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第十八話「地方領主」

「じゃあ……お願いね、フィーナ」

「は、はひっ」

 若干声の上擦っているフィーナの様子に少しだけ苦笑しつつ、僕は幻影を纏うことで姿を消した。

(村を救ったのはフィーナ率いる勇者一行だからなぁ)

 一応僕も頑張ったのだが、僕が向かった村を襲撃しようとしていた山賊は表向きゴブリンと遭遇して共倒れになった形になっている。

(よくよく考えると、村一つ防衛したなら金一封ぐらい貰えたかもしれないんだよね)

 ちなみに参謀殿の方は、転移魔法で一定以上の高さの上空まで山賊を転移させ、あとは重力に任せるという方法で山賊を全滅させたそうでこちらも自分達の手柄だと名乗り出るには不可解な方法の為名乗り出るわけにはいかなかった。

(物いりなんだけどなぁ)

 大半がアンデッドと言うことで維持コストがあまりかからないとはいえ、『戦乙女』としても『冥王』としても僕は保護した村人を抱えてしまっている。彼らに食べさせる食料か食料を入手する為の金銭は必要不可欠なのだ。

(豊饒神の力とかだっだら何もないところからパンとか出現させられるかも知れないけど)

 僕に出来ることと言えば、アンデッド達に開墾させて食料を生産するぐらいだろう。

(あとはなぁ……)

 もちろん、暗黒神聖魔法で病人や怪我人を治療して報酬を得るとか、傭兵として何処かの戦いに参戦し報酬を得るということも可能だが。

(前者はともかく、後者は一人でやるとススメの涙だし勇者達に協力を頼むわけにはいかないし)

 世界を平和にする為に戦って欲しいと話した以上、金銭目的オンリーの戦いに駆り出すのは、僕としては出来なかったのだ。

(こんなところで躓くなんて……)

 まぁ、いつまでも凹んでいる訳にはいかない。

「ここで褒賞が貰えるといいね、フィーナ」

「そ、そうですね」

 実際村を守った僕達に褒美を出してくれる様な出来た領主だと『冥王』側としての対応がやりづらくなるのは間違いないのだが、今回はあくまで『戦乙女』としての行動だ。出来れば資金は欲しい。


「何者だ」

 誰何の声を向けられたのは、フィーナの姿を見つけたからだろう。声を張り上げたのは門番の兵。

「近隣で村を襲っていた山賊を討った者だ。こちらの領主にお目通り願いたい」

 僕が耳元で指示したとおりの口上をフィーナが述べ、僕達は門番の反応を待った。門前払いを喰らわせるのか、上と掛け合うのか。

「帰るがいい、領主様は今お忙しいのだ。貴様の様な素性も知れぬ輩を通すわけには行かぬ」

 色々想定してきた僕にとって、門兵が非友好的な視線と一緒にフィーナへ槍を向けたことは想定の範囲内。カチンときたのは否定しないが、領主の人となりを知る材料を得られはしたのだ。

(とは言うものの、このまま素直に帰ったら子供のお使いだからなぁ)

 頑張ってくれたフィーナ達にも申し訳ないし、門番の態度だけで全ての判断を下してしまうのも問題だろう。

(せめて領主の顔をお)

「待て」

(ん?)

 少し食い下がってみようかと考えていた僕を我に返らせたのは、門の向こうから門兵にかけられた声。

「お通ししなさい」

「は、ですが領主様は見慣れぬ者を通すことまかりならぬと」

「時と場合によるでしょう。お前が今対応していた女性が本当に山賊を討ったのであれば、領地の恩人に礼を失した態度をとったことになります」

 ちょうど一方が僕の死角になる形で始まった問答の主は門番ともう一人。姿の見えぬ人物は声の質が女性のものにも少年のものにも聞こえ、性別の判断がつけづらいが。

(何だか複雑だよなぁ)

 門番の態度がそのまま領主の態度なら、領主を倒してこの周辺を支配下に置くと言うプランAを実行に移せば良いだけだったのに。

(この分だと融通の利かなかったのは門兵だけだったという展開もありそうだし)

 戦女神側の僕としては褒賞なり何なりで金銭等が手に入った方が嬉しくはあるのだけれど、物わかりのいい領主だった場合『冥王』は力押しで問題を片づけられなくなるわけで。

「話しは私が通しておきます、案内の者をよこしますからお前はそれまで客人のお相手を――」

 今はどうやら領主と面談できそうなことに安堵すべきか。

「申し訳ありませんでした、暫しこちらに」

 態度を豹変させた門番にフィーナが誘導されて行く姿を横目で見つつ、僕は嘆息した。



「山賊を撃退してくれたこと、近隣を治める領主として感謝しよう。これは礼だ、受け取って欲しい」

 謁見用と思われる部屋に通されたフィーナは挨拶もそこそこに領主から頭を下げられていた。

「あ、えっと……」

(っと、いけない!)

 もともとただの侍女だったフィーナにとっては地方の領主といえど権力者に頭を下げられるという状況に免疫がない。

「フィーナ! 平常心、平常心」

 慌てて僕は耳元で囁き、フィーナの身体を軽く揺さぶる。

「はっ、し、失礼しました……」

(ふぅ、こっちは持ち直したな。しかし……この人、どうも態度がおかしい。物わかりが良いと言うより――)

 さっさと用件を終わらせ、有無を言わさず厄介払いしてしまいたいという様な対応にも僕には見えた。

(まぁ、謝礼の量を見る限り本当に感謝はしてくれているのだろうけど)

 場に同席したもう一人の人物を領主が横目でちらちら見ていた事からすると、どうも訳ありくさい。

「では、これにてお引き取り頂きたい。門番も口にしていたかもしれんが私は多忙の」

 だからこそ、領主は面会を早々に切り上げようとしたのだろう。

「私は、リアス・ウォルス。王位継承権第三位の王族にして――」

「っ」

 領主の思惑をぶちこわしたのは、名乗りを上げた同席者。声からすると門兵に取りなしてくれた人物でもある。

(ああ、そう言うことか)

 門番も領主もおそらく、このリアスと名乗った人物の身を案じてあんな対応をしたのだろう。そして、この段階で彼が名乗りを上げたと言うことは。

「山賊を倒し村を守ったというお力を見込んで、お願いがあります」

 やはりと言うべきなのだろうか。つまり、領主側が何らかの問題を抱えていたせいで山賊達は好き勝手が出来ていたわけだ。

(厄介ごと……か、これは)

 十中八九というか、これからされるであろうお願いは、周辺を荒らし回っていた山賊より重大な問題の筈なのだ、少なくともリアスと隣の領主にとっては。

「身勝手は承知だが、どうかリアス様のお話をきいてはくれまいか?」

(ここは、頷くしかないんだろうなぁ)

 斜め上の展開がもたらした衝撃から僕は透明化していることも忘れて頷き。

(って、会話の相手は僕じゃないか。フィーナ、フィーナ、しっかり……)

 我に返って、僕以上の衝撃を受け固まっていたフィーナを再び揺さぶった。

(にしても、これは明日の面談どころじゃなくなってきたような)

 予定はままならない。

「ふぁ、あ……は、はいっ」

 ようやく現実に戻ってきたフィーナがコクコク頷く様を見て、僕は天井を仰いだ。



想定外の王族登場。

そして、リアスと名乗った王族はフィーナに何を依頼するのか。

『冥王』は領主と面談することが出来るのか。


そんな感じで続きます。

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