第十九話「助力するか否か」
(テンプレ展開というか、何というか)
かいつまんで言うなら、リアスと名乗った王族の話とはお家を乗っ取った叔父とその一派を倒し、国を取り戻すのに手を貸して欲しいという話しだった。
「敵国とよしみを通じ、祖国を裏切り、国土を売った叔父などもう叔父ではありません」
玉座の簒奪に成功したリアスの叔父は協力してくれた隣国へ謝礼として領土を割譲し、全権を掌握しようと抵抗していた国王派勢力を次々に撃破。かろうじて辺境に逃げ延びたリアスが国王派からすれば最後の希望と言うことらしい。
(いかし、これはフィーナの手に余るよなぁ)
交渉の卓についているのは、もともと王族にはある種のあこがれを抱いている節のあるフィーナであって僕ではない。
「それに、割譲された領土に住んでいた民がどのような扱いを受けているかと思うと」
しかも、相手は情にも訴えようとしている――とは穿ちすぎた見方かもしれないが、ただ玉座と自分が大事なだけの頭が悪いダメ王族で無いことだけのようだ。民を思う口ぶりが己のエゴを押し隠す仮面であるという可能性も否定できないものの、こちらの場合取り繕うだけの知恵が回ると言うことでもある。
(ここで権力をかさにきて高圧的に出るとか、褒賞をちらつかせて釣ろう何て魂胆なら容赦なく叩きつぶせただろうけど)
僕からすれば、この要請はさっさと蹴り飛ばしたい。薄情者と言う無かれ、僕は戦いのない世界を作る為にこの地に降りたのだ。
(リアスが奪還した国を大きくして天下統一、争いはなくなりました……って方法もあると言えばあるけど)
今のところ何処かの勢力に仕官したり影響力を持って、武で世界を平らげるという方法をとる気はない。
(そもそも、平和を目指してるのに権力闘争に荷担するなんて矛盾してるよなぁ)
第一、僕には一応主君が居るのだ。邪教集団に畑や家を焼かれ、ついてくると言った人々を預かって貰っている領主が。
(客将扱いとはいえ、一応所属してる以上、二君に仕えるのはな)
さっさと拠点を手に入れて、世話になっていた領主にも恩を利息付きで返し自由の身になりたいところだけれど、まずは眼前の問題だろう。
「フィーナ、ちょっと脇に寄ってくれる?」
「め、戦乙女様?」
「うん、ちょっと口を挟む」
フィーナの意外そうな声に頷くと、僕は幻影でエフェクトを作り出す。
「話は聞かせて貰ったよ」
虚空に突然出現した少女が、光で出来た翼を羽ばたかせながら降下し、床に着地する幻影。それに合わせて、僕は軽くジャンプし、着地と同時に透明化を解いた。
「「なっ」」
部屋にいたフィーナ以外の者が目を見張る中、僕は名乗る。
「ボクは戦乙女。彼女、フィーナの主にして――自称下級神?」
可愛らしく首を傾げる仕草は神族っぽくは無かったかも知れないが、ちょっとだけゴージャスにしただけだというのに幻惑の力は凶悪だった。横に退いたフィーナが片膝をつき僕を敬う姿勢をとって居ることも効果はあったのだろう。
「神?」
「まさか、信じられ……だが、この光はっ」
今回はちょっとフンパツして纏った幻影へ僕を目にした者が神々しさと僅かなプレッシャーを感じるような付与効果を持たせてある。だからこそ、目の前の二人は僕の言葉を半信半疑ながら受け入れた様だった。
「そ、それで……あなた様が降臨されたのは」
「うん。わかると思うけれど、さっきの話しについて。彼女をスカウトされちゃうとボクが困るんだよね。ホラ、フィーナはボクの……」
そこまで言った僕が言葉を途切れさせたのは、頬を染めたフィーナの期待を込めたまなざしと僕の視線が交差したからなのだが。
(その目何?! いや、期待してるのはわかるけど同性愛疑惑とかかけられるのはちょっと……というか、色々と、ねぇ?)
とりあえず僕は人前では拙いと目で訴えた、訴えたつもりなのに。
「戦乙女様」
うっとりした表情で呼称を口にしないでと頼むのは無理なんだろうか。通じていなかった。
「あー、えっと。フィーナは僕のモノだかっ」
「戦乙女様ぁ」
「ちょ、わっ」
諦めて期待にそってみれば待っていたのは感極まったフィーナの抱擁で。幻影を身に纏っているとはいえ、中身は普通の男なのだ。左の腕を抱きしめられ二の腕に伝わる柔らかな感触は僕を一瞬テンパらせるには充分な威力を持っていた。
「ふぃ、フィーナ! 人前ッ、人前!」
「あ、あの……」
我に返らせようと叫ぶ僕に突き刺さる視線が痛い。
神の威厳なんてあったものじゃ無いだろうし、確実に誤解させたと思う。いきなりのミスだ。
(お、落ち着け。誤解は解けば良いんだ、無理なら口を塞げば良いだけのこと。目撃者は二人、大丈夫、殺ればでき……はっ)
パニックのあまり考えが不穏な方向に転がりかけた気もするが、そんなことは忘れよう。
(しかし、拙いなぁ。断りにくくなった)
本当なら、叔父を一方的に非難するリアスに「一方的に非難すると言うことはそちらにも探られたくない腹があったってことだよね」と指摘、キミの正義は信用できないし神として人の下風に立つ気も家来になる気もないと、と踵を返そうと思ったところだが。
(せめて冥王側ならもっと違う対応が出来たのに……せめて誤解は解かないと)
どうしてこうなった? うん、冥王側?
「返事はあさってでも良い?」
「は、はい」
そうだ、先延ばしにして冥王側で力を貸そう。関わる気はなかったけれど仕方ない。
(冥王側でインパクトのある行動をとりまくる。そして、さっきのシーンをうやむやにする)
この時、僕は冷静さを欠いていたんだと思う。
「フィーナ、あとでお仕置きね?」
「え゛っ?」
ただ、ややこしい自体の引き金になった相手へ通告することだけは忘れなかった。
事態は予期せぬ方向へ。
知と知がぶつかり合う交渉の予定が、どうしてこんなことに
と言う訳で、続きます。