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第二十七話「セナッサ砦攻防戦(中編)」


「さてと、いくら不可視になってるからっていきなり潜入も無謀だろうしなぁ」

 馬車の側を離れてだいたい十分ほどだろうか、僕は砦の全貌が見える距離で一端足を止め木々の影から様子を窺っていた。

 ここから先、砦までは木々が伐採され身を隠す場所はない。強襲されるのを恐れると同時に捕虜の脱走を妨げる為でもあるのだろう。やたら見晴らしの良い景色は幻影で姿を消した僕には問題ないのだが。

「問題は捕虜になってる人達かぁ」

 もちろん捕虜の面々を丸ごと透明にしてしまうことも可能だが、今回は僕という英雄の存在を敵に悟られない為にも反則(チート)の大盤振る舞いはできない。

(表向きは捕虜達が独力で脱出、混乱に乗じた捕虜の強襲で砦は内から制圧されるという形にするのがベストだよな)

 とはいえ、できれば捕虜になっている味方に犠牲は出したくない。

(と、なればなぁ)

 僕は極力目立たず、力を使わずこの砦を落とさなければいけない訳で。

(まあ出来る限りのことはしてみ……ん?)

 何気なく左手に目をやったのは、木の幹についた手に微妙な違和感を感じたから。

(け……むし?)

 手の甲に這うものを見た瞬間絶叫しなかったのは、それを認識するのに時間が必要だったから。

「ッ!」

 たかが毛虫という無かれ、僕からすれば小学生の頃に蝉を捕りに行って刺された毒毛虫と形状からすれば同系統の『それ』はもはや毛虫であって毛虫でない。

「おわぁぁぁっ!」

 僕は叫びながら毛虫を振り飛ばして木から離れ。

「おい、何だ今のは?」

(っ、しまったぁぁぁっ!)

 砦の方から聞こえた声に思わず頭を抱える。幻影の力で見つかることは無いと思うが、いきなり気づかれてしまったのだ。

(ど、どうする?)

 見つかる恐れがないにしても警戒レベルを引き上げられるのは拙い。それでは捕虜達が自力で脱走したことにする計画に支障が生じてしまうのだ。

「お前はここに居ろ。ちょっと見てくる」

(っ! そりゃ異常が有れば確認ぐらいはしようとするよな)

 状況はどんどん悪くなる。ここで何も見つからず、気のせいだったと楽天的に考えてくれれば良いのだが、砦の方から聞こえた声は明らかに他の誰かと話していた。

(目撃者が複数居るのに何も見つけられなかったじゃ逆効果になりかねないよなぁ。相手を殺すのは最後の手段。というか捕虜が脱走して内から制圧されるなら、最初の犠牲者が外周側の見張りというのは拙いし)

 いっそのこと動物の鳴き真似でもして誤魔化すか。流石に自分のミスをフォローする為だけに付近の動物を殺してアンデッドにするというのも気が引ける。

(鳴き真似するにしても何にするべきかな。そもそもこの辺りの生態系を知らない僕が適当に鳴き真似して墓穴を掘らないかなぁ)

 木々の茂る場所で見かけそうで違和感が無く、だが近寄って確認したいとは思わない様な生き物――となると肉食獣がベストか。

(狼ぐらいならこの辺りにもいるかな。ん、狼?)

 この時僕の脳裏に浮かんだのは、己のミスをフォローする必勝の策。

(普通ならあり得ない幻影を見せて嘘つきに仕立てられれば――)

 狼が来たとホラを吹く羊飼いの少年の話から着想を得て思いついたこのアイデアならいけるかもしれない。

(計画に修正を必要とするけど、黒幕が英雄であるとばれなきゃ良いんだし)

「確かこっちの方だったよな……」

(おっと、準備準備……)

 僕が用意する幻影は裸で踊る美女。何でこんなチョイスかというと、近づいてきている声の主が男性であったことが大きい。

「うん? あれは……」

(もしこの幻影を捕らえて詰問しようとするなら別の幻影に差し替えれば良い。隠れて様子を窺う様だったら策は成功したも同然)

 一応この幻影も囚われている捕虜の身内で、見張りの目を外に向ける為恥を忍んで踊っているという裏設定を作ってみた。

 美女は砦内の裏切り者と共謀し、「裸踊りをする美女が居る」と裏切り者が周囲の兵士へ吹き込み――。

「おい、ちょっと来てみろ」

「ん、何だ? さっきのは何だっ……うおっ!」

「な? 良い眺めだろ」

(裏切ったんじゃなくてただ幻影に騙されて見たままを報告しただけなんだけどね)

 兵の目を別の方へと向けさせる。この隙に脱走を手引きするものが砦内部に侵入したことにするのもいい。最終的に発見者を嘘つきに仕立てて騒ぎを起こす幻影なので誰かが取り押さえようとしたとかギャラリーが一定以上に増えそうなどの状況になれば美女は消すつもりで居る。

(何にしてもこれで若干監視の目も鈍るだろうし、これに乗じて捕虜達が隙を見て脱走する、と)

 思い返すと、策の必勝部分が反則能力(チート)依存だったり捕虜だけで砦を落とす予定に外部協力者が加わったりと結構な修正をしている気もするが、その辺りは臨機応変とか言って欲しい。

(さてと、ここの監視はさっきの毛虫に任せるとして)

 やって来た兵士達が幻影に見とれている間にさっきの毛虫を殺してアンデッド化させておいたのだ。呪いによって外傷無く相手を殺す暗黒神聖魔法で死んだ毛虫は生きているものとほぼ見分けがつかない。後はこの小さな監視者を周辺に分散させれば砦の外に死角はない。

(じゃ、行くか)

 念のため三十匹程のアンデッド毛虫を革袋に入れて、僕はその場を離れた。


と言う訳でようやく砦に侵入。

後半はいよいよ捕虜を解放、砦を落とすことになると思います。


部下にするため、それなりに剣の使える乙女を探す戦乙女。

果たして戦乙女のお眼鏡にかなう捕虜は存在するのか。


続きます。



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