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第四十九話「そして予想外の方向へ」

「母上が、母上が見つかったと言うのか……」

「はい、現在王妃様は来賓用の客間で眠っておられます」

 逃亡生活で疲弊したのだろう。事情を話し参謀殿の転移魔法でディラファイムに運んできた王妃様(しゅうとくぶつ)は目の前の景色が変わった直後こそ驚きに目を見張っていたが、目に飛び込んできた都市が何処であるかを理解するなり安堵で意識を失った。

(まぁ、生まれ故郷に帰ってきたなら安心するよな)

 僕の目の前では、報告に来たサープ子爵が吉報に我が耳を疑っていたリアスにここまでのいきさつを説明している。ちなみに|唯一最初からリアス側に与していた大都市ディラファイムが王妃様の故郷であることは、一日で三つの砦を落とそうとした時に聞いていた。

(血のつながりって無視出来ないよね。王妃様の身柄を押さえられたと言うことは、実家に関係する貴族の内で日和見だった面々もこっちにつくかもしれないし)

 戦争をするのだから、前準備として情報を集めておくのは基本中の基本だ。ましてや力をおおっぴらに振るわないと決めた以上、至極真っ当な手段で敵を攻略するしかない。

(まぁ、だからといって力押しで軍勢をぶつける様な真似をする気は殆どないんだけれどね)

 兵は詭道なりとも言う。縛りプレイをしているからと言って悪戯に犠牲を出すような戦略はとりたくない。

(だからこそ、最初に手をつけるのは謀略ッ)

 埋伏の毒と寝返り工作。昔、歴史シミュレーションゲームで敵の城を落とすのに僕が好んで使った策だ。

(敵の戦力を削げば戦いは楽になるはず)

 埋伏の毒とはこちらの手の者を敵の元に送り込み敵中に潜ませた毒と化す策。これに加えて自分の境遇へ不満を持つ敵軍の実力者に戦の際こちらへ寝返る約束を取り付けさせた僕の率いる軍勢は、十あった部隊の内の一つをよってたかってボコボコにすることで戦いに勝利した。三部隊は約束通り寝返った敵の有力者、残りは有能さ故に部隊長に取り立てられた僕の手の者。ぶっちゃけ残りの敵は既にこちらの味方だった訳だ。

(あの時みたいには行かないだろうけれど)

 参謀として有能な『国中の頭脳』を総動員してしかけた策はゲームだからこそあり得たものだったのだろうが、そこまでの成果は見込めなくてもやってみる価値はある。

(内部分裂してくれるだけでも儲けものだし。ここのところ負け続けで僭王軍(むこう)は士気もさがってる筈)

 僕がリアスについたときの戦力差を考えるとあっさり一呑みに出来そうなほど僭王(せんおう)軍側が圧倒的だったというのに、数日で少数の兵に大都市といくつもの砦が落とされ、逃げ場がなかったはずのリアスは大都市に依って反撃の準備を整え始めているのだ。

(ダメ押しに王妃様の身柄の確保だからなぁ)

 総合的な戦力を比べるとまだ僭王(せんおう)軍の方が優勢だ。国にある大都市の内こちらの支配下にあるのは六分の二、まともにぶつかるなら僭王(せんおう)軍が勝ちそうに見えるが、それは総力戦を行った場合の話になる。

(持てる力の全てを出し切れる状況じゃないからね)

 僭王(せんおう)軍の中には、不意をつかれ首元に軍という刃を突きつけられたり人質を取られてやむを得ず降った者も多い。

(内部から切り崩す材料は充分)

 そして、盗賊さんもだが僕には『幽霊部隊』という頼れる仲間がいる。壁をすり抜け取り付けば心を読むことさえ可能なアンデッドはこの手の裏工作に置いても反則レベルの活躍をしてくれると思う。

(よし、そうと決まれば早速準備に取りかかろう。王都地下の下水道を中継拠点にすればそれなりに遠くにも足は伸ばせるし)

 今動けば、大都市陥落の報を聞き動揺するであろう敵軍を更に引っかき回せる。

「王妃の身柄、確かに渡したぞ?」

 ただ、報告に来て無言で立ち去る訳にも行かず、僕は冥王としてリアスに声をかけ。

「っ! ……ありがとうごいました」

(って、ええっ?!)

 僕に気づくなり深々とお辞儀をしたリアスの姿に固まった。

「リアス様、その様に頭を下げることなど」

「良いのです。冥王殿は母上を救って下さったのですよ?」

 今回の救出、よほど恩に感じてくれたようだが、王族に頭を下げられるというのはどうも落ち着かない。この辺り、僕の中身が小市民だからなのかもしれないけれど。

「礼には及ばぬ」

 実際王妃様を見つけたのはたまたまなので、感謝されると居心地も悪い。

(やることもあるし、とりあえず退出して準備始めないと)

 などと自分に言い聞かせてみるが、これも逃げ出す為の口実に過ぎず。

(そうだ、何時までも秘密主義は拙いかな。せめて「王都の地下に謀略用の拠点を作った」ぐらいの報告はしておいた方がいいよね)

 僕がふいにそんなことを思いついたのも、話題を変えてしまおうと無意識のうちに思っていたからかもしれない。

「たまたま出会っただけのこと。王都の地下のような謀が為の拠点は一つ二つでは足りぬのでな」

 だから僕は軽い気持ちで口にしたのだ。謀略用の拠点を作っていることを。

「その話、もう少し詳しく教えて頂けませんか?」

(え?)

 リアスがこの報告に食いついてくるとは思いもせずに。

 

次回、まさかの急展開?


続きます。

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