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第十五話「戦乙女の厄日」

「聖なる光よっ!」

「ぐわっ?!」

 幻影の力を応用して僕の放った閃光が山賊達の目を灼く。

(まずは先手必勝っ)

 子供らしき人影が側にあった手前、自分の力をどこまで使うか一瞬迷ったものの、耳が汚れそうな山賊達の戯言を聞くのは苦痛だったのだ。

(そして、子供を連れて逃げ)

 何というか、城塞で死んだ山賊の魂に行った情報収集が軽くトラウマになっているのかも知れない。何にしても子供を巻き込まないところまで引き離してからと自分自身に言い訳しつつ戦略的後退を図ろうとしたのだが。

「ウキャーッ!」

 近寄ってみれば、僕が子供と思ったのは猿に似た醜悪な顔を持つ人型の何かだった。

(って、ええ?!)

 光に驚いたのか錆びたナイフを構え威嚇するそれに一瞬固まったのは僕のミス。

(ああ。魔法の存在するファンタジックな世界だし亜人種(ゴブリン)っぽいものが居ても不思議はないか)

「うぐっ、あの(アマ)どこ行きやがった」

 初めての亜人遭遇に深い感慨を抱く間もなく、閃光(めくらまし)で一時しのぎした山賊の声が後方から聞こえる。まさに前門の仮称ゴブリン、後方の山賊。

(子供でないとわかっていたらこんなまどろっこしい真似しなかったのになぁ)

 無力な村人がこんな状況に置かれれば大ピンチだろう。しかし、僕には対応手段がいくつもある。たとえば透明になって一方的に攻撃をしか

(……ん? 透明?)

「いやがった。てめぇ、訳のわからね……なっ?」

「キャ?」

 そう、姿を消せばいいのだ。ゴブリンにも山賊にも一瞬惚けた少女が手をポンと打つなり姿を消した様に見えたことだろうが、僕は遭遇した山賊を生かして帰すつもりがないのだから姿を消せると知られても支障はないはず。

(残る問題はゴブリンっぽいものだけど……さて、どういう反応をするかな)

 ゴブリンの方は光で驚いたからこちらを威嚇しただけで本来人間に敵対しない可能性も僅かに考慮して、山賊の態度で対応を決めることにする。良いゴブリンなら加勢して山賊を倒せば良いだけだし。

(まぁ、錆びたナイフ持っている時点で友好的な可能性は低そうだけど)

「ゴブリンだと?」

「キャキャーッ!」

 僕の推測を肯定するかの様に山賊は顔をしかめ、ゴブリンは自身との遭遇に戸惑う山賊達へ飛びかかる。

(顔をしかめただけで襲いかかってるところ見ると、倒しちゃっても問題なさそうだよな)

 目の前のそれゲームや小説で得た知識のものとどこまで近しいかはまだわからないけれど、細かいことは後で参謀殿にでも教えを請えばいいだろう。

「がっ。こっ、この……」

 僕がそんな風に初遭遇した亜人に対する方針決めている間も、先手をとられた山賊はゴブリンに押され、腕や二の腕に浅い傷を作っていた。普通に考えれば体格や身体能力の差から山賊の方が勝ちそうな気もするが、虚をつかれたことと襲いかかられた山賊の装備が災いした。

(ハンマーじゃあなぁ)

 苦戦する山賊が手にしていた武器は両手持ちの槌。俊敏な相手と戦うのは不向きであり、長所になりそうなリーチの差も先手をとられ懐に飛び込まれた時点で短所になってしまっている。

(せめて一人じゃなきゃ状況も変わったんだろうけど)

 閃光(めくらまし)で僕の姿を見失った山賊達は周囲を手分けして探そうとしたのだろう。その結果、この山賊は一人でゴブリンに遭遇し、襲われたという訳だ。

「キャッキャー!」

 ゴブリンはゴブリンで相手が一人、しかも一瞬の隙をつけたこととその後の山賊が防戦一方になったことに気を大きくしたのか狂った様に攻撃を仕掛けている。

「おい、何があっ」

「ご、ゴブリン?!」

 もっとも、ゴブリンの優勢は調子に乗った自身の鳴き声や戦闘の音を聞きつけた他の山賊が集まってくるまでだったけれど。

「てめぇ、害獣の分際で」

「やっちまえ」

 怒号をあげながら山賊達が殺到し、ゴブリンの断末魔が林に響く。案の定というか、山賊数人を相手にした時点で結果は見えていた様な気もする。

「ったく手間をかけやがっって」

「すまねぇ、助かった」

(まぁ、人数差を考えればこうなるよなぁ)

 戦いを終えた山賊達のやりとりを眺めつつ、僕は密かにアンデッド精製の魔法をゴブリンの骸に施し、襲撃させるタイミングを見計らう。

「しかし、なんでゴブリンがこんなとこに」

 山賊の一人が口にした疑問はこちらも知りたいことだったが、ゴブリンの魂とも意思疎通は出来るものなのだろうか。

「さぁな、どっかから流れてでも来たンだろうよ」

「けどよぉ、こんな村の近くに居るんだぜ? 村の連中が襲われてでも居たら最悪手ぶらで帰ることになんねぇか?」

 フンと鼻を鳴らしそっぽを向いた山賊に村とゴブリンの骸を交互に見つつ問いかけた山賊……まどろっこしいなぁ。とりあえずそっぽを向いたのが山賊Aとして、問いかけた山賊Bの疑問に答えたのは、別の山賊だった。

「そいつぁねえよ。ナイフ持ってるとこ見るとこいつは斥候かはぐれってとこだろう」

(おっ、山賊Cはゴブリンに詳しいのか……)

 意外なところから手に入った情報に、このまま少し様子を見ると言う誘惑にかられかけた僕だが、ふといやな可能性に気づく。

(って、斥候で群れがいる場合もあるのか)

 山賊退治とゴブリンの群れ討伐の二本立て、ただでさえ連戦が精神的にきついのにこの上連戦とかは勘弁して欲しい。

(と、なるとのんびりしても居られないか)

 心の中で弱音を吐きつつも僕はアンデッドとして蘇らせたゴブリンに指示を出し。

「で、どうするよ? 誰か報告に戻……がっ」

 相談の途中だった山賊Cが後ろから皮鎧ごと心臓を貫かれ、崩れ落ちる。使い潰すつもりで自己を破壊しない為生き物が通常かけているリミッターを外したゴブリンゾンビは、俊敏性と力の双方が生前よりも遙かに増している。

「ひ、ひぃっ」

「ば、馬鹿な。こいつは死んだは……」

 恐怖し、後ずさる山賊Bも驚き戸惑う山賊Aも気づかない。

(うーん、城塞の規模からして、村を襲撃する山賊って少なく見積もっても一つの村に十人ぐらいはいないとおかしいもんなぁ)

 遭遇した山賊の少なさに違和感を感じ首を傾げつつ僕が施した魔法によって死んだはずの山賊Cがゆっくり起きあがったことなど。

「おい、どうした? さっきのひか」

(なるほど、あの山賊達も襲撃部隊の斥候というか先行隊だったってことかな)

 さっきまでの仲間と倒したはずのゴブリンに襲われ、血しぶきを上げながら崩れ落ちる山賊AとBを見て絶句した山賊の向こう。

「うげっ」

「な、なんだこりゃ……」

「ゴブ……リン?」

 目にした光景に呆然と佇む十名強の山賊達へ自らの血と殺した山賊達の血で汚れた生ける屍(リビングデッド)が飛びかかる。

(不意もついたし、四、五体居ればこの場は何とかなるか)

 山賊達が我に返るまでは一方的な殺戮になることだろう。とにかくここは生ける屍(リビングデッド)に任せて村に行かなければ。

(山賊撃退して村に行ったらゴブリンに襲われて被害が出てましたじゃ目も当てられない)

 僕は自らにスタミナと体力を回復する魔法を施し続けながら村に向かって駆け出した。決して殺戮現場の血とかスプラッターが見たくないから逃げ出した訳ではない。

(急げ、急げ、急げ……ってぇ!)

 全速力で林道を行く僕の前に横から飛び出してきたのは、さっき見たのとよく似た何か。

「だあっ!」

「ギキィー!」

 ちょっとイライラしていたせいか、気がつけば僕は全力疾走からの跳び蹴りをゴブリンの側頭部にぶちかましていた。


敵対亜人登場。

といっても雑魚ですが。


山賊だけかと思ったら村には別の脅威まで迫っていた。

果たして戦乙女は村を救えるのか。


という訳で、村防衛戦はもう少し続きます。

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