第三話「冥王の策」
「立つがいい」
僕は見渡す限りあちこちに転がっていた兵の亡骸に命じる。
「うわっ」
「ひぃぃ」
授けてくれた二つめの力は『死』の力。死者をアンデッド化することも可能で、やはりRPGの敵役である死霊術師がよく使うパターンの力だった。ますます悪役っぽいが不要な争いを事前に制止するにはちょうど良い。
「我が必要とするは、下僕になり得る骸のみ。せっかく拾った命を徒に戦で費やすならば、その骸は我が下僕として貰い受けよう」
傷が癒えたことで兵達が戦いを再開することを見越しての予防線。目の前の兵達が徴兵された民間人なのか軍人なのか素人の僕にはわからないが、前者であれば死ぬかも知れないところを助かったなら戦意より保身に気持ちは傾くはず、と僕は思ったのだ。
「っ、何をしている! 敵は目の前にいるのだぞ、者ども戦え!」
などと、叱咤する上官か将が負傷者に混じっていたとしても機先を制してしまえば、怖じ気心の方が先に立つだろう。
(頃合いや、よし。みんな、よろしく)
僕は不遜な態度をとったまま密かに合図を送って。
「冗談じゃねぇ、俺は逃げるぜ」
「そうだ、死んでも名誉どころか動く死体になってこき使われるんだろ! そんなのは、ごめんだぜ!」
上がった声は、骸の起きあがった光景に裏付けされた僕の言動を真に受けた兵達に広がり。
「逃げろ」
「逃げるな、戦え」
「誰が戦うか」
「命あっての物種だろうが」
「うわぁぁっ」
我に返った男の声が交戦を呼びかけるも、始まった兵達の潰走は止まらない。こけおどしに兵達に向けて死体を歩かせたのも効いているのだろう。
「くっ、くそ臆病者共めが……これでは、退くしかないではないか」
忌々しげに吐き捨てた男は将なのだろう。まあ、それを狙ってやったのだ。
(みんなも、ご苦労様)
合図に答えて声を上げてくれた、本物の死霊達に労いの意味を込めたサインを送ると、僕は顔を歪ませ立ち去ろうとする将の男に皮肉を込めて声を投げた。
「骸の献上、感謝しよう」
と。
(さて、これで生者は居なくなったかな)
僕が得た能力を最大限に活用するには、死体が必要となる。だが、ただ動く死体を作って道具のように扱うのは、気が咎めたのも事実で。
(いっそ全員生き返らせて協力して貰うのも手なんだけど、ホイホイ生き返れると命の価値が軽くなって戦争が頻発しかねないからなぁ)
だから、不死者のほうが都合が良い。そんな目に遭うのはゴメンだと思ってくれた方が、戦いへの抑止力となるからだ。
「それで、思いついたのがその折衷案という訳じゃな?」
「そう言うことですよ、我が参謀殿」
僕はかけられた声に振り返ると、古びたローブを纏ったミイラに苦笑を返す。魔導死霊、リッチとも言う魔導師が生命を代価に膨大な魔力を得たアンデッドは、この世界ではおとぎ話にしか存在しないのだという。実際、リッチになることを目的に研究を積んだ魔導師も多くいたのだが、成功には至らず。
「意識を残した上位不死者の大量生産か、むちゃくちゃじゃのぅ。ワシとて結局はお前さんに蘇らせてもらえなんだら死体のままだったと言うに」
僕が参謀殿と呼んだ元魔術師も、研究の完成を見ず命潰えた求道者の一人だった。
「まったく、お前さんに声をかけられた時は落ち込んだのじゃぞ? 苦心の末自力でこの身体になり得たと思ったのに」
リッチになり得たのは、僕の力だったというわけだ。もっとも、僕にしても神々に授けられた力を除けばただの人間でしかない。
「参謀殿には多彩な魔法の才能と膨大な魔力があるじゃないですか。転移魔法なんて僕には使えませんし」
実際、この戦場を発見したのも参謀殿、転移魔法で連れてきてくれたのも参謀殿。まぁ、今回の作戦発案は僕だけど、やったことの大半は授かった力によるものだった。
「そりゃ、お前さんとは年期も修練に費やした時間も比べものにならんからの」
「では、始めますね」
とりあえず、参謀殿が 気をよくしたところで僕は本来の目的に取りかかることにする。
(まずは、身体の持ち主を探し出して個々に交渉、協力してくれる人が多いと良いけど……)
得た力は目を閉じ念じるだけで周囲の魂の位置が淡い光になって浮かび上がる。参謀殿曰く、これもそこそこのレベルの魔法であるらしいのだが、意識せずに行使できるのは、まさに神の恩寵ともいえるのかもしれない。
(さて、交渉するにしてもこんなうさんくさい容姿でついてきてくれる人がそんなにいるかなぁ)
参謀殿の時は、願いを叶えたと言うこともあって交渉はスムーズに行ったが、人間なんと言っても第一印象が肝心だ。
「うーん」
思わず唸った僕は、考えた末に――。
間が空きましたね。
冥王の参謀役、ようやく登場です。
それはさておき、冥王は戦場にさまよう魂達をどう勧誘するのか。
続きます。




