんおう)自体は倒そうと思えばいつでも倒せたからなぁ)

 新たに反則能力(ちーと)を使うまでもなく、王都の地下に築いた拠点から内部への侵入経路を造ってしまえば、『幽霊部隊』との併用で普通に王城は落とせる。もちろんここでアンデッドなど使わずとも、ごく普通の兵を率いてリアスが叔父から逃げる時に使用した|王族しか知らない隠し通路ひなんけいろを逆に辿らせることで強襲させても城は落ちると思う。

 僕がそう話したなら「ここで王族が知りうるなら僭王(せんおう)もこの通路自体は知っているのでは」と思う人も出るかもしれないが、たとえ通路の存在を知っていてもそこから襲撃があることを察せ無ければ意味がない。

「拡張した下水道――地下都市の入り口を王都から離れた場所に作って地下都市経由で王都に侵入。更にこの地下都市から地下道を掘って隠し通路の途中へ繋がる道を作る」

 なんて方法も疲れを知らない労働者(ふしへいだん)を使うことでさして時間をかけずに作ることが出来る。

(どっちにしても襲撃を悟られる頃には城内に侵入していた何て展開になるはずだし)

 僕とリアス、それに少数の護衛との侵入であればおそらく見つかることなく城内まではゆけるはずだ。

「こちらがいつでも殺せる状況であったことを理解させ、まずは降伏勧告を突きつけてみるつもりです。拒むようならば、その時は――」

「良い、のか?」

 だが、リアスが語る作戦を聞きながら、僕は問うていた。

(確かに直接対決で決着した方が流れる血の量は減るだろうけれど)

 密かに敵対するトップを討つのは暗殺以外の何ものでもない。後でリアスが非難されるようなことがあれば、拙いのではないかとも思ったし。

「その僭王(せんおう)英雄の遺品(アーティファクト)なのであろう? 汝に勝てる、か?」

 そう、王族だけあって敵のトップも何らかの特殊な力を持っているらしいと聞けば、僕でなくても不安を感じることだろう。

「我の力を期待するのは無駄ぞ?」

 もちろん、僕が出れば負けることはないけれど、ここで僕が出てはリアスの為にならない。自分で言うのも何だけれど、あれだけあっちこっちの砦や都市を落とした上で敵の総大将まで討っては、リアスが僕の付属物になってしまう。

(ここぞって時に自らの力で勝てなきゃ部下もついてこないだろうし)

 合戦ならサポートに徹してリアスに花を持たせることも難しくないだろうが、一騎打ちとなるとどうしても反則能力(ちーと)を使わざるを得ない。

「もちろんです、私も英雄の遺品(アーティファクト)ですし、貴方に頼りっぱなしという訳にはいきませんからね」

「ほぅ」

 反則能力(ちーと)で助力せねばならないと思ったようだが、どうやら取り越し苦労だったようだ。この口ぶりからするに、リアスには勝算があるようで。

(そう言えばリアスってどんな力を持ってるんだろう)

 リアスの自信を見ると、興味は自然とリアスが持つ能力に向いた。ウォルス王家、つまりリアスの一族に継承されている英雄の力は『水』にまつわるもの、とだけは聞いていたが、詳細について僕も聞くことが出来ずにいたため実際にどんな能力を持つかは知らない。

(聞けばこっちの能力も聞かれるだろうからなぁ)

 死体を操ると言うところまでは知っているはずだが、いくら主君といえど自分の力を全てさらけ出す気は僕にない。知られて頼られるのは困るし、縛りプレイしていることに気づけば不満も持つだろう。となると迂闊に聞けなかった訳だが、この分なら自分からしゃべってくれるかもしれない。

「随分自信があるのだな」

 だから、僕は水を向けてみる。自信の根拠が知りたいと。

「私の力は『地面を凍結させる力』なのですよ」

「は?」

 そして、自分の耳を疑った。

「『地面を凍結させる力』です。あ、地面とは言いましたが板床や石畳であろうと凍結させることは可能です。足下がつるつる滑る氷に変わってしまえば剣を交えるにも不自由するはず……」

 ものすごくしょーもない能力に聞こえるのは気のせいだろうか。ぶっちゃけ、前に戦った元盗賊のおかしらさんと比べると泣きたくなるほどにしょぼい。

「対してあの男の能力は『地面をぬかるみに変える力』。平原などの戦場で使われれば騎馬兵などの足を取られる危険がある厄介な力ですが、地面の上でしか作用しないという欠点があります。どうです? この勝負貰ったもどうぜんでしょう?」

「あ、ああ」

 この後更に色々教えて貰ったのだが、リアスの能力は他国から嫁入りしてきた『風』にまつわる英雄の遺品(アーティファクト)の力を持つ先祖の力と『水』の力が混ざって出来た特殊な能力なのだそうだ。ちなみに僭王(せんおう)の方は同じ理由で『土』が混じっている。

「四属性の英雄はおとぎ話になるほど古き時にこの地に舞い降りたそうで、血が薄れるに従い、英雄の遺品(アーティファクト)の力も弱まったり一部のみを引き継ぐ形に弱体化して行きました。比較的降り立ってから代替わりの少ない英雄の遺品(アーティファクト)の方が力が強いのですが、そもそも英雄の遺品(アーティファクト)自体が強力すぎる存在ですから、自らの力を恐れ隠れ住んでいるかとうの昔にどこかの王家に取り込まれたパターンが殆どですね」

 リアスの話を参考にすると、元盗賊の男は隠れ住む方だったと思われる。

(まだ見つからず取り込まれていないってことはけっこう最近の英雄だったんだろうなぁ)

 ひょっとしたら僕の前かその前ぐらいの先輩に当たったのかもしれない。

「ですから、純粋な剣だけの勝負なら少し不安がありますが、能力まで併用出来るなら最悪でも五分にまでは持ち込めます」

「な、なるほどな」

 僕はリアスのどや顔に引きつり笑みを浮かべつつも納得して見せた。まぁ、英雄の遺品(アーティファクト)としての力を警戒せずに済むのは、ありがたい。

(後は野となれ山となれか、どうしても勝てそうにないならこっそり幻影の力で僭王(せんおう)の邪魔をすればいいし)

 実力が近いなら、剣の長さを数センチ長くしたり短く錯覚させるだけで勝負はひっくり返るだろう。幻影を纏わせ、幻影にフェイントの動きを追加させるなんて手もある。

「ならば少し時間を貰おう。地下都市通路の延長が必要なのでな」

 僕はリアスの申し出を承諾すると同時に条件を出し。

「もちろんです、よろしくお願いします」

 リアスもこれをいれて話は纏まった。ちなみに外野が約一名、リアスが王城に潜入すると言った辺りから騒いでいたので故意に一人分の音声をシャットアウトしておいた。音まで誤魔化せる幻の力って本当に便利だと思う。

(さてと)

 何にせよ、方針は決まった、決まったからには後は動くだけだった。

 


いきなりの急展開、なんと合戦そっちのけで敵の本拠地へ降伏勧告。

行き当たりばったりな流れの先に待ち受ける結末とは?


続きます。

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