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第十四話「裏と表で」

「ごめんね、昨日の今日でまた――」

「いや、昨日の奴らにしろ話の山賊にしろ人事じゃないからな」

 村の防衛を快く引き受けてくれた勇者達へ、僕は恐縮しつつ頭を下げていた。一応僕も昨日今日と連戦の上、つい今し方まで城塞の制圧戦に参加していたとはいえ、これは『冥王』としての活動だし、昨日の戦闘と言うか邪教集団撃退も自分だけソロで行っていた手前、自分から主張するのは気が引ける。

(さぼっていた訳じゃないけど、みんなの前で戦ったことはないからなぁ)

 ついでに言うなら今回も僕は勇者達とは別行動なのだ。まぁ、防衛する村が複数に及ぶ以上仕方ないとは思うのだが、素人同然の剣の腕を見せずに済んでいると言う意味では助かっていると言えるのだろうか。

(よくよく考えると剣を持って戦えないってのは『戦乙女』として拙いよなぁ)

 かといってゲームの太刀筋を参考に幻影を纏わせる訳にもいかない。与えられた僕の力を最大レベルまで活用すれば幻影を現実と錯覚させてダメージを与えることも出来るけれど、毎回同じモーションで斬りかかるなんて現実としてあり得ないし、そんなワンパターンな太刀筋で相手がばったばったと倒されたら不自然すぎる。

(いっそのこと暗黒神聖魔法の攻撃魔法に槍の幻影でも被せて後方から援護射撃に徹してみるか……)

 戦乙女の投槍ヴァルキリー・ジャベリン、とでもすればかっこいいかも知れない。

(けどなぁ、ひたすら槍を投げる戦乙女と言うことになるとかっこいいと言うより滑稽な気がするんだよな)

 そう、投げるのが単発でトドメ的なものなら絵になるだろう。だが、ひたすらバカバカ投げつけてるとなるとどう考えてもギャグシーンにしかならない。

(とりあえず、打開策は次までの宿題にしよう。時間もないし)

 僕は勇者達に気づかれぬ様、密かに嘆息すると勇者達の側に佇んだフィーナに向き直る。

「フィーナ、悪いけど勇者のみんなとこの村のことお願いね?」

 時間的な余裕もない。色々と話さなければならないこともあったが勇者達の前で言える話ではない以上、僕に出来たのは珍しく自分から抱擁したことと耳元でそっと囁いたことだけ。

「また、あとでね」

「は、はいっ」

 驚きの表情が去った後、顔を真っ赤にしながらコクコク頷いてくるフィーナに微笑んだ僕は、声に出さず参謀殿を呼ぶ。

(参謀殿、転送をお願いします)

 城塞で作った山賊のゾンビ達も数班に分けて魔導死霊(リッチ)たる参謀殿の転送魔法で先回りさせ、襲撃部隊の通り道に伏せさせてある。現在地の後方にある村は勇者達に守って貰い、ゾンビ達で防衛の手が回らない村二つを僕と参謀殿が分担して防衛するという寸法だ。

(色々頼んで済みません)

 少々参謀殿には色々して貰いすぎの様な気もするが、僕が力をなるべき使わない様にした場合、何処かにしわ寄せが行くのは当然で。

(何、お前さんと一緒に居ると退屈せずに済むのでの。しかも善行も積めるときておる)

(善行を積む?)

(うむ、長い話になるのでな、おいおい話そう。それよりも)

 楽しそうな口ぶりの参謀殿は、鸚鵡返しに問うた僕の質問に答えながら僕の身体を別の場所へ一瞬で移動させる。

(先に仕事、じゃろ?)

(ああ、そうですね。今は山賊の襲撃を阻止しないと)

 一瞬で変貌した景色の中に、先ほどとは違う荒廃した村を認め、僕は幻影を纏って姿と気配を完全に消した。邪教集団撃退時と同じで芸のない戦法だが、逆に言えば繰り返してしまうほど効果が見込めるということでもある。

(はじめてのひとごろし、かな)

 ここまで僕は間接的にしか人を殺していない、邪教の徒も怪我はさせたが殺さずに追い返している。

(けどなぁ)

 城塞で仲間に殺された魂から山賊の所行を直に聞いて尚、『罪を憎んで人を憎まず』をやる気にはなれなかったのだ。山賊達の犠牲になった村人や旅人のことを思うとやりきれない。

(城塞があっちだから、来るなら正面の林道からか)

 林の向こうに少しだけ見える城塞を横目で見た僕は林の中に足を踏み入れ。

(ん?)

 物音を耳にして振り返る。

(子供?)

 足下に目をやる人影は背が低く、少なくとも僕にはそう見えた。林に薪を取りに来たの村の子供だとしたら、何というか間が悪すぎる。

(さて、どうしたものか)

 村に戻って貰うなら透明化を解くべきだろうが、ここには戦乙女として来ている。警戒心を抱かせない様にするなら、素の姿でなく武装を解いた戦乙女の姿がベストだろう。

「ねぇ、キミ」

 透明な姿から少女へと姿を変え、僕が子供らしき影に声をかけた瞬間。

「おい」

 林の奥から野太い声がして。

「ホラ、村の連中じゃねぇじゃねーか」

「つーか、女だぜ女ぁ」

「よぉ、嬢ちゃん。ちーと、俺らにつきあえや」

 振り返った僕が目にしたのはいやらしい笑みを浮かべた柄の悪い男達。

(最悪……のタイミングで出くわしたもんだなぁ)

「おい、なかなか上物じゃねぇか」

「だなぁ、村の女なんぞより――」

 好き勝手なことをのたまう山賊達を前に、僕は胸中で嘆息した――今日は厄日だと。



戦乙女のピンチ到来。

村人と思われる子供が側にいるこの状況下、果たして戦乙女は山賊を撃退できるのか。


という訳で続きます。


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