第四十七話「コツコツと積み上げて」
「よって、『不死兵団』と『幽霊部隊』以外の不死者を正規軍から外すものと、す」
僕が選んだのは結果としてぬるめの妥協案だった。現状で主戦力にしている二つを残し、アンデッドの戦場投入を禁止。
(まあ、拠点作りや小悪党狩りには使っても良いよね)
よって僕が作るアンデッドの役目は以後、王都の地下に作ったようなダンジョンの制作とその防衛及び運営に限定することになる。
「ふむ、人目にさらされる場所から英雄の力が見える部分を極力廃すということかの」
「ええ、以後アンデッドのみんなには夜の闇に紛れて動いて貰おうと思います、その方がらしいですし」
何より力に頼りすぎるのは僕自身の為にもならない。
「僕も借り物の力以外でみんなの役に立てるようにならないと、目標なんて夢物語でしか」
「その意気や良し。それで、先程の話に繋がるのじゃな?」
「ええ、才能があるかは分かりませんが……魔法を教えて貰えないかと」
困った時や命の危機には反則能力の使用も辞さないつもりだが、今の僕は神々に身体能力を向上させて貰っているのだ。流石に今まで使ってきた能力に比べれば劣るだろうが、鍛えればそれなりにつかえる程度のスペックは有していると思う。
「勇者の皆やフィーナには剣術や格闘術を教えて貰う予定ですし」
「それにくわえて『冥王』としての仕事もあると思うが、本当に大丈夫かの?」
はっきり言って無謀、ハードすぎるスケジュールになるとは思う。想像しただけで投げ出したくなるぐらいの。だが――。
「大丈夫ですよ。暗黒神聖魔法に疲労を回復するモノがありますから」
決めた以上は退けないのだ。
「ほどほどにの」
「わかってます、まずは『冥王』の仕事というか廃村巡りになりますが」
「む、あれか」
「ええ」
それは、僕が都市攻めと砦攻めから戻って始めた事業の一つ。何らかの事情で廃村になった村を復興させること。
「復興と言っても、残っている遺骨や遺体にやって貰いますから僕自身がやるのはアンデッド作成と隠蔽だけですけどね」
流行病で滅びた村の場合、暗黒神聖魔法で先に病原菌などの浄化を行う必要もあるが、闇の神から力を借りている為、僕自身の疲労は殆どない。
「試作した『案山子』もうまく働いてくれてるようですし」
農作業用にわら人形へ人骨を埋め込んで作った『案山子』は、見た目が案山子でありながらも自立して農作業が行える優れもの。中を調べられなければ案山子にしか見えないことも万が一隠蔽を破られた場合のカモフラージュになる。
「まあ、先にわら人形を作らないといけない手間はありますけどね」
これに関しては現地で作った動く白骨の力を借りて僕自身は仕上げ作業のみに専念するのだが。
「僭王軍の支配地域も随分削りましたし」
敵が何時までもやられっぱなしで居るとは思えない。形勢を逆転する為にも何らかのアクションを起こしてくるだろう。
「大きな戦いがあるかもしれません」
死霊術師としては戦力を大量に確保する機会だが、出来れば戦争などない方が良い。
「けど、これも僕が選んだ道ですよね」
この世界の人々の手で平和をつかみ取る。その為の一歩なのだ。
(フィリス達、上手くやれるかな)
戦いとなれば、新人戦乙女も優秀な人材を確保する為、戦場に赴かざるをえない。今回の僕は『冥王』としてリアス側の陣営につくこととなるだろう。手助けもアドバイスもやろうと思えば出来るが、おんぶにだっこでは成長の機会を奪ってしまう。
(自分にも他人にも甘い僕にはその辺りを矯正する良い機会かもなぁ)
「悪いが、時間も有限じゃしの。そろそろ転送――」
自嘲気味に心の中で呟く僕の耳に、参謀殿の声が届いた。
「あ、すみません。よろしくお願いします」
我に返った僕は慌てて頭を下げて。もはや馴染みとなった転送の感覚の中、廃村へ向けて出立した。
お待たせしました。
僅かな時間を見つけて、再始動。
ここからは「不死兵団」+「幽霊部隊」と生身の兵を使った戦争という路線に梶を切ってすすむ予定です。
『冥王』はこの決断の先に何を見るのか。
続きます。