第三十二話「新人勧誘その四」
「――と言う訳で、転生して戦乙女やってみない?」
食事を終え、一息入れた僕はゴミを捨てに来た幽霊の少女に事情を説明し、本格的に勧誘していた。
(けど、何て言うか「転生」する側の小説は幾つか読んだことあるけど、まさか自分が転生を勧める側に立つとはなぁ)
事実は小説より奇なりとはこういうことを言うんだろうか。
「何なら特典も付けるよ? 見た目を一割り増しに美形とか」
僕としては側近は多い方が良い、だから勧誘にも熱が入った。別に相手が女の子だからとか、そんな理由ではないと思う。
「それが恩人の望みだって言うんならあたいは構わないけどね」
「じゃ、契約成立ってことで♪ キミが面倒見てた子供達はあの地下ダンジョンに住みたいって人達が面倒見てくれるらしいから安心して」
少女の未練になりそうだった問題も割とあっさり片が付いた。一応少女に刺客を送った組織がどうなったかについての報告はまだだけど、刺客の死体は自壊すら厭わない代わりに熊を素手で殺せる程までの筋力を誇る生ける屍に変えて送り出したのだ。
(ま、元が悪人だし使い潰しちゃって良いよね)
下水道の改装工事に協力して貰ってるアンデッド達にはこの後ダンジョンの番人兼住人として過ごして貰う必要もある為、使い潰す様なタイプのアンデッドにはしていない。そもそも、女子供を手にかける外道と己の意思で僕に協力してくれる人達を一緒にするなど問題外だ。
「それにしても、良い死者ばかりで何よりだよ」
献身的に働いてくれる不死者達のおかげで、予定外だった王都での拠点まで手に入ろうとしているのだから、感謝してもしきれない。
(本当は勇者としてあと何人かスカウトしたかったんだけどね)
中には戦場で怪我をして戦えなくなり、このスラムへ流れてきた元傭兵という経歴の持ち主も居て。
(特にあの人はなぁ)
アンデッド化したことで怪我の影響が消えた剣の腕は僕としては喉から手が出るほど欲しかった。
(ま、このダンジョンの防衛に戦力残さないと駄目なのは解ってるし……)
この辺りは多分割り切るしかないのだろう。
「さてと、それじゃ転生して貰う前に知ってるなら教えて欲しいことがあるんだけど――」
僕は気持ちを切り替え、少女に問う。
「盗賊ギルドってこの王都にはある?」
駆けだしでも盗賊なのだ、存在するなら噂ぐらいは知っているんじゃないかと僕は思った。
「へ?」
「いや、盗賊ギルド」
この世界に冒険者ギルドというものはない。代わりに傭兵ギルドというものが存在し、腕っ節の強い男達に仕事の斡旋をしている――と言うところまでは僕も知ってるし、偽名で傭兵として登録もしているのだけど。
(盗賊ギルドや暗殺者ギルドはあったらあったで厄介なんだよね)
一応僕の能力はチートアイテムを作ると言った類のものでないので盗難されて困る様なものは心ぐらいとはいえ、ゲームなんかに出てくる盗賊ギルドの情報網は侮れないし、暗殺者には嫌なトラウマがある。
「あ、当たり前だろ? たいていの大都市にはギルドはあるよ。やっぱ、神様だとそう言うところは疎いのかい?」
「うーん、ちょっと世間知らずではあるかなぁ? ホラ、乙女だし」
とりあえずすっとぼけてみるも、そもそも僕は異世界人なのだ。あまり無茶は言わないで欲しい。
「あたいだってまだ……っ!」
「うん、乙女じゃないと戦乙女にはスカウト出来ないからね」
何だかとんでもないことを口走りかけたのに気づいた少女が赤面する姿を眺めつつ僕は頷いて。
「そうじゃなくて!」
「そう、盗賊ギルドの話。案内出来る? メンバーだったらやっぱり『おたくのお嬢さんを下さい』って断り入れとかないと義理を欠くかなぁとか思ったんだけど」
とりあえず微妙に不穏な冗談を口にしてみる。
(今は戦乙女だから恋愛フラグは立たないよね)
あくまで混ぜっ返して世間知らず云々を誤魔化す為だ。ちなみに、何故この段階で案内を頼むかというと、肉体を持っていない方が人に見られず好都合だと踏んだから。
「やっぱり無理?」
「いや、そんなことはないよ。幸か不幸かあたいはモグリだったからその気遣いは不要だと思うけどねぇ」
「まぁ、ギルドメンバーなら手を出しちゃヤバい相手は普通知らされてそうだもんね」
「あ、ああ。まあね」
少女の答えは予想の範疇。問題は案内を頼む口実が潰れてしまったことだろうか。
(はぁ、これだと下水道の鼠や虫で監視用アンデッドを量産して探すか刺客アンデッドの報告待ちになるかな)
だったら、予定を変更するのも手かもしれない。
「じゃ、ちょっと予定を変更してキミの転生を先にしよう。フィーナ……じゃ、まだ解らないよね? 先輩との初顔合わせもして貰いたいし、紹介する人はいっぱい居るから」
僕は脳内スケジュールを書き換えると、少女に手を差し伸べ魔導死霊とアイコンタクトをとった。
行方不明の女騎士捜索を後回しにし、二人目の揮下戦乙女ゲットをほぼ確定化させた戦乙女。
あくまでこれは寄り道の筈だが――寄り道長期化で大丈夫なのか?
ともあれ、続きます。