第三十八話「パルメイオ砦の戦い(後編)」
「裏切り者め、おのれッ! ぐッ、が……」
「ぎゃああっ!」
剣戟の音に混じって罵声や悲鳴が聞こえる。
(これなら僕が姿を現しても問題なさそうかな)
このまま幽霊達に砦の制圧を全て任せたのでは、ただの反乱で終わってしまう。この戦いは、僕も働いているという実績を残す為でもあるのだ、ずっと隠れている訳にもいかないし、姿を見せる必要もあった。
「――乱だと? ええい、こうしては」
「お待ち下さい! 反乱に加わった者はことのほか多く、誰が敵で誰が味方かも……」
「ここ、か」
戸から漏れる声の片方は変事を告げに叫んでいた者だ、おそらく砦の主はこの先にいる。
「殺さず、押さえ込め」
僕はこのために随行させた『とっておき』に命じると、半開きになっていたドアを開ける。
「ぬ、何や」
「遅いわ」
ドアの開く音に中にいた男が振り返った時、僕の左右をすり抜けた黒ずくめの人影が既に肉薄していた。
「ぐあっ」
「じゃ、ジェイドさ、ぐわっ?!」
「反乱とはめでたい頭よな? 敵襲にも気づかなかったと見える」
「敵襲……だと?」
「内通者が寝返ると同時にごく少数の隠密に長けた者達で強襲する。結果は見ての通りよ」
驚く砦の主に僕は告げた、誤解するように。
「内通、まさかきさ」
男が僕のとっておきに取り押さえられたまま、顔を上げようとした時だった。
「『冥王』殿、確かに貴方の手並みは拝見した」
「なっ、あなたは……」
驚きに目を見開く男の目に写っていたのは、僕が作り上げたリアスの幻影。
「造作もなきことよ。これで解ったであろう? 敵に取り押さえられるまで敵襲に気づかなかった浅はかさをな」
「くっ」
ちなみに僕がここでリアスの幻影を見せたのは、当然リアスがこちら側にいると誤解させる為でもある。
「汝を取り押さえるは、『幽霊部隊』。本来ならば、敵に姿さえ悟らせぬ我が精鋭部隊よ」
『幽霊部隊』は「自らの姿を悟らせぬこと」を常とした隠密強襲部隊。本来なら『喩え』であるのだが、僕の率いる者達の場合は違う。そのままの意味だ。
(けど敢えて誤解して貰えれば――)
都合が良い。『冥王』を名乗っても不自然はないし、字面だけならアンデッドを率いているように聞こえるのだから。
(まさか本当にアンデッドを使ってるとは思わないだろうけどね)
おそらくこの世界はアンデッドの認知度自体が低い。とは言ってもかって見た山賊の反応とリアス達から得た情報、参謀殿の話しが判断材料なのだが。
「わざわざ自身を魔導死霊にしようとしたことはそれこそ藁にもすがる思いじゃったからの」
とは、参謀殿の談だが、こちらの世界でアンデッドというのは怪談か都市伝説的な何かにしか存在しないシロモノらしい。
ちなみにこのほかに『冥王』は『不死兵団』という兵団も指揮している設定だが、こちらは死さえ恐れずまた数多の死地を乗り越えてきた不死身の兵団になる予定だ。
(予定というか、この戦いの戦死者を使って作る予定だし)
もともとこの砦の兵士なのだ。二つめの砦では、彼らに味方と偽って中へ侵入し、暴れて貰う算段を立てている。勿論、幽霊部隊も併用するし、幻影リアスの姿も見せる。
「さて、一応聞いておこう。降伏するか否か」
それによって死者の数も変わろう、と僕は言葉を続けた。戦力が増えるとはいえ、死者が増えるのは本意ではない。出来れば、さっさと終わって欲しかったのだ、こんな戦いは。
「やむを得ぬ――」
「ジェイド様!」
「兵達には寛大な処置を」
「よかろう」
どうやら、この砦の責任者はそれなりの人格者だったようだ。取り押さえられて、抵抗も出来ない以上、ただ兵を無駄に損なうだけだと思ったに違いない。
「戦いを止めよ、敵は降伏した」
僕は後方を振り返って告げ。
「戦いを止めよ!」
「敵将ジェイドを捕らえたぞ、戦いを止めよ!」
幽霊に憑依された兵達が声を張り上げ、情報を伝播させる。これで、ここの戦いは終わるだろう。
(さ、休んでる暇はないし。次にいくかな)
一つため息をついた僕は、そのまま歩き出す。
(後で連絡するから、降伏した人達はそれまで武装解除して適当な部屋に押し込んでおいて)
この砦に残る幽霊達に指示を出しながら。
と言う訳で、ここから主人公は『冥王』を堂々と名乗り始めます。
しかし、『幽霊部隊』チートですよね。
もちろん大きな欠点もあるのですが、それはまだ秘密。
次は『不死兵団』での砦攻めにするか、戦乙女編にするか。
ちょっと迷ってます。