第三十五話「命名」
「パパぁ、どーしたのぉ?」
「いや、うん……その、ね?」
とりあえず、フィーナへの説得は無事に終わった――無事に終わったのだと思いたい。
「こいつは拷問か何かかい?」
「……ゴメン」
問題は、もう一人謝る必要のある人物が居たと言うことだ。自分の身体に入った精神年齢の低い魂によって幼児退行した自分をまざまざと見せつけられるかのような状況に陥っている新たな戦乙女。名前はエリーとのこと。
「えーとぉ、エリーお姉ちゃん、でいい?」
「……っ、あ、ああ。よ、よろしくね」
引きつった顔したエリーが娘に挨拶する光景は何というか僕としても罪悪感でいたたまれなくなる。こんな筈じゃなかったのに、どうしてこんなことに。
「何て言うか、ゴメンね。本当に」
「いや、確かに好きに使ってくれっていったのはあたいだ。たとえ悶える女性を見るのが好きとかそう言う趣味だったとしても恩はお」
「いやいやいや、そんな趣味はないよ?」
何故だろう、こうもピンチがピンチを呼ぶのは。次はS的な変態疑惑ですか、そうですか。そう言えばある意味での縛りプレイとかした覚えもあったような。
(あれ、ひょっとしてフラグだったのかなぁ?)
否、有るはずがない。そんな意図など無い。僕は頭に浮かんだ嫌な予感を頭を振って消し去った。そもそも、僕にはまだやることが山積みだったのだ。
「ところで戦乙女様」
「うん?」
「この娘の名前はどうしますか? まだ決めていらっしゃらないのでしょう?」
「あー」
例えば、丁度フィーナの問うた娘の命名問題。
「一応ボクの仕事を引き継いで貰うつもりでいたからなぁ、戦乙女の呼称ごと」
僕のコピーで精神だけ女性化させたものなら問題ないと思ったのだが、二つの魂が混ざって出来た魂は記憶も大半が吹っ飛び、精神年齢も良くて小学生レベルまで後退してしまっていたのだ。
(このあとどれくらい速さで精神的な成長するかわからないし、当分はフィーナに面倒を見て貰うとして)
あらかじめ断っておくが、別に押しつけようとしている訳ではない。説得のさなか、『お母さん』と呼ばれて以来、フィーナは娘にべったりなのだから。現に今も娘はフィーナの膝の上にいる。娘の肉体年齢が精神年齢にそぐわないせいで微妙な違和感があるもののそこはスルーだ。
(ま、意図せず出来た娘で準備期間無しとはいえなぁ)
命名も親としての責務だろう。
(名前は一生モノだし、やはりフィーナやエリーからも名前の一部をとって――)
僕にネーミングセンスはない。だが、だからこそ条件に当てはまる既存の名前を選び、結果的に無難な結果に落ち着いた。
「フィリス、でどうかな?」
闇の女神とエリーとフィーナ、三人の名前の一部を持つ名前で僕の記憶にある西洋風の名前はこれしかなかった。本当は僕の名前も入れるべきかと迷ったのだけれど、追加するとおかしくなってしまうのだ。
「フィリス……ありがとうパパぁ」
「良かったですね、フィリス」
嬉しそうな笑顔は僕の選択が間違っていなかったことを物語る。
「うぐぐ……」
無邪気な子供スマイルを浮かべる元自分の体に精神ダメージを受けて悶えるエリー以外にとって。
ようやく色々な問題が解決しましたね?
一時的にでもそろそろ冥王パート戻れるかなぁ?
続きます。