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第十一話「復讐者といっしょ」

(さてと、どうしたものかなぁ)

 結局の所、拠点の無かった戦乙女の僕に出来たのは、近隣の領主に一時的な保護を頼むことだった。評判の良い領主を選んだことと僕達が実際に邪教集団を撃退していたこともあって、僕は客将扱い勇者や村人達は私兵という待遇で一時的なものとはいえ身の置き場を確保することができ――。

(何処かに売り込むにしてももうちょっと色々活躍して名声を得てからのつもりだったんだけどなぁ)

 人生はままならない、と嘆きつつ僕は幻影を解いて参謀殿と共に半壊の城塞を眺めていた。

「ここがこの辺を荒らし回っている残虐非道な山賊の巣窟だっけ?」

「らしいの。で、お前さんはここをどうするつもりかの?」

「うーん、手加減しなくて良い相手だからなぁ。単に労働力としてのアンデッドを作るならこういう輩の死体を使うのが良心はあまり咎めなそうだけど」

 かなり物騒なことを口にしながら同時に考えるのは、この城塞の攻略法。今の僕が『冥王』である以上勇者達の力は頼れず、参謀殿の攻撃魔法では。

(掠われて囚われている人が居るかも知れないし、派手に壊すと拠点に使えなくなるからなぁ)

 となると、邪教集団を倒した時と同じ手で単身突入し、一人一人倒して行くか。

(いや、山賊の拠点なら罠を設置してる可能性もあるし。どうし……ん?)

 ああでもない、こうでもないと考えていた僕の視界にちらりと白いものが見えて。

「これは、骨?」

 動物のものか人のものかもわからないいくつもの骨が散らばる一角はゴミ捨て場代わりなのだろうか。

(うわっ)

 近寄ってみればすえた臭いがし、正直目を向けたことを後悔する様な光景が広がっていた。僕から見ればゴミと腐りつつある何かの死体などが主な構成物なのだが、こういったものを自然に還す生き物達にはご馳走なのだろう。

「まぁ、こういう場所まで几帳面に片づけてる山賊が居たら逆に怖いけど」

 虫がうじゃうじゃ湧いてるのはいただけない。勇者達の面倒を見ていて貰うという名目でフィーナを連れてこなくて良かったと思う。

「城塞攻略……一応、だいたいの見通しはついたかな」

 始めに僕が使ったのは、ネクロマンサーとしての力。

「命なくして久しき者共よ、我が問いに答えよ」

 おそらく散らばる骨には人骨も混じっているだろうと判断して骸が主の魂を呼び起こす。参謀殿の集めてくれた情報もあるのだけれど、情報は多いに越したことはないだろう。

(必要なことだけ聞き出せば、情報が多すぎて混乱してしまうなんて事もないよな)

 もっとも白骨化するほど時間の経った死者からの情報だ、新鮮さには欠けるかも知れないけれど、欲しい情報の一つでも知ってれば儲けもの。

「ちくしょう、イカサマなんてしちゃいねぇのに」

(……なるほどね)

 しょっちゅう未練やら自分を殺した相手への恨み言を言う情報源の魂は、仲間内の賭け事でもめ私刑にかけられて殺された山賊のものだったらしい。

(つーか、精神的に疲れるわ)

 なんと言えばいいのだろう。情報を得たのは嬉しいのだが、価値観や倫理観が全然違う相手との会話は疲れる。村を襲って何の罪もない人々の生活を奪う様を自慢話として語られた時は、浄化魔法をぶつけて消し飛ばしてやろうかと思ったし、そのほかにも数個、聞くに堪えない話を聞かされるハメに陥ったのだ。

(流石にこれは成仏させなくて良いよね? むしろ魂粉砕して魔力に還元するとか)

 とりあえず、一片の慈悲もかけずに殲滅して良さそうだとわかったことも収穫と言えば収穫なのだろうか。

「立つがいい」

 僕はとりあえず、周囲の死体や骨を使って作れる限りのアンデッドを作成し命じた。

「汝等が命を奪いし者を絶やせ」

 ただし、動物のものらしい死骸や骨から作ったアンデッドにはこの命を与えない。囚われて料理人として働かされていた捕虜が絞めた鳥とか豚が原材料だった場合、被害は罪もない捕虜にまで及びかねないからだ。

「と、言うわけで……アンデッドを陽動兼罠除けに使ってとりあえず城塞内に忍び込んでみます」

「なるほどの。それでお前さんとこの死者達は良いとして、ワシは」

「参謀殿には逃げ出した山賊の殲滅と、逃げ出せた捕虜が居た場合、そちらの保護もお願いしますよ」

 頷きに続いて問いかけてきた魔導死霊(リッチ)の参謀殿に要請を出しながら僕は幻影の力で気配消しを兼ねた透明化を自分に施し、攻撃命令を出さなかった元動物のアンデッドを罠除けに先行させながら歩き出す。

「うぎゃぁぁ!」

「骨が、骨があぁっ!」

 近寄ってくる白骨(スケルトン)の姿を見て絶叫した見張りらしい山賊が悲鳴を上げながら逃げ出す姿を視界に収め。

「がっ」

「うがっ」

「へ?」

 城塞の入り口を入ってすぐのところから上がった悲鳴を聞いて僕は思わず声をもらした。動く白骨(スケルトン)達はまだ城塞に入っていない、剣の代わりに錆びたナイフや折れた椅子の足などを間に合わせの武器として持たせてはいるが、攻撃した様子もなかった。

(一体どうし……あー)

 透明化の効果もあって身を隠す必要もなく入り口に辿り着いた僕が見たのは、血まみれで天井からぶら下がった鎖付き鉄球と顔面や胸部に致命傷を受けて倒れた山賊の骸。見張り達が動転するあまり城塞内の罠に自分で引っかかった、と言うことらしい。

「流石にこれは同情してやるべき何だろうか?」

 何て事を考えつつも僕は死んだばかりの山賊達を復讐者達の戦列に加える。敵の死者が純粋にこちらの戦力になるというのはある意味チートなのかも知れない。しかも、なまじ味方の姿をした敵になる為、山賊達からすればきわめてタチの悪い相手となることだろう。

(顔が損傷した方は無理だけど、胸の方なら誤魔化せば生きてる様に見えるかな?)

 上手く誤魔化せれば潜入が少し楽になるかも知れないと考えつつ。

「おい、何だ今の悲鳴は」

「目の前の山賊二人を始末しろ」

 見張りの悲鳴を聞きつけて現れた山賊に僕は作りたてのアンデッドをけしかける。

「ちょっ、お前どうし……」

「ひっ」

 胸を潰されたアンデッドへ山賊の一人が声をかける隣で顔面を潰されたアンデッドの姿を見た山賊が息を呑む。

(さぁ、悪夢の始まりだ……)

 B級ホラー映画か何かを地で行く光景を繰り広げる山賊アンデッド達と犠牲者を見ない様にしつつ――現実逃避を兼ね、僕は胸中で呟いた。ああ、スプラッター。



いやー、正義の味方とは間逆というか、今回は実に『冥王』らしい活動になっています。

この分だと、どうやら活動拠点ゲットは『冥王』側の方が早くなりそうですね。


次回もこのまま山賊アジト攻略戦の予定。


もちろん続きますよ

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