第四十二話「盗賊達 が 仲間 に なった」
「あんたにゃ勝てねぇし、あいつらの家族が無事なら僭王軍と戦うこと自体は構わねぇが、やれるのかよ?」
「勿論ですよ」
そう答えつつ、僕の次の目標が確定した。盗賊達もとい、レジスタンスの皆さんが住んでいる都市や村の開放。電撃作戦に継ぐ電撃作戦だが仕方ない。
(足りない部分は反則能力で補うかなぁ)
あまり力に頼るようなことはしたくないのだが、協力者の家族を助けるのは、砦攻めに付き合って貰う以上、当然だと思う。
「ただし、英雄の遺品の力は使わないで下さいね。規格外の存在が敵側にいると知られると警戒されてしまいますから」
「なっ、それでどうやって砦を落とすんだよ?」
「一応案はあるんですけどね。『1.さっき別れた兵隊さん達が砦を落とした後に落ち合って二つめの砦を落とす策を二番煎じ』『2.突然砦が消滅。怪奇現象です私は力を使ってません』『3.私が砦の兵をおびき出すので入れ替わりに皆さんが砦を制圧』」
二つめは策でさえない気もするけど。
「っておい、二番目のはどう考えてもあんたが何かするんだろ!」
「ははは、嫌ですね。そんなことはないですよ?」
ともあれ、僕のオススメは三番だ。幻影の敵軍を作って騙すという手もあるが。
「三番は、一人の神官が砦を尋ねてですね『ここに盗賊の一軍が迫ってるぞ』と密告するんですが」
「なるほど、嘘を教えて虚をつくのか」
どうやら僕の作戦をある程度は察してくれたらしい、が……おしい。
「それだと食いつきが悪いので正直に教えます」
「おい」
「方向だけですけどね」
で、その先には数名の囮が蜘蛛の子を散らすように逃げていて、追いかけた兵達は簡素な罠に引っかかって犠牲を出したり足止めをくらったりする訳だ。
「罠、か。悪くはないが罠を作る道具と人手はどうすんだ?」
「盗賊なら捕虜を縛るロープぐらいはありませんか?」
「そりゃあるが」
だったら問題ない。
「人手と罠の材料に関しては――こんな風に」
僕は先程の戦いで連射したものより威力の高い神聖魔法を無造作に放った。
「ひっ」
「うぉ?!」
魔法が直撃した木はメキメキと音を立てて根本から折れ、初歩の方の魔法で枝を吹き飛ばせば、少々荒いがあっという間に材木が一本できあがる。
「こういう力を代用してなるだけ必要な人手を減らします。音がするのであまり砦の近くで作業出来ないのが難点ですが」
今は夜、闇が工作準備をある程度隠蔽してくれるだろう。
(罠とこっそり幻影も使った二段仕込み。僕はどさくさに紛れて逃げれば良いし、囮も人数が少なければ逃げる際のフォローはできるから――)
たぶん、小細工で砦を落とされたと誤解させられるだろう。
「ったく、驚かすなよ。しかし、それで上手くいくのか?」
「ええ。簡単な暗示をかける薬を持ってますから、将と接触出来れば……」
「ちょっと待て、そんなモンまであったのか?」
勿論、そんな都合の良いものはない。反則能力をこっそり使う為の方便で。
「まぁ、今晩中に砦を三つ落とすつもりでしたからね。色々準備はしてあります」
僕は新たな仲間を安心させる為にっこりと微笑んだ。
(何はともあれさっさと片づけてしまおう。この分だと足止め分の遅れは取り戻せそうだし)
第一、落とした砦の戦後処理や場合によっては砦が落とされたことを知られない為の情報封鎖もしなくてはならない。
(こう、戦争ばっかりだと癒しが欲しくはなるけどなぁ)
そう言えばフィーナとフィリスはどうしているかな、とつい思考が別の方向に逸れてしまう。これは、僕にとっての癒しが彼女らなのか。
(それともちょっとした現実逃避かな)
戦いは思ったより僕の精神を削っていたのかもしれない。
「さて、この辺りで良いでしょう。罠の準備を始めますよ」
僕は頭を振って余計な考えを吹き飛ばすと、同行者達に呼びかけた。
次回で砦が落ちると良いなぁ。
続きます