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第十話「後悔と奇跡」

「戻ってくるんじゃなかった」

 などと僕が小声で口にしたのは仕方のないことだと思う。村のあちこちに横たわる死体と血まみれのフィーナ達や村人を見て、顔を背けたくなる気持ちと抗いながら――僕は作り笑顔に微笑の幻影を重ね、村の中央へと向かい歩き出す。

「よかった、キミ達は無事だったみたいだね」

「えっ、あ……め、め……戦乙女様っ」

 僕は何というか今にも吐きそうなんだけど、などとは口に出さず抱きついてきたフィーナの言葉の先を察して頷きを返す。一瞬、冥王と呼びそうになったのはまだ慣れてないからなのか、姿の見えなかった僕を心配していたからなのか。

(参謀殿は僕が戦線を離れた理由は言っていないと思うけど、心配させちゃったよなぁ)

 少し悪いことをしたと思いつつ、抱きついてきたフィーナの髪を撫でる僕だが。

(何というか、これ端から見るとどう見ても不自然……)

 男女での抱擁ならわかる、事実僕とフィーナは男と女。素の姿なら良いのだろうけど、あいにく今の僕は少女の幻影を纏っているのだ。この世界で同性同士の恋愛がどれだけ認知され、どういう目で見られているかは知らないものの、上官の無事を喜ぶ部下のアクションで誤魔化すにはオーバーすぎる。

「えーと、フィーナ?」

 頬を染めるな、幸せそうな顔をするな、とツッコむ訳にもいかず、僕はやんわりと声をかけると出来るだけ優しくフィーナの身体を引きはがそうと試みる。

(いけないいけない、早く怪我人の手当をしないと)

 村人の平穏な暮らしを奪おうとして、実際奪ってきたであろう邪教の徒はどうでも良いが、犠牲者である村人達は出来うる限り救いたい。もちろん、死者蘇生は使えないけれど。

「フィーナ、怪我人の治療をするから。勇者のみんなは少し向こうに下がってて」

「あっ、も……申し訳ありません」

「わ、わかったぜ」

 直接言ってようやく僕の意図がのみこめたらしいフィーナが我に返るなり恐縮しつつ距離を取ったのと勇者達が下がったのを確認して僕は幻影に翼のエフェクトを追加しつつ、傷を癒す力をもつ魔力の奔流にも神々しいイメージで装飾を行った。ここで素の暗黒神聖魔法を疲労すれば、最初の失敗の繰り返しなのだ。

(よし、これなら不気味には見えない)

 フィーナはともかく、ネクロマンサーの力で存在する勇者達は回復魔法で逆に即死する可能性がある。彼らを効果範囲に入れない様に細心の注意を払いつつ、僕は小声で詠唱を始めた。

「我に力授けし漆黒の(かみ)よ――」

 はっきり言って、今の僕は自称下級神なので詠唱で誤魔化す必要など無いのだが、無詠唱が癖になってしまうと冥王の時に『ついうっかり』で無詠唱の魔法行使をしかねない。転ばぬ先の杖という事にして貰えるといいな、何て心の中に誰に向けてかわからない弁解をしながら、僕は癒しの力を解き放った。

「我が願いに代えて、傷つきし者らに慈悲を!」

「おおっ」

「光が、光が……」

 まばゆい光の輝きが照らされた怪我人の傷を癒して行く。こういう時、ゲームをやっていて良かったなと切に思う。コントローラーを握りしめ、テレビ画面で見た回復魔法のエフェクトを参考にしたせいか、癒しの光(ごまかしのみため)は出来が良い。

「奇跡だ、神の奇跡だ!」

「ありがたや、ありがたや……」

 |重傷ですら一瞬で完治するこの世界では考えられないレベルの回復魔法ちーと・ひーりんぐは村人達には神の奇跡と映ったらしい。魔法の認知度が低いのか回復魔法のレベルが高すぎて魔法と知覚されなかったのかは不明だけれど。

(何にしても、これで村人の方は良いかな? あとは亡くなった人の中に勇者になってくれそうな人がいるかだけど、こっちは難しいよなぁ)

 邪教徒が狙った時点でこの村には戦える人間が、殆ど居ないはずなのだから。

(ま、一応勧誘はするけどね)

 襲撃の犠牲者とその家族を対面させる――現勇者達にも行った家族との面会だけでも僕はさせてあげたいと思ったのだ。おそらく戦力増強は見込めないと、慈善事業になることを覚悟の上で。



「戦乙女様、どうか僕を仲間に」

「わしもお連れ下され、この恩に報いぬ事には――」

 どうしてこうなった、と僕が頭を抱えるハメになったのは一時間ほど後のこと。意外なことにスカウトに応じる死者はかなりの数に上ったのだ、問題は大半が子供や老人という非戦闘要員であったことと。

「じいさまが行くなら、わしも連れて行ってはくれんかのぅ?」

「どうか私もお連れ下さい、あの子が行くなら――」

 生者まで同行を希望してきたこと。いくら何でも早すぎるだろうと全力でツッコミいれたくなるような『民を連れて逃避行フラグ』回収時期の到来。そもそも僕がフィーナを除いてアンデッドしか連れていないのには、ネクロマンサーとしての力を最大限に活用するというもの以外の大きな理由が一つ存在する。死者は飯を食わないのだ。

(生きてる人間連れて行くにしても一体どこに連れて行けと?)

 生者を側に置くなら衣食住の全てを確保する必要がある。

「あの、戦乙女様……城主様の」

「うーん、それもちょっとなぁ。フィーナは返したくないし」

「戦乙女様……」

 フィーナの元奉公先だった城のような本拠点を構えていれば話は別だったのだが、奉公先の元城主には城ではなくフィーナを貰うと話をつけて出てきてしまっている。

(出戻り、とかないよなぁ)

 今更あの城の厄介になるのはいろんな意味で恥ずかしいし、約束を違えることになる。

(お金に拠点に食料含む物資……必要なものだらけだ)

 感極まったフィーナに抱きつかれて、不自然な光景を村人や勇者達に見せつけながら、僕は遠い目をする。明らかに、前途多難だった。



予想外の展開で途方に暮れる戦乙女。

問題は山積みだが無事解決できるのか?


といいつつも次回は『冥王』側メインの予定。


果たして問題の解決法とは?


続きます

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