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第十三話「ネクロマンサー・ダイエット」

 僕が霊体のアンデッドではなく実体のあるアンデッドを今回の城塞攻略に用いたのは、罠を警戒したからだった。

(狙いは悪くなかったと思うんだけど)

 死体、血、死体、血、血。苦手な者があちこちで目につく光景に吐きそうにはなるわ、精神ダメージを受けるわで僕はこの時相当ブルーになっていた。

(よく考えればこの城塞、拠点に使うなら後かたづけもしないと行けないんだよね)

 気が滅入る。もちろん、作業の大変は今日作った山賊のゾンビ達にやらせるつもりだ。

「食が進まず、必ず痩せます。ネクロマンサー・ダイエット!」

 現実逃避にふざけてみるが、僕の山賊アジト攻略戦はまだボス戦が残っている。

「お頭ぁ、駄目だこいつら。殴っても斬っても死にゃしねぇ」

「やめろ、来るな来るなぁぁ!」

「お頭、このままじゃ」

 せっぱ詰まった声と怒号や悲鳴、戦いの音を頼りに進めば、足の骨を砕かれたのか這いずる白骨の姿を見つけて。

(ああ、せめて自己再生能力付きにしておくべきだったか)

 作成したアンデッドのレベルを抑えたことで、アンデッドに被害が出ていたことに僕は驚き、少し反省する。

「君は確か……」

 足を砕かれていた動く白骨(スケルトン)はこの城塞を根城にした山賊の犠牲者で掠われた家族を助けようと潜入し、返り討ちにあったと当人に聞いている。その分ある程度の自我を持たせ、アンデッドの指揮官役にと仲間内のもめ事で殺された山賊のスケルトンよりハイスペックで作成したはずだったのだが。

「なるほど、罠にやられたのか」

 頷く白骨を横目で見ながら視線を巡らせれば、半開きの扉が視界に入り。

(ちょっと寄り道してみるか)

 ここで待っていてねとスケルトンに言い含め、罠除けのアンデッドに命じて先行させる。中で山賊が待ち伏せているかも知れない。

(まぁ考え過ぎかもしれ)

 自分の考えに苦笑しつつアンデッドの開けた扉の奥を見た僕は、一瞬言葉を失う。

(都合がよすぎじゃないかなぁ)

 開け放たれた扉の向こうは武器庫だったらしい。アンデッドの襲撃に慌てて武器を取りに行った山賊が扉を閉め忘れでもしたのだろう。長剣、短剣、斧に弓。

「鎧まであるや」

 ひょっとしたらもとは城塞に詰めていた兵士用のものだったかも知れないが。

(鉄のブーツを義足代わりにすれば、多分歩けるよな。いや、いっそのことちょっと改造するか)

 スケルトンを動かす核である魂を転用すれば、上位のアンデッドに強化するのも難しくはない。

「魂だけ鎧に移して生ける甲冑(リビングアーマー)にするか、彼に鎧を着て貰って白骨戦士スケルトン・ファイターにするか……」

 どちらにしても戦闘力は飛躍的に向上する。もっとも、ベースのスケルトンは生前が村人であることを考えると本来のそれに色々と劣るだろうけれど。

(いや、劣るんだったら育てれば――)

 モンスターを仲間に出来るゲームで仲間モンスターのレベル上げをした記憶がふっと浮かび、僕は思いつきを実行すべく歩き出す。

「そう言うわけで、取引という形で申し訳ないんだけど……本懐を果たしたら僕の仕事を手伝ってくれないかな?」

 実戦経験を積むと強くなると言う特性を組み込むこと、戦闘力向上の為に武装して貰うことなどを説明し、素の口調で僕はスケルトンを勧誘する。この城塞の山賊達とは違い長い付き合いをして貰いたかったからだ、何故なら。

(周辺の村の村人なら囚われていた人達と付き合う時のクッションと言うか橋渡し役になってくれるかもしれないし)

 もちろん、橋渡し役時は幻影を纏って生前の格好をして貰うつもりで居る。

「最終的にはここの城主名代を任せるかも知れないけどね」

 ざっと説明して、僕は返答を待った。この間も先ほど戦闘音のしていた辺りからは怒号や悲鳴、断末魔が聞こえてくることから戦闘は継続中なのだろう。

「そう、ありがとう」

 視線を戻した僕はスケルトンがゆっくりと首を振るのを見届け、感謝の言葉に続いて施術に入る。

(一応最終的には留守番任せるんだからある程度高性能で――)

 ネクロマンサーの力で自己再生能力を与え、闇の力で初歩の暗黒神聖魔法を使用可能にする。実戦経験を積むことで強化されると言う能力には、おまけに一定以上の力を得た場合上位アンデッドに成長できる能力をつけてみた。

「どうかな、問題なくできたと思うけど」

「ええ、ありがとうございます」

 僕が口にした言葉に舌も声帯もないのになめらかな礼の言葉が返ってきた時、既に強化は終わっていた。

「貴方は姉を助けて下さいました」

「じゃあ、地下牢の人の中に」

 無言で頷いた白骨戦士スケルトン・ファイターは地面に転がった長剣を拾うと立てかけてあった皮製の盾を装備し。

「行きましょう、微力ながらお力に」

 踵を返して歩き出す。

「あ」

「どうしました?」

「いや、なんでも……」

 白骨戦士スケルトン・ファイターへはそう返しつつも僕は一つの失敗を悟る。鉄のブーツは歩くたびガチャガチャと五月蠅いのだ。

(これじゃ、近づいてますよって言ってるようなものだよなぁ)

 まぁ、山賊の武器庫にあったと言うことで今回は味方と勘違いしてくれるかも知れないが、隠密行動の同行者には相応しくないだろう。

「何にしても、まずはここの制圧だ。罠には気をつけてね」

「うっ……ぜ、善処します」

 歩みを止め微妙に引きつった声を返してきた新たな仲間へ、僕は生ぬるい視線を向けながら歩き出す。

「こっちだと思うけど、山賊には出くわさないね」

「そうですね」

 ゾンビ達の戦果か、前衛ががちゃがちゃ鉄の靴を鳴らして進んでいると言うのにいっこうに敵の姿はない。味方というか、ゾンビなら何体も見かけはしたが。

「そもそもこの城塞の規模と聞いた噂の割には山賊の数が少ない様な……」

 この時僕が思い浮かべたのは、村へ襲撃中で拠点が手薄になっていた可能性。

「考えられますね」

 白骨戦士スケルトン・ファイターは僕の懸念に同意して。

「私の故郷も心配です。急ぎましょう」

 靴のがちゃがちゃをいっそう五月蠅くしながら鉄と骨で出来た戦士は戦闘の音を頼りに駆け出した。



「音がしてたのはこの角を曲がっ」

 曲がった先、と言いたかったのだと思う。

「これは……説明とかに時間割きすぎたかなぁ」 

 絶句した白骨戦士スケルトン・ファイターの見た光景は、僕の見たものと同じ――山賊ゾンビ数体に群がられ、満身創痍になりつつも斧を振るう頭らしい山賊の姿。

「止めよ」

 『冥王』モードでとっさにゾンビ達を制止しなければ、多分山賊の頭は部下だったものに殺されていたんじゃないだろうか。

「無様な有様よな」

 内心はやりすぎたと一筋の汗でも垂らしたいところだが、『冥王』におふざけは要らない。と言うか許されない。

「や、やかましい! なんだてめぇらは」

「我は『冥王』。生と死の道理をねじ曲げ、死者を使役する者」

 虚勢を張りつつも怒鳴りつけてきた山賊頭へ、動じぬ風を装って僕は名乗る。

「死者を操るだと?」

「見ての通りだ、現に汝が部下達は我が命によって汝に刃を向けたであろう?」

 そもそも、僕の仕業でなければゾンビ達は制止の声を聞き入れなかっただろう。

「くっ、な、何が望みだ?」

 僕の実力をかいま見、かつトドメを止めたことで交渉の余地が成り立つとでも思ったのだろう。だが、それは思い違いというもの。

「望み?」

「へ、へへ……か、金か? 女か? それとも」

 僕の問いに山賊頭は誤解を深めた様だったが。

「愚かなり」

「はっ?」

「汝が根城をあっさり陥落せしめし我が力。振るえばそのようなものいくらでも手に出来よう?」

 もちろん、そんなことをする気は更々ない。

「そもそも、汝が言う金も女もこの城塞が落ちた今、手にしているは我であろう?」

「うぐっ、だが俺にゃ今村を襲ってる部下もいる。野郎共が戻ってこりゃ」

「既に金も女も得た、もっと欲しかったとしても戻ってくる汝が部下をだまし討ちにして奪い取れば良いだけのこと」

「……じゃ、じゃあ何だってんだよ?」

 譲って貰う必要もないと暗に言い、聞き返してきた山賊頭に僕は告げる。

「我が望むは害虫の駆除。まずはここに一匹――」

「は?」

 聞き返してきた山賊頭は気づいただろうか。小さく頷いた白骨戦士スケルトン・ファイターが一歩前に足を踏み出したことを。

「そして、余興。初陣、見事勝利で飾って見せよ」

「はっ」

「ぬおっ?! ほ、骨が動い――」

 斬撃を急に見舞われ、傷ついた身体でとっさに受けたのは流石と言うべきか。

「そを退けること叶わば、今回は汝を見逃そう」

「なっ、ほ、本当だろうな?」

「『冥王』に二言なし」

 僕の言葉で命が助かるかも知れないという希望を見いだした山賊の頭は息を吹き返し。

「ただし、そを倒すことなく逃げれば、汝が元部下がどこまでも追いかけて汝を滅ぼす」

 僕は釘を刺した後、一歩退いて見届け人となる。

「へっ、上等だぁ。こんな骨野郎俺の斧で」

 言いつつ山賊頭の振るった斧が、皮の盾を半ばから断つ。

「次はその兜をたたき割ってやらぁ!」

 僕が見る限り、傷だらけとはいえ斧の動きに遜色はない。だからこそこれまで山賊の頭を張ってこられたのだろう。

「おらぁっ」

 振り下ろされた斧が兜は逸れたものの、肩口から鎧ごと肋骨を断ち折りながら振り抜かれ。

「は、ははは……どうだ、倒したぞ! 約そ」

 僕の方を見ながら血まみれの顔で笑った山賊頭の顔が固まった。直後に口から大量の血を吹き出して。

白骨戦士スケルトン・ファイターを倒すなら四肢を狙うべきであったな」

 胴を長剣で貫かれ、崩れ落ちた骸を僕は冷ややかな目で見る。とりあえず、これで城塞は制圧したと見て良いだろう。

「肉を切らせて骨を断つ……いや、骨を断たせて肉を貫く、になるかな? ともあれ、見事だったよ」

「ありがとうございます」

「うん」

 新たに加わった仲間を労い、礼の言葉に浮かべた笑顔を僕はすぐに引っ込めて。

「ただ、のんびりもしてられないんだよね」

 呟きながら声に出さずに参謀殿を呼ぶ。

「出払ってる山賊達を何とかしないと」

 こちらの使える戦力は山賊のゾンビ達と参謀殿、僕も動けると言えば動けるが。

(村の一つはフィーナと勇者のみんなにお願いしても良いかな)

 流石に疲れるなぁと胸中でぼやきながら僕は参謀殿に連絡と転移魔法による転送を頼むのだった。



『冥王』の腹心候補登場。

フィーナと参謀殿に続いて三人目ですが、実力は遠く及ばず。

成長して化ける子なので長い目で見てあげて下さい。


そんな訳で次回からは村防衛戦を『戦乙女』と『冥王』両パートで行って行く予定。


では、続きます。

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