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第九話「戦乙女の出撃」

「えーと、キミ達のことを今後ボクは勇者と呼ぶよ」

 これから共に戦ってくれる人を相手にいつまでも死者は拙いというのもあるが、彼らと僕がこれからスカウトするであろう人達を区別しておく為の呼び名が欲しいと思ったのも事実。『勇者』という名称に決めたのは、もちろん僕が戦乙女を名乗った事に起因する――それを、何故このタイミングで口にしたかと言えば、フィーナが心の平静を取り戻せるまでの時間稼ぎというわけだ。

(僕のせいと言えば僕のせいだからなぁ)

 まぁ、転生してから一日も経っていないというのに、人前に出したのは僕の失敗かも知れない。いくら生前と亡霊時の記憶や経験が残っているとはいえ、心の準備とか色々あるだろう。約束の時間に間に合わないとか、フィーナへの説得と説明で僕が精神的に消耗していて余裕がなかったなどフィーナには関係ない僕の都合だ。

(こう、考えなしに行動してたことが後から後から実感できて凹む)

 などと愚痴る資格など今の僕にはないだろう。この時間稼ぎだって罪滅ぼしだなどと言ったら噴飯ものだ。

(うん、フィーナには後で謝っておこう)

 僕は心に決めて勇者達へ説明を続ける。

「それで……キミ達にもフィーナにも初仕事、というか初陣になるんだけど」

「邪教集団?」

「うん、そう。貧困と戦乱にあえいだ民が宗教に――ありがたい教えにすがる、ってところまでは問題ないと思うんだけどね」

 教えの名の下にその集団が行ったのは、夜盗まがいの略奪や殺戮だったりするわけだ。

「襲われるのはたいてい自警団とかそう言った防備を持たない小さな村とか戦に男手を奪われて戦える者の居ない村とかだけどね」

 この場にいる勇者達も元は村人だ、言わんとするところは伝わるだろう。

「そ、それでその邪教集団ってのは」

「ああ、聞いたことはないが俺達の村は大丈夫なのか?」

 返ってきた反応も想定通り、ご近所にそんな危険な輩が迫っていれば、明日は我が身かもしれないのだから。

「大丈夫、一応これは隣国の隣国、しかもそこの北東部のお話だから。とは言っても、ボクの立場上放っては置けないわけで」

「なるほどな、あんたの言う新たな戦いの場ってのがそれか」

「まぁ、夢物語と言われるかも知れないけどね。ボクの目的は戦乱を終わらせて人々が平和に暮らせる世界を築くことなんだ」

 勇者の一人が発した声に頷き、僕は神々から頼まれた本来の使命を勇者達に明かす。流石に僕の正体までは明かせないが、一緒に戦ってくれる相手である以上、仁義というか礼儀は守っておきたい。

(邪教がらみの賊軍討伐から名を挙げてゆくゆくは大きな勢力に……民を連れて逃げまどったり義兄弟を殺されて逆上のあまり敵の火計にかかって大敗北とかしないと良いけれど)

 元居た世界、何処かの国の古い英雄の生涯を何となく思い出しつつ僕は横目でフィーナを見た。

「それじゃ、行くよ」

 もう大丈夫、ということだろう。こくりと頷いたのを見てさっと片手を挙げるが、これは参謀殿への転移の合図。



「うわぁぁぁ」

「誰か助け」

 転移魔法によって周囲の景色が一変し、最初に飛び込んできたのは悲鳴と救いを求める声だった。

(少し遅かったか……ん?)

 目の前の惨状に僕はほぞを噛むが、視界に映った参謀殿は小さく首を振って杖で遠方を指し示す。

(あれは)

 杖の先にあったのは、小さな村。僕にしか見えない様幻術で覆った参謀殿のジェスチャーを僕が正しく理解できたのなら。

(そうか、救う予定だったのはこの村じゃなかったのか)

 転移途中に一つ手前の村が襲われている様を察知し、転移先を強引に変更したらしい。

(ま、どっちにしても見過ごせないよなぁ)

 救える命が一つでも増えるなら、ここは躊躇っている場合ではない。

「フィーナ、みんなの指揮をお願い。それと、基本的にキミ達は生前より丈夫で強くなってるから遅れはとらないと思うけど、気をつけて」

 前半はフィーナへ、後半は勇者達に告げると、僕も幻影の剣を抜いて地を蹴った。

「参謀殿、僕をあの村の手前に」

 だが、僕がしたのは村人を助けることでも邪教の徒を斬りつけることでもなく、参謀殿に駆け寄って短距離の転移を頼むことだった。

「何故じゃ……むっ」

 参謀殿も気づいたのだろう、僕が気づいた邪教徒の別働隊に。

「僅かなタイムラグはあったけど予定通りだったみたいだよ」

「じゃが、『勇者達』もフィーナ殿もこの村で手一杯じゃろう?」

 そう、いくら強さの底上げをしていると言っても勧誘できた勇者達では二つの村を守りきるのは難しい。僕のキャパシティでは説得と説明が間に合わないこともあり、最初に勧誘できた勇者達は大きな戦場の一端に過ぎなかったのだ。後に聞いた話では『冥王』の介入を他国の干渉と誤解した両陣営は一時的に停戦し、もはや居もしない『冥王』を探しながらの膠着状態が続いているらしいが、今はどうでも良い。

「大丈夫、ちょっと力を使っちゃうけど足止めぐらいならボク一人だけで充分だよ?」

 実は僕には勝算がある、人には見せられない様な汚い作戦ではあるのだが。

「本当かのぅ、何ならワシもついて行くが」

 僕の目と声に自信を感じ取ったのだろう、最初はそんなことも言っていた参謀殿だったが僕が制し。

「みんなをよろしくねっ」

 ビッと指を立ててお願いすると、微妙な表情を浮かべつつも頷いた。一応、これも役作りなのでそんな反応はしないで欲しいなぁ、とか思ったけれど僕も口には出さない。


「さぁ、本日の『一人でできる邪教集団撃退法』は戦乙女の極悪非道なゲリラ戦」

 冗談めかしたことを口にしつつ、僕が自分に施したのは肉体の透明化及び気配と音の完全消去。透明人間状態になって誰にも気づかれなくなる、という幻影を纏ったわけだ。

(これ、本当に反則だよなぁ。他に使える人間居ないと良いけど)

 つい最近遊んだゲームにこれと似た状態になるアイテムがあった。効果は絶大、チートというか完全にゲームバランスを崩壊させる。敵がこちらを認識しなくなる為一方的に攻撃して相手を倒せるのだ。しかも、町中で盗みをしようが人を殺そうが認識されない為に捕まらない。

「さて、この状態でボクが敵に襲いかかったらどうなるでしょう?」

 いくら素人とはいえ刃物は持っている。昨晩泊まった城で城主の亡霊から餞別に貰ったのだ。


「クスクスクス……あーそぼ?」

「あ?」

 息を殺し村に迫ろうとしていた邪教の徒達は大混乱に陥った。最初にわざと声だけ聞かせて、適当に剣で突きを繰り出す。犠牲者もゲームでは立ったまま悲鳴を上げて傷ついて行くだけだったが、血の通った人間ではそうもいかない。

「ぎゃああっ!」

「悪魔だ、悪魔が出たぁぁっ!」

 少女の声が聞こえたかと思った直後、仲間が何かに刺されて傷つき、あるいは倒れて行く。こんな光景にさらされたら僕だってパニックに陥るだろう。僕はタチの悪い怪談を現実のものにしながら、一応殺しはしない様に急所を避けつつ突きを繰り出した。目的は相手を殺すことではなく、撃退することなのだから。

(やっぱり剣の扱いって難しいなぁ)

 と、のんびり胸中で呟いてみるが、これは現実逃避。僕は血や内臓とかを見るのが苦手な人間としてはこうでもしないと追い散らす前にこっちが逃げ出してしまいかねない。

「ねぇ、もっと遊ぼうよー? うふふふふふ……」

 などと一見ノリノリでやっている様に見えて、心の中ではさっさと逃げ帰れと辟易しているわけだ。ただの幻影だけで追い返すことも出来るのだが、相手は人を殺傷して者を奪おうなどという輩、些少は痛い目を見なければまたやってくる可能性がある。

「うぎゃあぁ、殺されるー」

「退却、退却だー」

(ふぅ、ようやく終わった)

 ようやく襲撃部隊を退却に追い込んだ時、僕の着衣は赤黒い斑だらけでとてもではないが幻影を解除できない有様になっていた。

「血の染みって落ちにくいんだよなぁ」

 などと顔をしかめる余裕などなく、よたよたとした足取りで時々ふらつきながらフィーナ達が戦って居るであろう村へと向かう。

「おっと」

 この時の僕はまだ知るよしもない、この森が呪われた森と呼ばれる様になった由来を。よろけて僕のつけた血の手形が怪談を裏付ける証拠になったなどと言うことも。


やはりチートな能力ですね。

そんな訳で今回は『戦乙女』活動の第一回となります。


次回は第一回活動の後始末編の予定。


もちろん続きます。

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