第四十話「さて、どうしようか」
(本当にどうしよう……)
実はまだ自称英雄の遺品な盗賊の話は続いていた。が、おおよそのことは聞けたのでもうどうでもいい気がする。
(不自然な点はあんまりないけど、『英雄の遺品』であること自体がブラフの可能性も捨てきれないんだよなぁ)
だたのハッタリなら問題はない、兵団に任せてしまえばいいのだから。
(まぁ、相手が悪人かどうかの判断基準にする為にも長話に付き合ってる訳だけど)
話というのが、僕にとっては拙かった。今のところ決定的な情報は出ず、貴重な時間を削られるだけなのだ。
(「皆殺しだぜヒャッハー!」とか問答無用で襲いかかってきてくれれば蹴散らして終わりに出来るのに)
盗賊も一人ではないのだが、どうやら勧告した男の話が終わるのを待つ姿勢らしい。
(いっそのことこっちも英雄であると言ってみる……のは、拙いよなぁ。隠してた意味が無く――ん?)
そうだ、よくよく考えれば今の僕は敵軍に偽装中だった。
(なら、砦の兵に護衛されてる通りすがりの『英雄の遺品』ってことにすれば良いか)
使い捨てにするかどうかは解らないけれど、どうやら新しく仮初めの名前が出来そうだ。
「お話は解りました。もう結構ですよ」
「へぇ、随分物わかりがいいじゃないか?」
僕の声を観念したものと誤解したらしい盗賊が意外そうな顔をするが、もちろんそんなつもりは毛頭無い。
「いいえ、誤解なさっているようですしまだ自己紹介もしておりませんでしたね。私は『大神官』。ただの通り名ですが、貴方と同じく『英雄の遺品』です」
「なん……だって?!」
「ですから、『英雄の遺品』だと申しました」
聞き返してきたので念のためにもう一度言っておく。
「おい、マジかよ?」
「大丈夫なのか?」
明らかに動揺を見せ始めた盗賊達を横目で見つつ、僕は顎をしゃくることで兵団に指示を出す。
「なっ?!」
「おい、兵が!」
甲冑を鳴らして動き出した兵団に盗賊達が声を上げるが、問題はない。
「大丈夫ですよ。距離をとって貰うようお願いしたんです。私の力に巻き込んではいけませんからね」
説明する気はあったし、襲いかかるようなら実力行使の大義名分になるのだから。
「まさか、あんた本当に――」
「さてと、そちらのお仲間は離れなくてよろしいのですか?」
「っ?!」
自称英雄の遺品の言葉を途中で遮って僕が発した警告で盗賊達はようやく気づいたらしい。英雄の遺品対英雄の遺品の戦いに巻き込まれる可能性を。
(まぁ、僕は英雄だけど)
ちなみに兵団は避難と見せかけてそのまま目的地に進んで貰うよう指示を出しておいた。僕が指揮を執れないのが不安要素だが、ぼやいていても仕方ない。
「お前ら、下がってろ」
「へっ、へい」
「おかしら、頼んますぜ」
一緒に吹っ飛ばすことも可能だったけど、僕は盗賊達が避難し終えるのを見守って力を解放する。足下の石がピシリと砕け、周囲の地面が数センチ陥没して結構派手な音を立てる。
「ひっ、ひぃ……」
「ま、マジもんだ……」
盗賊達は大いにビビッた様だけど、僕の行使した力は神の力を借り、周囲に力場を作ることで結界を張るというシロモノ。近寄ってこなければ何の害もない。
「あーあー、ハッタリかと思いきや本物とは参ったもんだ」
ぼやきつつも、おかしらと呼ばれた自称英雄の遺品の男にあまり動じた様子はない。ただめんどくさそうにどこからか取り出した短剣を弄び、何気ない動作で僕へと投擲した。
「っ」
驚きはした。が、英雄と英雄の遺品ではいかんせん格が違う。ギィンと金属が擦れる音を立てて結界の表面を短剣は滑り、ぽてっと落ちたかと思うと投げた時と同じぐらいの速度で男の手の中へと戻った。
「しかもやたら硬いと来てやがる」
多分男の能力は手に触れず物を動かすと言うものか何かだろう、と言うのがこの時の僕の見解で。
「それで、次はどうします? 反撃しても良いですけど」
余裕を見せつつ僕は男に問うた。短剣が飛んできた時、内心は結構ビクビクしたのだが、そのあたりは幻影で隠して。
新たな呼称(肩書き)誕生。
その名も『大神官』……まぁ、闇の神に仕えるプリースト的な肩書きです。
リアスへの助力編が終わったら、大神官として一大宗教勢力を築く旅へ――。
とかも考えましたが、風呂敷広げすぎるとたたむのに苦労しそうな。
ともあれ、続きます。