第三十話「新人勧誘その二」
「あれ?」
どうしてこうなった。多分、僕の今の心境を一言で表すならまさにそれ。
(明らかにスラムだよね? なんでかな? 何でこんな所に来てるのかな?)
無理矢理明るくしつつ内心で自問自答して見るも、答えは出ない。
人の流れに流されたとか、人が多そうで通れない先に行く為に細い路地へ飛び込んで迂回しようとしたことだって多分原因じゃないだろう。
「いや、どう考えてもそれが原因だろ!」
とかツッコミを入れてくれる知り合いも居ない。王都は初めてなのだから。
(うーん、かといって最終目的が潜入だと観光ガイドを雇う訳にもいかないし)
むしろアテにするならこういったスラムに住んでいる人間を頼るべきかもしれない。
(盗賊ギルドとかあると潜入に長けた人を紹介とかしてくれそうな気もするけど、まずあるかないかも知らないもんね)
まぁ、あったとしても、国とギルドがグルなんてパターンだと飛んで火にいる夏の虫、なのだけれど。
(はぐれ盗賊とか金を払えば何でもやってくれる一匹狼の犯罪者とか潜伏してるかもしれないし、とりあえ――)
とりあえずここまで来たなら協力者をスラムで確保しよう、と歩き出そうとした僕は。
「うわっ、た!」
何かに足を取られ危うく転びかけた。
「ふぅ、驚いたぁ。いったい何――」
スラムという場所柄、治安が良くないであろうとは僕も思っていた。
「あ……」
僕が躓いたのは虚ろな瞳に空を映し、横たわる少女の亡骸だった。
(っ……)
刃物か何かで斬られたか刺されたのだろう、清潔の対極にある地面には濁った赤い池が出来ている。
(どうしよう)
おそらく僕なら少女を蘇生させることも出来る、これは間違いない。問題は、死者を蘇らせた場合のデメリットだ。
この少女が旅行者で面識のある人間が殆ど居なければ、問題は少ない。だが、少女の粗末な衣服と汚れた身体からするとこのスラムの住人である可能性が高い。
(となれば、蘇生させたこの娘を見たこの娘の知り合いは、死んだかかなりの重傷を負ったはずなのにピンピンしてることを訝しむよね)
理解の追いつかない事態に、周辺の者は少女を不死者や化け物呼ばわりして迫害する様になるかもしれない。
(ボクの力がバレるのも拙いし……って、考えてる場合じゃないか。とにかく、一端この場を離れないと)
死体の側に立っていて殺人容疑で捕まりました、なんてシャレにならない。参謀殿の転移魔法で送ってもらった僕は言わば不法侵入者なのだ。身元の照合でもされれば拙いことになる。
(でも、どこに知らせ……あっ)
テンパって居たんだと思う、幻影を纏って透明になれば問題ないことに気づくのが遅れたのは。
「と、言う訳で――ボクは戦乙女。仲間としてボクと一緒に戦って欲しいんだ」
最初の勧誘対象がスラム街の少女になるというのは僕にとっても予想外だった。この少女、駆け出しの盗賊だったらしい。
「けど、あたいが戻らないとあの子達が――」
もとは浮浪児で、今は同じ境遇の子供達を食べさせる為に盗みをはたらき、報復として差し向けられた刺客に襲われて殺された。だからこそ、少女は残した子供達の元に戻りたいと訴えた。
「魂だけで戻っても何も出来ないよ? 解ると思うけどね」
「けどさ」
「第一、ここでおしゃべりしてる時間はないんだよ?」
しつこく食い下がる少女は理解出来ているのだろうか、状況が。
「やばい相手の荷物に手を出しちゃんたんだよね? 見せしめに殺されるの、キミだけだと思う?」
「へ?」
「その子供達も、何て可能性はない?」
「あ……そんな」
指摘してようやく驚きを顔に浮かべると言うことは、やっぱり気づいていなかったみたいだ。
「だから、時間がないっていったんだよ……案内」
「へ?」
「だから、子供達の所まで道案内。出来ないの?」
「あ、ああ。わかった。ついといで――」
いきなり寄り道が確定した。まあ、人助けだし上手くいけば勧誘にも繋がるから悪くはないんだろうけど。
(参謀殿、お手伝いお願い出来ますか?)
参謀役の魔導死霊も見知らぬ目的地へ瞬時に転送なんてことは出来ないが、何せ予定にない突発的な出来事なのだ。参謀殿は居てくれれば心強い。
「勿論じゃよ。善行を積めるのであれば断る理由の方が皆無じゃの」
「うわっ、いきなりな」
「む、初めましてじゃの、お嬢さん」
「……ひっ、みミイラ」
(あ、参謀殿に幻影纏わせるの忘れてた)
突然現れた魔導死霊の姿を見てパニックへ陥った少女に僕は自分の失敗を悟るが、今はそれどころじゃない。
「キミも今は幽霊でしょうに。それより道案内!」
僕は引きつった表情を幻影で隠したまま、少女を促した。
新キャラ登場、果たして勧誘はなるのか。
そして、少女が面倒を見ていた子供達の生死は?
続きます。




