第三十六話「窮地からの脱出へ」
窓の外で雷が鳴っていた。
(こっちでも何かしないといけないのが辛い所だよなぁ)
戦乙女側での消息不明者の捜索を兼ねた人材捜しはまだ終わりどころか寄り道したせいで王城の中にも入れていないのだが、このまま捜索を続けてもリアスに力を貸している『冥王』が何かしたことにはならない。だからこそ穀潰しと見られないように何か成果を出しておくべきなのだが。
(何をしようかなぁ。あまり冥王としての力は出さない方向で、ある程度の戦果をあげる……かぁ)
悩む僕の前には近隣のめぼしい地名が書き込まれた地図があり、地名の側には城や砦をもした頭つきのピンが突き立っている。
「やっぱり、リアス側の旗色が悪いなぁ」
先日、セナッサ砦に捕らわれていた捕虜達が自由を取り戻し、内側から砦を制圧したことでピンの一本はリアス陣営側のものに変わっているが、ささやかな変化に過ぎない。
「せめてここと連絡出来たら――」
六つある大都市の内、リアスについてるのは一つだけで、しかもこの一つももと王弟こと僭王軍の支配地域によって分断されて飛び地になってしまっている。
「大都市なら防衛力もあるだろうけど、今の滞在場所じゃ見つかったら終わりだし」
リアスが今居る館はただの屋敷であり防衛拠点ではない。僕が見た限り、周囲を覆っていた生け垣や柵も獣除けにはなるだろうが、軍勢が押し寄せて来たら殆ど何の役にも立たない規模のものだった。
(だから敢えてあの館に居たんだろうなぁ、相手の虚をついて)
リアス達の話によると、僭王軍はリアスの潜んでいる可能性の高そうな場所から順に拠点を攻め落として行ったらしく、リアスが無事だったのは、防衛機能が無く優先順位の低い場所に身を隠していたからに他ならない。
(実際かなりきわどかったみたいだし)
実を言うと館に近い砦や関所は七割方が僭王軍の手に落ちている。ぶっちゃけ、大都市側の飛び地の方が支配域が広いのだ。捕殺すべき対象がそちら側に逃げなかったせいで侵攻が後回しにされたからこそなのだが。
(今のままだと見つかったら終わりだからなぁ。何としても大都市側と繋げないと)
王位の簒奪は国内のあちこちで反乱の火種になったらしく、これに乗じて山賊や盗賊の類までが好き勝手をやり出したからだろう、僭王軍の侵攻は賊や反乱軍の討伐に力を削がれ、一時的にブレーキが掛かっている。
「となると、チャンスではあるけど……馬鹿正直に最短ルートの障害を排除したらリアスがこっち側にいるのが丸わかりだし」
どう考えても陽動が必要だ。
「そこで、参謀殿の出番、と言う訳です」
「なるほどの。転移魔法で大都市側にお前さんを送れば良いと」
「はい。幾つか腹案があるので、それを使って一日の内に三つ、大都市側から砦を落とします」
勝算はある。手ぶらで乗り込む気はないし、最初の一つを落とせればあとは同じ手段で落としていけるだろうとも。
思っている
「そこで、参謀殿にはこのパルメイオ砦に近い場所へ転送して欲しいんですけど」
「だったら、この村かの。生前、薬草の配達で訪れたことがある」
「それって、相当昔ですよね?」
もちろん地図に名前が載っていると言うことはまだ存在する村なのだろうけれど。
「大丈夫じゃろ、地図にも載っておるのなら」
参謀殿は僕の思ったこととほぼ同じことを口にして、僕の方に向き直る。
「では、行くとするかの」
「あ、出来たら帰りがてらこっちとこの砦に鼠アンデッドを転送して行って貰えますか?」
「次の策の下準備という訳かの」
「はい」
はっきり言ってリアス勢は劣勢であり時間の猶予もあまり無いのだ。僕は更に何カ所かの拠点へ『置きみやげ』の配達を依頼すると、フィーナにあてて短い手紙をしたため地図の脇に置いた。
「戻ってきてフィーナがこの手紙に気づかないようであれば、参謀殿から直接手紙を渡して下さい」
殆どメモのようなものだが、それは僕からフィーナへあてた指示書。
「当面は『冥王』やらないといけなくなりそうですからね」
かといってアンデッドをおおっぴらに使う訳にはいかない。僕の力は伏しておく。可能性は低くても、早期に僕の能力が敵に知られれば、アンデッド対策をとられる可能性がある。だから表向きは策謀に見せかけてこなさなくてはいけない。
「では、お願いします」
「うむ、心得た」
僕の声に参謀殿が応じた直後、周囲の景色は瞬時に歪んだ。
「少しずれた……いや、村の位置が動いたようじゃが問題はなさそうじゃの」
気がつけば、緑の香りが濃い林の中。参謀殿の視線を追えば、少し先に炊事のものらしい煙が上がっているのが見えた。
再び砦攻めに挑む『冥王』。
はたして冥王の策とはいかなるものか。
続きます




