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第二十二話「おしおき(多分後編)」

(これで、良かったんだろうか)

 僕は、寝台に横になったまま考える。

「戦乙女様?」

 横を見れば息の届きそうな場所にフィーナの顔があって、僕はフィーナの声にちょっと引きつり気味の微笑を返した。

 僕とフィーナは同じベッドに寝ている。だが、さっきまでの躊躇や苦悩は何だったのかと言われればはっきりと答えられるだろう、手を出した訳ではないと。

「あ、あの……何故、戦乙女様はご自分をお縛りになったのですか?」

 と言うか、後ろ手に手を縛られた状態で一体何ができるというのか。

「ちょ、ちょっとした精神修行かな」

 どんな修行だ、とかツッコまないで欲しい。一応これも自分に課した罰なのだ。自制心を養う為にギリギリの場所に身を置きつつ、理性のたがが外れた場合のことを考えて自分で自分を拘束した。


「そ、それよりフィーナこそ大丈夫?」

「ふぇ、あ、だ、大丈夫です」

 ちなみに、フィーナの暴走で逆に襲われることも念のために考慮して、フィーナには手足の自由を奪う暗黒神聖魔法がかけてある。

「そ、そう。……あっ」

 お互い体が自由にならないのだ。これなら間違いは起きないだろうと思ったのだが、ひょっとしてこの状況、かなり変態っぽいのではないだろうか。

(しまったぁぁっ!)

 気づけば、ものすごい勢いで墓穴を掘っている自分が居た。

(そもそもこれってどっちかが寝てしまってもう一方がトイレ行きたくなったら……いや、起こせば良いんだろうけど)

 そもそも僕は寝起きが良かっただろうか。

(早まった……とはいうものの余裕なくてこれがお仕置きって言っちゃった後に取り消しって言うのもなぁ)

 そうだ、徹夜をしよう。徹夜をすれば問題はないんじゃないだろうか。

(って、その場合僕がトイレに行きたくなったら――)

 ダメだ、詰んだ気がする。

(いや、パニックになっちゃ駄目だ、落ち着け。第一、ここまでの墓穴を掘ったのも取り乱してじっくり考えず行動したことが原因なのだから)

 今回は落ち着いてじっくりと打開策を練ろう、と決めた僕の胸には。

「……戦乙女様ぁ」

 顔を埋める様にして寝息をたてるフィーナの姿が。

(状況、悪化した……)

 しかも心なしか少し幸せそうな顔で非常に起こしづらい。

(何だろう、これ? 何かの罰ゲー……ああ、罰だったっけ)

 人によってはご褒美かも知れないが、少なくとも僕にとっては結構なピンチだと思う。

 これで朝が来て、フィーナが起きるより早くメイドさんとかが部屋に入ってきて縛られた僕がフィーナと一緒に寝てるところでも見られた日には、絶対変な誤解をされる。

(そう言えば部屋のドアってカギをかけたっけ? フィーナを招き入れた時はカギ開いてたよなぁ)

 外出してからガスの元栓切り忘れたかが気になるのと同じような不安が僕の胸を過ぎった。

 もっとも、過ぎったところで縛られてる状況でなおかつ灯りを消した後では確認しづらい。

(気になる……が、今は忘れよう。寝られないなら寝られないなりに冥王として昨日の二人(リアス達)へどう接するかでも考えておこう)

 僕がこの世界にいるのは乱世を治める為なのだ。時間はできるだけ有益に使うべきなのだ。決して現実逃避している訳ではない。


(冥王から見れば、国を奪われた王族に荷担するメリットもそれなりにあるんだよね)

 王座の奪還に成功すればと言う『取らぬ狸の皮算用』ではあるものの、現在冥王が占拠してる城塞の所有権や資金、物資など欲しいものはあるのだ。

(奪還までに活躍できれば発言権もある程度手にはいるだろうし)

 うまく国の舵がとれれば、後に打てる手が増えるかも知れない。

(何より、戦争すると言うことは死人が出るだろうから)

 人が死ぬことを喜べるほどおかしな精神構造はしていないつもりだが、死者を自分の陣営に加えることのできるネクロマンサーからすれば戦力確保の好機であることは覆しようのない事実なのだ。

(そりゃ、死人はできるだけ少ない方が良いけど)

 なまじネクロマンサーの力なんて持っているとこういう時に複雑なのだ。

(それともう一つ、リアス達に『冥王』の能力をどれだけ打ち明けるかもな)

 常識的に考えれば、死体を操って手駒にするような奴とつるんでるのはたいてい悪役だろう。

(「そんな邪悪な力を持った奴とくつわを並べられるか。俺達は自分達だけでやらせてもらう」とか向こう側に突っぱねられたら話にならないからなぁ)

 この場合、敵側について足を引っ張りリアス達を勝たせるという方法もあるかも知れないが。

(「お家を乗っ取った叔父(リアスのおじ)とその一派」側にも「そんな邪悪な奴いらん」と言われる可能性が残ってるし)

 問題は、どこまで想定して対策を練っておくか、だろう。

(こういう時歴史物の文官や軍師ってつくづく凄い人だったって実感するよなぁ)

 僕も一人ではなく参謀殿が居り、フィーナや他の仲間もいるものの、フィーナは寝ているしこの状況下で参謀殿を呼ぶのは避けたい。

(参謀殿なら話せばわかってくれると思うけど、こんな姿は流石に人に見せられない)

 よって僕は眠れない夜を、何とも言い難い気持ちで過ごした。

「ぅん、戦乙女様ぁ」

「っ!」

 フィーナの独り言に時折過剰反応して身を固くし。

(っ、妙な姿勢で寝たから腕が痺れて……)

 体を縛った状態で寝たことへの副産物と身を捩ったりして戦いながら、ただ時が来るのを待つ――。

 幻影魔法で誤魔化せば良いんじゃないかと思い至ったのは夜が明けてからだった。



考えに考えたおしおきは色々と酷いモノになりました。


次回、多分冥王パート。

果たしてリアス達の反応は、いかに?


続きます。

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