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第四十三話「罠までの道」


「急げっ! 身の程知らずにもこの砦を狙わんとする賊共は刻一刻と近づいてきておるのだぞ!」

 砦の将が出撃準備する部下達を叱咤する光景を僕は特等席で見ていた。

(しかし、あっさりかかってくれたよなぁ)

 拍子抜けするほどあっさり暗示に掛かってくれたこの砦の責任者は、もともと強欲で功名心の強い人物だったようだ。

「盗賊団など正規の軍隊に比べれば雑魚も同然、しかもその雑魚でも倒せば砦を狙う敵軍を返り討ちにしたという功績が立てられるのですよ」

 前線の敵は激戦区であるだけあって本来なら屈強な相手なのだ。弱い兵を用いては前線を崩されかねない。よって手柄を立てようと思えばこちらもそれなりの損害を覚悟するか、邪道だが策を弄するなど小細工によって敵を不利に追い込まなければ難しい。

(まぁ、村を襲って虐殺した村人の首を敵兵の首だとか言わない分、まだ良心的な部類かもしれないけど)

 これだけ戦で荒れている世の中なら、僕の居た世界で過去に起こった目も背けたくなるようなおぞましい所行が何処かで起きていても不思議はない。

(貰った力をフル活用すればそれも防げるとはいえ……)

 それでは、神の力に頼り切った自立出来ない世界にしかならないだろう。ただでさえ、英雄や英雄の遺品(アーティファクト)がありがたがられる世界になっているのだ、英雄はすでに僕以外この世界にはなく、英雄の血と能力を受け継いだ英雄の遺品(アーティファクト)達も血が薄くなることで本来の力を発揮出来なくなってはいるようだったが。

(そう言えばあのおかしらさんにまだ名前聞いていなかったっけ)

 現に、全ての剣を使いこなす『剣帝』の血も一種の剣をある程度自在に扱えればマシな方ぐらいまで薄まっているそうで、僕が先程仲間になってもらった盗賊、もといレジスタンスのリーダーは『|投擲出来るタイプの短剣スローイングナイフ』の力を継承した英雄の遺品(アーティファクト)と言うことらしい。

(剣、かぁ。それだけで小説一本できそうなくらいの数が居るんだろうなぁ)

 とりあえず仮称「おかしら」さんは一人だったからあっさり降伏してくれたが、複数束になって掛かってこられた場合、僕は何処まで対処出来るのか。


「神官殿」

 僕が砦の将に呼ばれたのは、丁度そんなことを考えて居た時だった。

「失礼、少し考え事をしてましてね。どうしました?」

「いや、兵を鼓舞する為にも少々口添えを頂きたい」

 何でも出撃に際して「神がこの戦いの正義をこちら側にあると」言っていたことにして兵の士気をあげたいということらしい。

(へぇ、ただの俗物かと思ったけど一応考える頭はあるんだなぁ)

 もちろん、これが慣例という可能性もあるのだが、なにぶん僕には従軍経験がない。砦を落とす時もアンデッドや捕虜の力を借りた『まっとうではないやり口』を使っている為に、今までこんな状況に出くわさなかったのだ。

「わかりました」

 ただ、この申し出は僕にとっては好都合でもある。兵達の前で指揮官の言葉に口添えすると見せかけて力を使えば、人目を誤魔化して兵達に幻術をかけられるだろう。罠の規模を大きく見せたり、有りもしない罠の幻を用いて兵達を無力化したり。

(上手くいけば、無血開城だってできるかも――)

 犠牲は少なければ少ない方がいい。

(問題は、演説的な何かの内容だよなぁ)

 一応神の力の端末という立ち位置にもある僕だが、力の源である女神は代替わりして間もなく争いごとがあまり好きではないのだ、闇の神ではあるが。

(ま、あの(かみ)に話の中身を考えて貰うつもりなんてもともとないけど)

 もし実際に頼むとしたら、それは『夏休みの宿題を家族にやって貰う』レベルに恥ずかしいことだ。

(とはいえ、スピーチとか苦手なんだよなぁ。何処かのアニメとか小説から適当なモノを拝借してくるって方法も知ってる人には原作を汚すなとか非難されそうだし)

 この世界の人々なら出典は知らないだろうが、これから会う兵達を殺す気がない以上、僕のように異世界トリップしてきた人間が耳にする可能性はある。

(どうしよう、幻術で誤魔化すか……いや、そんなところで力を使うのは、かっこわるい)

 傍目からすればちっぽけなことかもしれないが、この時の僕にとっては結構重要な問題に思えた。

「神官殿、神官殿?」

「はい?」

「どうなされた?」

 だから、僕は将が訝しげに僕を見ていたことには気づけず。

「いや、少々信仰とは何かについて考えていたのですよ」

 作り笑顔と嘘で、将の視線をやり過ごすこととなる。

「ふむ、流石は神官殿」

「いえ。呼んで頂いたのに気づけず、お恥ずかしい限りで……」

 そして、僕は黒歴史を増やすことになるのだ。百人近い兵士達の前で。

 


この主人公、自動黒歴史製造マシーンかもしれない。

そんなことを思う、今日この頃。

続きます。

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