第四十四話「読書感想文の思い出」
「口添えなど無かった」
そして『完』で終わらせられたらどれほど良かっただろうか。
「はぁ……」
正直に言って、こんな短期間で他人を鼓舞出来るようなスピーチなり説法の内容を組み立てる能力など僕にはない。
「いくらなんでも、これは……なぁ」
書き損じた羊皮紙を好意で譲り受け、ペンを走らせてできたのは――夏休み終わり間近になってにっちにさっちも行かなくなった中学生が「いかにも書かされた」感を全力で滲ませる読書感想文といい勝負ができそうなシロモノだった。小学生のモノでないあたり少しは救いがあるかもしれないが、僕の実年齢は所謂『いい歳』なのだから、こんなモノしかできあがらなかった精神ダメージは結構大きい。
(やっぱり幻術で誤魔化すか、それともこのままこの文章で敢行して砦の兵達の士気を減少させる高度なテクニックとして――)
それこそ既存のアニメやライトノベルから引っ張って来れば良かったと心の何処かで思ったりもする訳だが、神々に力を借りた上、さらに有名作家のアイデアを盗用することには抵抗があったのだ。まぁ、既に魔法のエフェクトで既存ゲームのモノをオマージュっては居たりしたのだが。
(どうしよう……)
頭を抱える間にも時間は過ぎて行く。
(いっそのこと兵を鼓舞する前に騒ぎでも起こしてうやむやにしようか。いや、だったら透明になって作戦変更でこの砦を一人制圧……)
この時、僕はかなり追い込まれて居たのだと思う。
(そうだ、前線の兵士に深い教養なんてある訳無い。適当な造語とテンションで押し切ってしまおう!)
あの時、何で僕はあんな事を考えてしまったのだろう。
「オパーイ!」
実際に兵達を前にし、口添えを頼まれた僕が発した第一声は、騒然としていた兵達を一瞬で黙らせた。
(ちょっ)
もちろん、僕が自分の失敗に気づいたのは発言した後だった。別に女性の胸を意識した訳ではない、何となく適当に外国語っぽさを出そうと「オブ」と「ファイト」をくっつけてアレンジした造語がたまたまそうなってしまったたのだ。空耳効果であり、僕は無罪だと強固に主張したい。
「えー、今の言葉が『おっぱい』と聞こえた方、悔い改めなさい」
僕は、気づいてしまったが故の気まずさを必至に押し隠そうとしながら言葉を紡いだ。
「先程の言葉は『~の戦い』と言う意味を持つ言葉で――」
下地にした言葉にちゃんと意味があって良かったと思う。だから言葉を続けられたのだ。
「ハイ、戦イマショー。レッツ・ファーイ! イエ゛アー!」
「「イエ゛ー!」」
訳のわからない話してる内に訳のわからないテンションに突入してうさんくさい外国人みたいになってしまったのに、何故か兵士の皆さんは普通にノッてきていた。
(ごめん、盗賊の人――)
我に返った時、僕は謎テンションの兵達と刃を交えねばならない新しい仲間に詫びたが、作戦はもう変更出来ないところまで来てしまっている。
「神官殿、どうしたんだYO!」
と言うか、あれに砦の将まで染まってしまったのは予想外だった。正直に言うと、話術に自信なくてちょっとだけ幻術でブーストしちゃったのだけどこうなるとは思わなかったのだ。
(っていうか、この効き目ならひょっとして僕がリアス側につくに言ったらあっさり寝返るんじゃ?)
罠を作る時力を借りた元レジスタンスの皆さんにはひたすら申し訳ない気持ちで一杯だったが、上手くやれば無血開城出来るのだ。
「皆サン、神カラオ告ゲアリマシター! リアス軍ニツキマショー!」
ある意味藁にもすがる気持ちで切り出してみたところ。
「オゥケイ! 神様の言ウトオリー!」
あっさり承諾されて、僕は正直暴れたくなった。
(僕の努力は……感想文もどきしか書けなかった苦悩は……)
ふつふつと沸き上がる黒いモノを抑えつつ、僕は将と兵達にその場で待機する様告げ、一人で歩き出した。
「と、言う訳で戦わずして砦を落としちゃいましたよ」
「なんだ……そりゃ」
落ち合って事情を説明された「おかしら」さんが言葉を失う様子を見つめながら、僕の浮かべた笑みは引きつっていたと思う。
これが、僕の新しい黒歴史。
最初のノルマは達成したのだが、これで良いのかと思う夜だった。
いやー、夏って暑いですねー。
あはは。
「おかしら」さん達の家族も保護する必要があるので冥王様のお仕事は続きます。